●TIME LIMIT〜教育編〜




「じゃあ、行ってくるな」

「うん…気をつけて」


玄関先でチュッとキスをして、僕は進藤を送り出した。

今日から進藤は地方の仕事。

もちろん、泊まり。


つまり……千明と二人きりということだ――









「おはよー…お母さん」

「おはよう」


学校が休みの日曜の朝だから、ちょっと遅めの9時過ぎに千明が起きてきた。


「お父さん…もう出発したの?」

「うん。8時前に」

「ふーん…」


もくもぐと用意してあった朝食を食べながら、千明が新聞を広げた。

どうやらテレビ欄をチェックしてるらしい。

あ、捲った。

政治欄なんて…8歳の子が読むページじゃないような気がするんだけど。

というか、新聞読みながらご飯食べるの…注意した方がいいのだろうか?

行儀悪いって?

でも僕もたまにしてたからなぁ……うーん。

考えてる間に、千明は新聞を畳んで、ご飯も食べ終わって、「ごちそうさま」と部屋に帰ってしまった。



洗い物をしながら今日は何をしようかな…と考えていると、再び千明がリビングに戻ってきた。

パジャマから服に着替えてきたみたいだ。

勉強道具を広げて、宿題をしだした。

いつもは自分の部屋でしてるのに…どうしたんだろう。



「…お母さん、これ何て読むの?」

「え?どれ?」


千明の宿題は漢字の読み書きだった。

辞書持ってきてるんだから、自分で調べなさいって言うべき?

と思いながらも教えてしまった。


「昭和(しょうわ)だよ。平成の前の年号」

「じゃあ昭和の前は?」

「大正だね。その前が明治。その前は江戸」

「この前歴史の番組で、寛永15年とか言ってたけど、何で江戸何年じゃないの?」

「江戸時代に限らずそれ以前は細かい年号を使ってたんだよ。鎌倉とか平安とか江戸とかいうのは後の人が付けた総称」

「ふーん」

「当時の人達が使ってた年号が寛永とか天保でね、天皇が変わったり天災が起きたりする度に、縁起担ぎの意味も込めてころころ頻繁に変えてたんだ。でも幕府が滅んで明治になってからは天皇ごとに年号を変更しますっていう法律が出来たんだよ。だから今はすごく分かりやすいよね」

「…なるほど。やっぱりお母さんって賢いね」

「え?」

「この前お父さんに同じ質問したら、寛永って何?って聞き返されちゃった」

「まぁ……進藤だからね」

「うん…お父さんだからね」


ははは…と千明と一緒に笑ってしまった。


「ねぇ、お母さんは戦国武将だったら誰が好き?私は伊達政宗が好き」

「はは…渋いね。千明って歴女?」

「向こうにいた時、お父さんに仙台城とか連れて行ってもらったんだ」

「よかったね」

「うん。ねぇ、お母さんは?誰が好き?」

「僕は…毛利元就かな」

「へー、いいね」



赤ちゃんからいきなり8歳になってしまった千明。

どう接すればいいのか、これからどう育てればいいのか、実はドキドキしてた。


でも…僕が想像してた以上に既に成長してしまってる気がする。

賢くて、好奇心旺盛で。

気配りが出来て。

すごく話しやすくて。

ううん、話しやすいんじゃなくて、もっと僕と話したいって気持ちが伝わってくるんだ。


だから…宿題もリビングでやり始めたのかもしれない。

本当は分かる問題もわざと聞いたりして。

話すきっかけを作って。



「お母さんって外国語も得意なんでしょ?」

「うん…まぁ、そうかな」

「何語が話せるの?英語と?」

「英語と…北京語と韓国語とドイツ語と…、日常会話程度でいいならフランス語とスペイン語も大丈夫かな」

「すっごーい!千明にも教えて!」

「いいよ。英語は小学校でも習ってるんだっけ?」

「うん。海王小はね、イギリス人の先生だからちょっとイギリス英語だよ」

「ちょっと話してみる?」

「え!緊張するよぉ〜、間違ってたら教えてね?」

「うん」



結局この日は、終日英語で会話することになった。

一緒にスーパーに行って、一つ一つ食材の単語を教えたり。

本屋に行って、有名な洋書を買ってあげたりもした。

子供の吸収力がすごいのか、千明がすごいのか。

進藤が帰ってくるまで丸二日ずっと英語漬けにしたら、日常会話程度なら違和感なく話せるようになってしまった。

ま、おかげで帰ってきた進藤に英語禁止令を出されちゃうんだけどね。


「千明に余計なこと教えるなよなー」

「英語が余計なことだと思うのはキミだけだよ」

「英語なんか出来なくても生きていけるし」

「よく言うよ。海外棋戦の時毎回困ってたくせに」

「通訳雇うからいいもん」

「あっそ。じゃあもう二度とキミの通訳はしないから!」

「え?!塔矢の意地悪〜っ」


こんな僕らのケンカを見て、千明が笑っていた。



僕と千明はまだ親子になったばかり。

他人行儀とまではいかないけど、まだお互いどこかよそよそしい。

いつか…千明ともケンカをしたりする日が来るのかな?


早く、ヒカルと同じくらいの絆が、僕と千明にも生まれたらいいな―――










―END―










以上、千明の教育に悩むアキラさんのお話でした〜。
8歳の千明より学力が低いヒカルって…どうなの?(笑)
まぁ人には得意分野がありますからね。
千明は日本史が好きなのかな〜なんて。
ヒカルはたぶん…体育とかが得意なんだよ(笑)
アキラさんはもちろん外国語が得意です。
ヒカルがいなくなった後、更に色々習ったみたいです。
アキラの影響で千明は高校生ぐらいで一度留学とかもしてそう。
夏休みを利用して一ヶ月ぐらい?
ヒカルは反対しそうだけど、アキラの後押しがあるから大丈夫。
絆的にはまだまだヒカルと千明の方が大きいけど、やっぱり賢い千明の教育にはアキラさんが必要だよね!