●DUPLICATE KEY 2●


なぜ僕だけを…。


「……はぁ」

思わずため息が出てしまった。

こういうことをされると…正直少し期待してしまう。

キミにとって僕は特別な存在だったりするのかな…って。

そりゃもちろんキミと僕は欠け替えのないライバルだ。

進藤にとっても僕にとってもお互いとの対局は格別――特別――。

それは自他共に認める既知の事実。


だけど――


僕にとってキミはそれ以上の、ライバル以上の、特別な存在なんだよ…?




リビングを出て、すぐ右のドアを開けた。

10畳ぐらいあるかと思われるこの寝室にはベッドと照明器具のみが置かれている。

キングサイズの大きなベッド。

僕は泊まる時いつもこのベッドで進藤と眠っている。

進藤が左で僕が右。

二人で寝ても余裕なくらいの大きなベッドだ。

初めて一緒に寝た夜は緊張して正直寝付けなかった。

手を伸ばせばすぐにでも触れられる距離に彼がいると思うと―。

それに少し期待もしていた。

触れてくれないかなって―。


―でも…何十回と寝た今でもそんな間違いは一度もなく、正直残念に思っていた。

やっぱり進藤は僕になんて興味ないのかな…。


それでもあの時の言葉が頭を過ぎる。


「ベッドはキミの部屋のをそのまま持っていくんだろう?」

「ううん、新しいの買う。オレ寝相悪いからさ、もっと大きいのにしようかなって―」

「ふーん」


その時はキミの言ったセリフをそうなんだ、ぐらいにしか思わなかった。

でも実際に一緒に寝てみて分かった。

彼は――別に寝相は悪くない。

悪いどころか一度寝てしまうと身動きどころか鼾もかかないほど静かだったんだ。

どうしてあんな嘘をついたんだろう…。



ガチャ


鍵が開く音が聞こえて、僕は慌てて寝室を飛び出した。

「ただ今〜」

「お、お帰り進藤。早かったな」

「うん、森下先生とこに関西のプロが来ててさ、少し話しただけだったから」

話した内容の一部始終教えてくれる進藤の後に付いて、僕もリビングに戻った。


「んじゃ、一局打つか」

「うん―」

ボードの上に置いてあった碁盤と碁石をテーブルの上に持ってきて、いつも通り対局が始まった。


「あ、進藤。鍵返すよ」

預かっていた鍵をポケットから取り出して返そうとしたら、進藤がそれを拒否してきた。

「いいよ、持っといて」

「え?」

「また今日みたいなことあるかもしれないし、いちいち渡すの面倒だからさ」

「そう…?じゃあ…持っておくよ」

「うん」


どうしよう…。

合鍵をゲットしてしまった。

「自由に来てくれていいから」

「う…ん…」


まただ…。

進藤はすぐ思わせぶりな態度を取る。




「僕の半目負け…か」

「へへっ、やりぃ」

気付いた時にはまた連続して数局打っていて、時計は12時を回ろうとしていた。

「あ、もう帰らないと―」

「泊まってけばいいじゃん」

「うん…そうだね」

こんなに当たり前に言う進藤に、正直焦る。

「オレ、先風呂入るな」

「うん…」


はぁ…。

何にもないのは分かっている。

分かってるんだけどっ……毎回少し期待して緊張する僕って…変なのかな…?


寝室に戻り、パジャマと着替えをクローゼットの中から取り出した。

寝室の奥には2つのクローゼットがあって、片方を自由に使わせてもらっている。

ベッドに座って、また溜め息を吐いた。

「はぁ…」

端と端にある枕がなんだか憎い…。



進藤と入れ替わりでお風呂に入り、また寝室に戻ってくると、進藤はもう横になって詰碁集を読んでいた。

そうっと僕もベッドの中に入ると、視線を僕の方に向けてきた。

「明日手合いあるのか?」

「ううん、明日は昼から編集部に呼ばれてるだけ」

「ふーん…」

進藤が本をパタンと閉じて、スタンドの紐に手を伸ばした。

「消すよ?」

「うん…お休み」

「お休み」

パチン

パチン

一度目で豆電球、二回引くと部屋は真っ暗になった。

でも数分も経つと目が慣れてきて、うっすらだけど部屋の様子がハッキリ見えるようになる。

進藤の方を少し見ると、目を瞑って寝る態勢に入っている。

やっぱり…触ってくれる気はないんだな…。

「はぁ…」

進藤に聞こえない程度の大きさでまた少し溜め息をついて、僕も目を瞑った。


もし…僕の方から触ったら、進藤はどう思うかな。

拒まれるのが一番怖い…。

だけど…ちょっと触れるぐらいなら―。

手を握るぐらいなら別にいいよね?

それくらいなら後から何とでも誤魔化せるし――


思わせぶりな態度をとるキミが悪いんだ…!







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