●TIME LIMIT〜実家編〜







『ごめん母さん…。体調がよくないから…ちょっと地方で静養してくる。そっとしておいて欲しいんだ……ごめん』


それがヒカルからの最後の電話だったみたい―――
















「こんにちはー」

「あら、あかりちゃん。大学はもう終わったの?」

「はい。今日は2限までだったから」


大学から帰る途中――ヒカルの家の前を通ると、おばさんが玄関前を掃除していた。


「あれ?誰か来てるんですか?」

「ええ…」


玄関に明らかにおばさんのではない女物のパンプスが一足。

おばさんが困ったように少し顔を傾けた。


「塔矢さんが来てるのよ…」

「え?ヒカルと同じ棋士の…?」

「ええ…。ヒカルをどうして探さないんですか?…って。今主人が説明してくれてるんだけど…」

「………」


塔矢さんが正しい…と思う。

どうしておじさんとおばさんはヒカルを探さないんだろう…。

なんで捜索願出さないんだろう…。

放任主義にも程がある。


「おばさんはヒカルのこと…心配じゃないんですか?」

「え?そうねぇ……ある意味ちょっと心配だけど…。でもヒカルももう大人だし、本人がそうして欲しいなら、もうそっとしといてあげようと思うのよね」

「………」


一人息子がいなくなったっていうのに、この落ち着き様は何…?

本当にそう思ってるの?


まさか…おばさん――


「おばさん……本当はヒカルの居場所知ってるの…?」

「さぁ…どうかしら」


この反応…。

知ってるんだ!


「ヒカルから聞いたの??」

「…聞かなくても分かるわよ」

「え…?」

「だってヒカルは別に家出少年でも誘拐にあったわけでも、神隠しにあったわけでもないのよ?普通に引っ越しの手続きをして、普通に地方で暮らしてるだけですもの」


普通に……手続き……


「あ…!もしかして区役所…?」

「ええ。ヒカルの住民票を取れば引っ越し先も当たり前のように書いてたわ」

「ヒカル……バカだ」


おばさんとくすくす笑ってしまった。


「ヒカルが何をしたいのか、どうしたいのか……主人と色んな書類を見たら分かった気がしたから…今はそっとしといてあげようと思ったのよ…。塔矢さんには悪いけど…」




ヒカルの両親は全部知っていた。

ヒカルの住んでるところも……娘の千明ちゃんのことも。

母親が…塔矢さんだってことも。


塔矢さんはバカだ。

まさに灯台下暗し。

自分の戸籍を取れば、ちゃんと千明ちゃんのこと書いてあったのに。

未婚の親から生まれた子供は、父親が引き取ろうが絶対に一度母親の戸籍に入るって常識、知らないんだ?


ま、私からは絶対に教えてあげないけどね。

せいぜい自力でヒカルを探せばいいよ。

だって…塔矢さんは私からヒカルを奪った憎き女だから――









―END―










以上、実家編でした〜。
ちょっと美津子ママもあかりちゃんもアキラに優しくないですね(笑)まぁ二人はヒカルの味方ってことで。
役所は全てを知っている、みたいなお話でした(笑)
ヒカルの戸籍を取ったら普通に千明の名前は書いてあるのです。
たぶん美津子ママの心配は、「果たしてあのヒカルが子供を一人でまともに育てられるのかしら…」という心配かと思います。