●JEALOUSY●





「あ。そういえば京田さん、聞きました?」

「何?」

「彩の奴、今度はバスケ部のキャプテンに告られたらしいですよ」

「…………え?」



進藤先生の研究会が無い日でも、お互いの部屋を訪れて進藤君と1対1で打つことはよくある。

今日も朝10時から夕方までみっちり打っていた俺ら。

だけど時間的に最後の一局になると思われる1分碁を打っていた時に放たれた一言に――俺の頭は一気に思考を停止した。

ビーッと対局時計が鳴り響く。

時間切れだ。

進藤君が時計を止めながら、

「すみません、打ち終わってから話したらよかったですね…。ふと思い出して…」

と謝ってきた。

「……いや、いいよ。どのみち俺の1目半負けだったし……」

直ぐ様石を片付け始めた。


「……それより今の話、緒方さんから聞いたの?」

「あ、そうですね…昨日」

「昨日……」

「精菜が心配してました。いつもなら速攻振るのに、昨日は何か振らなかったらしいんですよね」

「……へぇ」

「それどころか連絡先を交換したとか」

「………」

「まぁ彩は京田さん命なので、何も心配することないと思いますけど。今日来たら聞いてみて下さい」

「……そうだね」


石を片付け終えた進藤君が、上着を羽織って鞄を手に取った。

そして「じゃあまた明後日の研究会で」と帰って行った。

悪気はないんだろうけど、とんでもない置き土産を置いていってくれたよな……と内心毒づく。

溜め息を吐きながら俺はキッチンに向かい、コーヒーを入れる為にお湯を沸かし出した。



(今度はバスケ部のキャプテンかぁ……)



彩ちゃんて相変わらず学校でモテてるんだなぁ…と感心する。

まぁあのアイドル顔負けのルックスだし。

明るくて性格も可愛いからもちろん友達も多い。

彼女は普通に考えてモテないわけがなかった。

わけがないんだけど…………

沸いたお湯をカップに注ぎながら、俺の中で徐々に溢れてくる嫉妬が抑えきれなくなり、ポットが壊れてもおかしくないぐらい乱暴に戻した。


(くそ…一体どんな奴なんだろう…)

キャプテンってことは彩ちゃんと同じ高2かな。

(高3はとっくの昔に引退してるだろうから…)

バスケ部だから当然身長も高いんだろう。

(俺より高いのかな…)

海王だから頭も良さそうだな。

(俺より良いのかな…)

キャプテンには当然統率力が必要とされる。

部員やコーチからの信頼も。

(完璧じゃん……)

俺の通っていた高校にももちろんバスケ部はあって、そりゃもうキャプテンはモテていた。

(男子校だから他校の女子に…)

勝手に俺の脳がスポーツ万能で成績も優秀、更にイケメンなキャプテン像を作り上げる。

そんな奴に告白されて、断るのが勿体なくて連絡先を交換する彩ちゃんの姿も想像する。

当たり前だけどイライラが止まらない。

ムカムカする。


チラリと時計を見ると、もう16時を回っていた。

あと30分もすれば彩ちゃんがやって来る。

やって来る……よな?

来なかったらどうしよう。

放課後そのバスケ部のキャプテンと会ってたらどうしよう。

考えれば考えるほど不安になってきて、オレは堪らずベランダに出た。

いつも彩ちゃんがやってくる駅への道を凝視した。

でもってしばらくすると、俺の脚は勝手に玄関に向かっていた――










「あれ?京田さん?」


改札を抜けたところで待つ俺を見つけた途端、彩ちゃんが嬉しそうに駆け寄って来た。

「どうしたの?もしかして私を待っててくれたの?」

「…うん」

「え?本当に?!」

彩ちゃんの目がキラキラと輝く。

「嬉しい♪」と俺の腕にぎゅっと手を絡めてきた。


一緒にマンションに帰りながら、彩ちゃんがいつも通り今日学校であったことを話してくれる。

体育がマラソンで嫌だったとか。

現国の先生が急病で自習になったのは嬉しかったとか。

購買で買った新商品のお菓子が美味しすぎて、緒方さんと食べまくったから太ったらどうしようとか。

当たり前なのかもしれないけど、バスケ部のキャプテンのことには全く触れなかった。

マンションに着いて、直ぐ様宿題を始めようとする彼女に……いてもたってもいられず俺の方から話を切り出した。


「……そういえば、進藤君から聞いたんだけど」

「え?」

「彩ちゃん……バスケ部のキャプテンに告白されたんだって…?」


緊張で少しだけ声が震えた。

ドキドキしながら彼女の反応を待つ。

彩ちゃんの顔がきょとんとなった。


「え?されてないよ?」



――え



「で、でも進藤君が緒方さんからそう聞いたって…」

「も〜〜精菜もお兄ちゃんも相変わらず口が軽いんだから!」


彩ちゃんが立ち上がって俺の方にやって来る。

でもって胸にぎゅっと抱き付いて来た。


「精菜の誤解だからね!告白なんてされてないから!ちょっと岩本の相談に乗ってやっただけだから!」

「岩本…?」

「そのバスケ部のキャプテンの名前。アイツ好きな子がいるんだけど、どうアタックしたらいいのか悩んでるみたいで」

「…だから連絡先を交換したってこと?」

「え?交換したのは中学の時だよ。私クラスメート全員と交換してるもん。昨日はその好きな子がインスタしてるから、教えてあげてたんだ」

「………」


そ、そうだったんだ……

真相が分かってホッとしたのも束の間、彩ちゃんにニマニマされて俺は途端に顔が赤くなるのが分かった。


「京田さん、もしかして心配した?だから駅まで迎えに来てくれたの?」

「えと……」

「嫉妬してくれてたんだ?」

「……///」


俺が考えてたことが彩ちゃんにバレて恥ずかしくなる。

京田さん可愛い!!と更にぎゅっとまとわりついてきた。


「もー何か今すぐエッチしたくなってきた〜〜。宿題終わるまでなんて待てないよ〜〜。京田さん、先にベッド行こ?」

「……うん」


拒否なんて出来るわけがない。

俺も同じ気持ちだからだ。

彩ちゃんを早くこの手で抱いて安心したかったからだ。

寝室に移動した俺らは、いつも以上にお互いを肌で求めあった――













「……心配しなくても、私に告白しようなんて人、学校にはいないからね」

「え…?」

「だって私にはラブラブの彼氏がいるって皆知ってるもん。京田さんと付き合ってるって、めちゃくちゃオープンにしてるからね私」

「え?!」

「あ、大丈夫だよ。周りには親公認の恋人だってちゃんと言ってるから♪」

「そ…そうなんだ」

「親が許してたら、未成年の私と交際しても京田さん問題ないんでしょ?」

「まぁ……そうだね。法律的にはね」

「よかった♪」


安心して裸で胸に抱き付いて来る彼女を、俺は優しく包み込むように抱き締め返したのだった――







―END―








彩(高2・17歳)、京田(22歳)な二人の一コマでした〜。
彩は可愛いので京田さんも心配になりますよねー。
もちろん翌日彩は精菜に怒ります。



彩「お兄ちゃんに適当なこと言わないでよね!すぐ京田さんの耳に入っちゃうんだからね!」

精「あれ?岩本君に呼び出されてたからてっきり告られたのかと思ってたのに」

彩「違うから!もう私プンプンなんだからね!」

精「…怒ってるのにどうしてそんなにニマニマしてるの?」

彩「え〜〜〜だって嫉妬してくれてる京田さんめちゃくちゃ可愛かったんだもんvv私ってばすっごく愛されてるのかもvv」

精「じゃあ結果オーライじゃない」

彩「ん〜〜仕方ない、今回は許したげる」


ニマニマが止まらない彩なのでした☆ちゃんちゃん