●LONG BLACK HAIR●
進藤の付き合っている人は、綺麗な長い黒髪がトレードマークのすごく美人な女性だ。
知的で、料理も上手くて、性格もよくて、全てにおいて文句なし。
一体どこで見つけてきたんだ、と友達の棋士達から付き合い始めた当初から羨ましがられていた。
そしてそんな完璧な人だから……彼も決断したのだろう。
「結婚することになった」
彼が僕に挑戦する名人戦・七番勝負。
前夜祭の時に、進藤が僕に報告してきた。
「……そう」
「まだ内緒だからな。オマエからタイトルを奪った後で公表するつもりだから」
「お生憎様。渡すつもりはないよ」
「はは、だよな。ま、お互い全力をつくそうぜ」
そう言って握手を求めてきた彼。
仕方なく僕も手を出すと――その瞬間たくさんのフラッシュの光が僕らを包みこんだ。
そのまま記者からのインタビューに入って、僕は受け答えしながら………必死に涙をこらえていた。
失恋の涙を―――
「はは…今更失恋もないか…」
前夜祭が終わった後、ひとり夜の露天風呂に入りにきた。
他に誰もいない貸し切り風呂は、泣くのにちょうどいい。
独り言を言っても誰にも聞かれない。
「……進藤……」
進藤が好きだった。
ずっと好きだった。
でも僕がそれを口にすることはなかった。
フラれるのが恐かったから。
フラれたら…彼ともうまともに向き合えないと思ったから。
濡れないよう束ねていた髪をおろしてみた。
温泉に髪を浸けるのはタブーだけど、貸し切りだから少しぐらいいいだろう。
長くて真っ黒な髪。
まるで進藤の彼女のような髪だ。
「帰ったら…切ろうかな」
進藤のことを忘れる為に――
新しい一歩を踏み出す為に――
「何を切るって?」
え…?
聞き覚えのある声に慌てて振り返ると―――進藤がいた。
「なん…で…」
「え?だってココの露天風呂って混浴だろ?オマエ一人?」
「今は僕の貸し切り時間なんだ!」
「え?マジ?入口にそんなこと書いてあったかなぁ」
「ちょっ…入ってくるな!」
「いいじゃん、寒いから入れてよ」
強引に入ってくる進藤。
この露天風呂は濁り湯じゃない。
僕は胸を隠して慌てて後ろを向いて彼から離れた。
「で?何を切るって?」
「き、キミには関係ないだろう!」
「嘘つけ。さっき失恋がどうとか言ってたくせに。オレの結婚と関係あるんじゃねーの?」
「い、いつからいたんだキミは!」
進藤が近付いてきた。
逃げようとしたけど髪の先を捕まれて阻止される。
「切るなよ…こんなに綺麗なのに勿体ないじゃん。オレ長い髪好きなんだ」
「…彼女も長いものね」
「オマエの髪に似てたから、好きになったようなものだからな」
――え…?
進藤が僕を後ろから抱きしめてきた。
髪に…キスされる。
「アイツ…後ろ姿がオマエにそっくりなんだ。こういう風に抱くと…まるでオマエを抱いてるみたいだった」
「意味…分からないんだけど…」
「本当に分からない?」
更に強く抱きしめられる。
体が彼に密着する。
腰に当たってる彼のものに…僕の顔は耳まで真っ赤になった。
勃って大きくなってるのが嫌でも分かった。
「…興奮してるの?」
「欲情してる」
「…結婚するのに?」
「オマエが止めてくれたらしねぇよ」
「僕の気持ち…知ってたの?」
「知らなかった。…さっきまで。だから、オマエが露天風呂貸し切ってるって聞いたから…最後の賭けに来たんだ。負けたら大人しくアイツと一緒になるよ…」
「…勝ったら?」
「もちろん今すぐオマエをオレのものにする」
「……!」
振り返った僕は、真っ正面から彼に抱き着いた―――
「好き…好き…進藤…」
「オレも…好きだ塔矢…」
キスをして、僕らはそのまま体を一つに合わせた。
部屋に戻ってからも、お互いが満足するまで一晩中――
翌日、僕らは緩む顔を必死に抑えて、真剣勝負の対局を楽しんだ。
どっちが勝っても、この戦いが終わったら僕らのことを公表するつもり。
もちろん負けるつもりはないけどね――
―END―
以上、ロングヘアーなアキラさん話でした〜。
んー、何か妄想してた時とちょっと違う話になりました。
今回はアキラさんに失恋してもらおう!と書き始めたのですが、もうちょっと取り乱して…最終的にはヒカルに迫りまくる話の予定だったのに!(どんな話だ)
ま、ハッピーエンドだからヨシとしますかね!
(ヒカルの彼女さんがちょっと不憫だけど!)