●INSEI●





「進藤さんの家って、プロがたくさん来るって本当?」

「うん、来るよー。一番多いのは和谷先生と伊角先生かなぁ。関西棋院の社先生も多いけど」

「緒方さん家は?」

「私の家は全然。お父さんが出かける派だから」

「へー」



院生研修・二回目。

休憩時間になる度に、私と精菜は他の院生の子達に囲まれて質問ぜめにあっていた。

でも、その受け答えしながらもずっとあの棋譜が頭から離れない。

その張本人は、自販機の横で他のA組の人達とだべっていた。

今日も終わったらすぐに対局を申し込もう。

お母さん、私…逃げないから。



そして研修後――私はダッシュで彼のもとに走っていった。


「柳さん!あの…また一局打ってもらえませんか?」

「いいよ。じゃあこの碁盤使おう」

「はい!」


すごく…緊張する。

でも、今日は絶対に負けない。

この前の対局は、お父さんに付き合ってもらってとことん検討した。

中盤の見落としが一番の敗因だった。

今日はそんなヘマ…絶対にしない。

絶対に勝って前に進むんだ―――











「…ありませんっ」


一時間後―――深々と頭を下げてきた相手を見て、私は心の中でガッツポーズをした。


「やっぱり強いな〜期待のプリンセスは」

「柳さんこそ」

「今10歳だったよね?うわぁ…将来が恐いなぁ」

「……」


碁石を片付け終えたのと同時に―――横のグループから歓声があがった。

打ってるのは……精菜と名前はまだ知らないけどA組の子。

勝ったのはもちろん精菜…。


「すげ…緒方さん、京田さんにも勝ったんだ。今の院生一位だぜ?」

「……」


柳さんがそうつぶやくのを聞いて―――今…分かった気がした。

院生で一番の強敵は……きっと精菜だ。

この柳さんでも院生一位の京田さんでもない。

一番の親友の緒方精菜なんだ。




「彩、今日は勝てた?」

「うん…」

「よかった。彩なら勝てると思ってた」

「……」

「帰ろっか」

「…うん」


ちょっと…嫌だ。

ずっと一緒に育ってきた、誰よりも仲良しの精菜が…敵になるなんて。



―――でも

考えてみれば、お父さんとお母さんも碁盤を挟めば敵同士だ。

一歩囲碁から離れると、普通の夫婦。

それじゃあ私達も、囲碁から離れると…普通の親友になれる?


お兄ちゃんとも、精菜とも、そして両親とも……いずれは真剣勝負の世界で戦うことになるんだ。

嫌だ。

でも…それがプロ。

この世界で生きると決めた私の運命。

今はただ…がむしゃらに頑張ろうと思う。



神の一手を目指して―――









―END―










以上、院生研修・2回目の話でした〜。
あんなに悩んでたくせにあっさり勝っちゃいました(笑)
でも院生での本当の強敵はやっぱり精菜だと思います。レベルが違うと思う。
プロ試験ってたしか合格3人ですよね?
果たして来年は誰を受からせようかしら〜(笑)