●LAUGH●
お互いが休みの日の朝10時。
オレは塔矢の部屋にやってきた。
合鍵を持ってるオレは、チャイムも鳴らさず今日も勝手に上がりこむ。
「塔矢ー、来たぜ。いつまで寝てんだよ?」
まだベッドで就寝中の彼女の顔を覗きこんだ。
「ん…進藤…?おはよう…」
「おはよ。また裸で寝てたのか?風邪ひくぜ?」
「だって…暑いんだもの」
塔矢が上半身を起こしてきた。
丸見えなコイツの豊満な乳房に、思わずゴクリと唾を飲み込む。
でも、一応目はそらす。
「朝メシは?」
「いらない」
「オマエなぁ…、やっぱ実家帰った方がいいんじゃねーの?生活荒れてるぞ」
「ふーん…帰ってもいいんだ?」
塔矢が悪戯な目をして、下からオレの顔を覗きこんできた。
指を絡めて、オレを誘惑してくる。
うう…、いつもこんな感じだ。
いい加減慣れた。
のに、やっぱり我慢出来なくて……
「塔矢…っ」
オレもベッドに上がって、彼女に熱いキスを落とした――
この塔矢アキラと体の関係を持つのはこれで何回目だろう。
もうずいぶん前…10代の頃から、週イチとまではいかないけど、月二回くらいはしてる気がする。
酷い時は…もっと。
付き合ってるわけじゃないのに。
でも他に付き合ってる奴もいなくて、お互いフリーで誰にも迷惑がかからないから。
――せっかく男と女に生まれたんだから、何も囲碁ばかりじゃなくて、気持ちいいこともしなくちゃ損じゃない?――
そんな感じ。
こんな感じの今のオレら。
「―…あぁ…っ」
「……く…っ」
上り詰めたオレらは、呼吸が落ち着くとすぐに体を離した。
「もう…中で出すなっていつも言ってるのに」
「いいじゃん。どうせアレ飲んでるんだろ?」
「後始末が大変なんだ」
塔矢が少し不機嫌そうにバスルームに向かっていった。
はぁ…と小さな溜め息をついて、オレはさっき脱いだばかりの服をまた着た。
塔矢がシャワーを浴び終わるまでに、朝メシと碁盤の準備をして。
あ、そうだ。
アイツの服も出しておいてやらないとな。
彼女のクローゼットを勝手に開けて漁って、着替えを脱衣所に置いてやった。
「ありがとう」
30分後――少しご機嫌な塔矢がキッチンにやってきた。
「キミって本当に使える」
「それって褒めてる?貶してる?」
クスクス笑った彼女が、オレが準備した朝食に手を付け出した。
「食べ終わったら打とうか」
「打つ前に検討な。昨日の倉田さんとの第二戦、一応勝ったけど…オマエの感想が聞きたい」
「悪くはなかったんじゃない?」
「でも良くもなかっただろ?」
「まぁね。終盤にキミの悪い癖が目立ってた。秒読みに入って焦る気持ちも分かるけどね」
やっと棋士の表情に戻った塔矢と、やっとまともな会話を始めた。
検討して打って、検討して打って、検討して打って。
休みの日も相変わらず囲碁ばかりのオレら。
一日中…一年中ずっとだ。
こんな囲碁中毒なオレらに寄ってくる異性なんかいない。
仮に来ても、すぐに呆れられてジ・エンド。
同じ棋士の奴にも逃げられるぐらいだから、オレらはきっと異常なんだろう。
でも、このスタイルを変えるつもりはない。
一生このままでいく。
そのくらいでなきゃ、神の一手なんか極めれるもんか!
「夕飯食べに行こうか」
「おう!」
結局今日も一日中打った後、夕飯を食べに近所の居酒屋に入ることにした。
オレも塔矢も取りあえずビール。
二人ともザルだから、気持ちがいいくらい遠慮なく飲みまくれる。
会話の内容はちょっと囲碁から離れてみたり。
「でもオレらさー…今のままだと一生結婚出来ないかもな」
「興味ないよ」
「本当に?三十路になっても焦らない?オマエ一人娘なのにいいのか?」
「ふーん…キミは興味あるんだね」
「オレ?…うん、…あるよ。…一応」
一応、これでも結婚願望はある。
子供もほしい。
「そうなんだ」
塔矢にクスリと笑われた。
「大丈夫、きっとそのうちキミの後援会がお膳立てしてくれるよ。今のままのキミでもいいって言ってくれる寛容な女性を探してくれる」
「……塔矢も同じ?」
「そうだね…そうなるかもね。例えが結婚に興味がなくても、僕らの周りはただでさえ考えの古い人達ばかりだから」
「…そっか。そうだよな…」
――ズキッ
少し胸が痛んだ気がした。
塔矢もいつかは誰かと結婚しちゃうんだ…って思うと、何だかなぁ…。
「じゃあさー…」
「何?」
酔いに任せて、勢いに任せて彼女に聞いてみる。
「塔矢はさぁ〜今のままのオレでもいいって思ってくれてる?」
「もちろん。むしろ変わられると僕が困る」
「じゃあ、オレと結婚してくれる?」
「……は?」
塔矢が目を見開いてきた。
しばらく真顔で茫然とオレを見た後、またクスクス笑ってきた。
「キミと結婚?あー可笑しい」
「な、何で笑うんだよ…!」
「だってキミと僕だよ?夫婦になんかなれると思う?」
「何で?エッチの相性はいいじゃん」
「そりゃあエッチはね」
「……オレじゃダメってこと?」
「何?急にどうしたんだ?」
「……別にぃ」
ちょっと…ガックリ。
ちょっと…ショック。
はい、嘘です。
めちゃくちゃショックだよ!!
「飲んだ飲んだ♪これでまた明日から仕事頑張れそう」
「…だな」
「進藤、この後どうする?帰る?あ、車で来たんだっけ?」
「…泊まってもいい?」
「いいよ」
「………」
塔矢の部屋に戻った後、直ぐさま彼女の腕を掴んで寝室に引っ張って行った。
ベッドに押し倒して、上からギュッと抱きしめる――
「…進藤?」
「………」
「どうしたんだ?もしかして、僕に恋しちゃった?」
またクスクス笑われた。
「…笑うなよ。悪いかよ…」
「あれ?本当なんだ?」
「こんなこと、もう何十回ってしてるんだぞ?気持ちが変わらない方がおかしいって」
彼女の胸に手を伸ばした。
柔らかくて気持ちいい…。
「そうだね…」
「そうだねって…。…でもオマエは、オレとの結婚は有り得ないって思ってるんだよな…?」
「そうだね。今まで考えたことがなかったから正直驚いたよ。そんな素敵なことなのに…考えたことなかった」
「……え?」
素敵なこと……?
「今…素敵って言った?」
「うん、素敵」
「それって…それってさ……」
もう爆発しそうなぐらいドキドキ鳴ってる胸を抑えて、彼女の本音を一語一句聞き逃さないように必死に耳を傾けた。
「キミとの結婚だったら…今の生活を全く変えなくてすみそうだよね」
「うん、変えなくていいよ。好きなだけ打って打って打ちまくろうぜ!」
「それに…キミとのエッチは大好きだし」
「オレも好き!本当は毎週でも…ううん、もっともっとしたい!」
「やだ、そんなにされたら困るよ。…妊娠する。ただでさえキミって中出しばかりなのに」
また笑ってきた。
「じゃあ付ける!付けたらしてもいい?」
「じゃあ今も付けてね?」
「おう!」
財布からゴムを取り出した。
でも、結婚するなら本当は避妊なんてしたくないのが本音。
「…なぁ、すぐじゃなくてもいいんだけど…さ。いつかオレの子供…産んでくれる?」
「いいよ。キミとの子供だったら産み甲斐がありそうだ」
「…オマエ、絶対子供に囲碁覚えさすつもりだろ」
「もちろん。だってキミと僕の子供だよ?将来が楽しみじゃないか」
「まぁ…な」
「キミって本当に使える男だね!」
「だからさ〜、それって褒めてるの?絶対貶してるだろ」
その晩はちょっと真面目に愛し合ってみたオレら。
「好きだよ…」
と恥ずいけど耳元で囁いてみた。
「進藤…」
嬉しそうに微笑み返してくれた彼女の顔は、オレは一生忘れないだろう―――
―END―
あまりにもアキラさんがクスクス笑ってたので、題も『LAUGH』にしちゃいました(笑)
こういうヒカアキってどうですかね?付き合ってないけどずっと前からすることはしてて〜(笑)
惚れた弱みでヒカルの方が下手に出て、アキラ嬢に振り回されてるパターン。
ヒカルが好きで好きで仕方なくて可愛くなっちゃうアキラさんもいいけど、結婚なんてどうでもいい!って感じの強いアキラさんも好きですv