●JOINT QUALIFYING 5●
「あ…半目足りない」
周りからワッと歓声が上がる。
何十分も一分碁を続けたわけだから、当然他の受験者の対局は全て終了。
気付いたら全員が僕らの周りに集まっていた。
「レベル高っ!」
「プロ同士の対局みたい」
「僕この当たりから分からなくなっちゃった」
「緒方さん、惜しかったね」
僕の半目勝ち――精菜が悔しそうに下唇を噛んだ。
「…家で検討する?」
「……うん」
落ち込んだ彼女と一緒に控え室に戻り鞄を手に取る。
はぁ…と、溜め息を吐いていた。
「こんなに悔しいの久しぶり…。勝てると思ったのに。やっぱり私秒読み苦手…」
「焦るよなぁ」
「佐為は余裕そうだった」
「はは」
「どこで間違えたんだろ。3目もひっくり返るなんて思わなかった」
「後で教えてあげるよ」
エレベーターを待ちながら、改めて確認する。
「――約束、守ってくれるよな?」
「うん…もちろん」
――精菜が勝ったらキスしよう。
その代わり僕が勝ったら、一緒にプロになろう――
「一緒にプロになって、佐為と一緒に今日みたいな対局私もたくさん打ちたい」
「うん――僕も」
「でも…」
はぁ…とまた精菜が溜め息を吐いた。
「キスもしたかったなぁ…」
「……」
エレベーターが到着して、一緒に乗り込んだ。
幸いなことに二人きり。
他の受験者は皆さっきの僕らの対局を検討中だ。
ドアがしまった途端――僕は不意打ちのように彼女の唇にキスをした――
「……ん……」
半年分の想いのこもった、一階に到着するまでの、ちょっとだけ長いキス。
「……は…ぁ……」
チンっとエレベーターが到着すると同時に口を離した。
精菜の顔は真っ赤だ。
おそらく僕の顔も。
「もうバレちゃったし、駅まで手でも繋いで帰る?」
手を差し出すと、彼女はもっと近付いてきて、腕にぎゅっとしがみついて、肩に頭を凭れかけてきた。
「佐為大好きv」
合同予選。
僕は全勝、精菜は一敗で通過した。
来週からいよいよ、A組上位と争うプロ試験・本戦が幕をあける――
―END―
以上、佐為のプロ試験・合同予選編でした〜。
もちろん難なく突破です!
ちなみにヒカアキの名人戦七番勝負が同時進行で進んでいます。
どっちがタイトル取るのかお楽しみに!
ちなみにアキラさんは子供4人で打ち止めにしたみたいです、ね(笑)
まだ30歳という若さを考えたら、して正解かと?
ヒカル君はショックを受けてましたが。
さ、次はいよいよ本戦です。