●AFTER 10 YEARS 2●
「…院生?」
「うん!精菜とね、9月にある院生試験受けてみようって言ってるんだ」
「へー…精菜も」
「受けてもいいでしょ?お父さん」
「ああ、いいぞ」
彩の提案にあっさり父はOKした。
たぶん父も院生出身だから、その良さを知ってる為だろう。
…でも、果たして彩や精菜が院生なんかになる必要が本当にあるのだろうか?
母のように外部受験すればいいだけの話じゃないのか?
僕ももちろんそのつもりだし…。
「私、若獅子戦に出たいんだ」
「おー、懐かしいな。オレも院生の時出たぜ。一回戦で負けたけどな」
「あ、知ってる。和谷先生から聞いたよ、その話。確かお母さんが優勝したんでしょ?」
「うん。若獅子戦は全部で4回出たけど、4回とも優勝したかな」
「すごーい!さすがお母さん!お父さんは?」
「え?あー…オレは一回戦負けに不戦敗に二回戦負けにベスト4…かな?」
「何それ。お父さん弱〜い」
「仕方ないだろ。早い段階でアキラに当たっちまったんだから」
父が悔しそうに、でも同時に嬉しそうでもある顔をした。
「申込に棋譜も必要なんだよね?お父さん、お母さん、後で一局打って♪」
「おう。いいぞ〜」
「お父さんにお母さんで二人でしょ?棋譜は3枚必要だから、あと一人は誰に打ってもらおうかなぁ。和谷先生に頼んでみよっかな」
「社は?明日から泊まりにくるし、打ってもらえよ」
「え?!社先生来るの?!やったぁっ」
関西棋院の社先生は両親の知り合いで、上京する度にウチに泊まっている。
かなり気さくで面白いお兄さんだから、僕も彩も気に入っていたりするんだ。
また関西弁でも教えてもらおうっと。
ピンポーン
ピンポーン
「来た!私、開けてくる!」
――夕飯が終わった頃
社先生が到着したみたいで、妹は急いで玄関に向かった。
続いて父も向かっている。
ちなみに母は夕飯の後片付けをそのまま続けていたりする。
「社先生いらっしゃーい」
「彩ちゃんこんばんは〜。また可愛くなったなー」
「えへへ。ありがとう」
それは社先生が妹に会う度に言っている、お決まりの褒め言葉だ。
ちなみに僕に言うのは――
「先生こんばんはー」
「お、佐為君。大きくなったなー」
「…それ会う度に言ってません?」
「いや、だってホンマ、会う度に大きくなっとうしな。今何cm?」
「162です」
「てことは佐為君は成長も塔矢似やな。進藤なんか佐為君ぐらいの年の頃、150ぐらいしかなかったらしいから」
「…チビで悪かったな」
「はは、いいやん。今は170後半あるんやから」
社先生はかなりの長身で、確か184cmだとか言っていた。
緒方先生をしのぐデカさだ。
「社、夕飯は?」
キッチンにいた母が先生に尋ねた。
「駅で軽く済ませてきた」
「じゃあ後でオレと一杯やろうぜ」
「お、いいなぁ〜。そうしよか。塔矢も飲もうや」
「僕は遠慮しておくよ」
社先生は母のことを「塔矢」と旧姓で呼んでいる。
いや、もちろん和谷先生や伊角先生や倉田先生だってそう呼ぶけど。
仕事上の名前が「塔矢アキラ」なせいか、僕は母が「進藤」と名字で呼ばれる所をあまり見たことがない。
囲碁関係者なら、100%「塔矢」って呼ぶし…。
まぁ緒方先生や芦原先生含む、塔矢門下の人は「アキラ君」と下の名前で呼んでるけど…。
「そういえばお前の奥さん、体の方は?」
「順調やで〜。今7ヶ月やから、産まれるんは11月のはじめやな」
「いいな〜。オレももう一人ぐらい欲しいな。アキラ作ろうぜ〜」
母が父をギロッと睨みつけた。
…たぶん僕と彩がいるからだ。
母は子供の前ではそういう話をするのが大嫌いなんだ。
僕らは全く気にしてなかったりするんだけどね…。
父が母のことを大好きなのは一目瞭然だし。
毎朝母の不意をついてキスしてるし。
(そして母は父のお腹にエルボーをくらわす)
「私も妹ほしいっ!和谷先生のとこの赤ちゃん、すっごく可愛かったんだもん」
彩が母に抱き付き、おねだりを始めた。
「ねー、お母さーん。妹産んで〜」
「無理だよ。そう簡単に出来るものじゃないんだ」
「えー!そうなの?お父さん」
「んー?1、2ヶ月ぐらい頑張れば出来るんじゃねぇ?」
「じゃあ頑張ってよ、お母さん」
「そうそう、今夜から頑張ろうぜ♪アキラ」
「ふざけるなぁっ!!」
母の堪忍袋がキレたみたいで、父を連れて居間を出て行ってしまった。
…たぶんこれからお説教タイムだ。
「お母さん怒っちゃった…」
「彩もふざけすぎ。お母さんが僕らの前でそういう話するの嫌いだって知ってるだろ?」
「だってー…妹欲しいんだもん」
「弟の方がいいって」
「妹がいいもん」
「絶対弟!」
「妹っ!」
「はは…何べん来ても飽きへんわ、この家」
社先生が楽しそうに頷いた。
「あ、そうだ。先生私と一局打って♪院生試験受けるのにね、棋譜が必要なの」
「へぇ、彩ちゃん院生になりたいんや」
「うん。若獅子戦でね、院生で優勝したいの」
「おー、さすが囲碁界期待のプリンセスやな。目標も高いわ」
「えへへ」
「ほな早速打とか」
「うんっ」
彩と先生が対局を始めてしまったので、僕は宿題をしに部屋に戻ることにした。
途中の両親の部屋からは、まだ母の説教声が鳴り響いている。
でもたぶん父には全く効いてないと思う。
父は母に怒られるのが何だか好きそうだし…
「怒ってるアキラも可愛い」
とか今頃思ってるんだろう。
そして母が怒り疲れたところで、父は母に抱き付き、甘え始める。
11年も一緒にいたら、単純明快な父の行動は手にとるように分かる。
はぁ…。
妹か弟が出来る日も近いかも――。
―END―
以上、11歳になった佐為視点の家族紹介話でした〜。
い、いかがでしたでしょう??(ハラハラ(=_=;))
もうオリジナル設定・登場人物入りまくりの話ですが…。
アンケート結果を見てますと……佐為が結構成長した頃の話を書いてもOKなのでは?と勝手に解釈してしまい…
もうむしろ佐為視点でもOKなのでは?と思ってしまい…
気がついたらこんなものを書きあげてしまってました…。うーん(=_=)
補足としては、佐為も彩も海王小学校に通ってます。
二人とも頭はアキラ似でそれなりに成績はいいです。
特に佐為は学年でTOP10に入るぐらい。
彩は…真ん中ぐらいでしょうか。
ちなみに精菜はもちろん学年TOPです。
さすが緒方さんの娘〜。
小さい頃から3人はいつも一緒の幼馴染です。
子供達同士が仲いいのって…何か萌ません??!(笑)
あ〜、次は精菜が出てくる話が書きたいなぁ…なんて。