if side:怜次F〜怜次視点〜





「外部受験どうしよっかなー」



中学生活も終わりに近づいた1月。

隣の席の草薙が突然ボヤきだした。


海王は中高一貫校だ。

でもだからといって100%全員が高等部に進学するわけではない

希望する将来の職業によっては、外部受験をするのも一択だからだ


「緒方はいいよなー。もう将来が決まってて」

草薙が俺に話を振ってくる。

「でも緒方の成績なら何だってなれるのにな。何で棋士なわけ?」


「……別に」


プロ棋士になって約4年。

3になった俺はそろそろ選択を迫られていた。

このまま棋士を続けるか――他の道を選ぶか。

他の道を選ぶなら一刻も早く棋士なんてやめてそっちにシフトした方が賢明だろう。

医者にしろ弁護士にしろ、母親の会社を継ぐにしろ、今なら何だって選べる。


でも俺がプロ棋士になったのは彩の為だ。

彩がもし俺を一生の伴侶として選んでくれるのなら、このまま一生をプロ棋士としての人生に注いだっていいと思ってる。

彩が俺を選んでくれるなら――


チラリと黒板横のカレンダーを見た。

今日は114日。

つまりあと一ヶ月で約束の日が来る。

彩と一線を越える日が――


(やっぱ聞くならこの日だな…)


チラリと今度は廊下に目をやる。

彩が女友達と仲良く駄弁ってる姿が見えた。

きっと彼女は俺がこんな重いことを考えてるなんて夢にも思わないだろう。

バレンタインデーに初めて彼氏とエッチするから楽しみ、ぐらいにしか思ってないだろう。


俺がプロ棋士を続けるか、辞めるか、彼女の返答次第ってことに――

 

 

 

 

 



「俺、彩の為だったら一生棋士の仕事頑張れるよ」

「だからいつか俺がタイトル取ったら……結婚してくれる?」


我ながらめちゃくちゃ重い。

3のガキが何を言ってるんだろう。


でも、切実な想いだった。

彩の為だったら俺は一生を棋士に捧げてもいい。

タイトルを取ったら結婚してくれるっていうなら――俺はこれからも頑張れる。


(笑われるかな…)

(急にどうしたの?って困惑されるかな)


彩が考えている間、判決を待ってる罪人の気分だった。

でも彼女は笑いも困惑もしなかった。


「ありがとう…」と。

「怜次がタイトル取る日を楽しみに待ってるね…」と――俺を受け入れてくれたのだ。



俺の人生が確定した瞬間だ――



もう迷わない。


俺は一生彼女の傍で、彼女の為にプロ棋士として頑張るんだ――

 

 

 



「――…んん…、ん…っ」

俺と彩の初めてのセックスが終わった1時間後。

俺らはまたキスし始めていた。

2ラウンドの開始ってやつだ。

今夜は彩が家に泊まってくれるから、俺はもちろんもっともっと、限界まで彼女を抱くつもりだ。

初っ端から飛ばし過ぎだって?

俺もそう思う。

でも、止まらない。

溢れてくる彼女への愛が止まらない――


「ぁ…っ、ぁっ、は…ぁんっ、怜…、激し…」

「…は、…彩、…彩…っ」


1
回目は必死に破瓜の痛みに耐えていた彼女だけど、2回目は嘘みたいに感じてくれてるのが声だけでも分かる。


「なに…、これ…、気持ちい…、ぁ…っ」

「気持ちいい…?」

「うん…、いい…、もっとぉ…」


俺の腕の中で喘いでくれる彼女の姿を見るだけで、こっちはもうイってしまいそうだ。

なるべく目を閉じることにする。

もしくはキスをして…、見えないようにする。


「んん…、ん…っ」


ああ…、可愛い。

めちゃくちゃ可愛い。

こんなに可愛い子が俺の彼女だなんて信じられない。

おまけにタイトル取ったら結婚してくれるらしい。

もう一刻も早く取らなければ。

18
歳を目指しちゃおう。

いや、17で取って誕生日に入籍するのもアリかも……


「あぁ…、んっ」

彼女の中が締まり、喘ぎ声から吐息に変わる。

イッた証拠だろう。

いつでも準備万端な俺の方も速やかに達した――

 


「は…ぁ…、気持ちよかった…」


満足気にうっとりと俺を見つめてくる。

「今度は痛くなかった?」

「うん…、全然。意味分からないくらい…」

「へぇ…」


しばらくベッドの上で、裸なままで、そのままピロートークを楽しむことにする。


「あ、お父さん達の棋聖戦どうなったかな?」

「見てみるか」


サイドボードに置いてあった携帯を手に取って、囲碁チャンネルをつける。

封じ手まであと1時間。

両者難しい顔をして盤を睨んでいた。


「どっちが封じ手かなぁ?」

「このまま進藤先生が封じたらちょっと消費時間が多くなりすぎるから、まだ打ちそうだよな」

「うん、そだね」


まだ五分な局面。

明日の2日目が楽しみだ。


「ふふ…、お父さん達、まさか子供達が今一線を越えたなんて夢にも思ってないだろうなぁ」

「…どうだろうな。さすがに今回は好条件過ぎるからバレるかも

「う…、確かに。お互いの両親が揃って留守なんて滅多にないもんねぇ…」


というか、ゴミ箱とか見られたら一発アウトだな。

ティッシュとかゴムの袋とか、明日までしまくってたらすごい量になりそうだ。

(上手いこと処分しておかないとな…)


「そろそろ夕飯食べに出るか?」

「そだね。服着よっか」


二人ともゴソゴソ着だした。

 

 

 


近所のファミレスに行って、適当に注文する。

平日は海王生で埋め尽くされてるこのファミレスだけど、土曜日は制服を着ている客は全く見当たらない。

でも全くいないわけではなく、

「あれ?彩と緒方君じゃん」

とドリンクバーでクラスメートの木村さんと鉢合わせる。

(彼女は家族と来ていたみたいで、隣に妹らしき小さい女の子がいた)


「デート中?」

「えへへ〜そうなの」


木村さんはもちろん俺と彩が交際してることを知っている。

というか、クラスメート全員が知っている。

(彩は隠すのが下手なので、付き合い始めた後、速攻でバレた)


「お熱くて羨ましいわ。じゃ、またね〜」

去り際、木村さんが自分の首筋をトントンとする。

「見えてるよ」とジェスチャーで教えてくれる。

何が見えてるのか。

理解した途端、俺らは揃って一気に顔が赤くなった。

彩が首筋を必死に髪で隠していた。

(しまった…、調子に乗ってあちこちキスマーク付けすぎたか…)


「クラスの皆にバレたらどうしよう…」

と彩は既に半泣きだ。

「…いいだろ別に。俺ら付き合ってもう1年半以上経つし。とっくの昔に一線越えてるって思われてるよきっと」

「それもそうか…」

むしろ今日初めて越えましたなんて言ったら、そっちの方が驚かれるだろう。







「…ね、怜次」

「ん?」



食事をほぼ食べ終えたあたりで、彩が唐突に話しかけてくる。


「私達…、結婚するんだよね?」

「…俺がタイトル取ったらな」

「じゃあ…、私も誕生日にほしいな。お姉ちゃんみたいなやつ」

「…ああ」


一昨年の誕生日に、佐為姉は京田さんから指輪を貰っていたのだ。

確かにあげるなら今がベストかもしれない。


「いいよ。誕生日前に一緒に買いに行こう」

「ホント?!」


彩が笑顔を向けて来た。

この笑顔が見れるなら、指輪の一つや二つ、お安い御用だ。

もちろん、今回あげるのはあくまで誕プレだ。

タイトルを取った暁には、ちゃんとしたやつをもちろん贈ろうと思う。


(とりあえず来週の本因坊リーグ頑張ろう…)


目指すは2年後だけど。

少しでも可能性を上げるために、目の前の対局を一局一局頑張ろうと思う。



全ては彩の為に――


 

 


END

 

 

 

以上、彩と怜次の初めて話の続きでした〜。
彩、めちゃくちゃ怜次に愛されてますね…(笑)重いぜ…。
まぁ等価交換ですよね。彩の為に一生棋士を頑張るんだから、結婚くらいしてくれないとね。

初夜話はこれで終わりですが、きっとこの晩もエッチして、翌朝もエッチして、彩が帰るまでいっぱいイチャイチャする二人なのでしたvv
ちなみに怜次は佐為のことを「佐為姉(さいねえ)」と呼んでるみたいですね。
ifでは彩が京田さんに全く興味がないのと同じく、怜次も佐為に全く興味がないみたいです。何か不思議だわー(笑)