if side:怜次I〜彩視点〜





「楓待ってたよ〜」

「お邪魔します」



春休み。

友達の後藤楓が私の家に遊びに来た。


「へぇ…、ここが進藤本因坊と塔矢名人のおウチかぁ…、ステキ」


将棋の女流棋士の楓。

囲碁界もそこそこ詳しいらしく、私の両親のこともちろん知っていた。


「彩ちゃん、飲み物はどうする?」

「ケーキもあるから紅茶かな。楓も紅茶でいい?」

「う、うん」


楓が楠さんを見てビックリしていた。

「進藤家ってお手伝いさんいるの?!」と。


「うん。お父さんもお母さんもタイトル戦だイベントだって、しょっちゅう留守にするから」

「そうだよね…」

「昔はお姉ちゃんが家事してくれてたんだけど、お姉ちゃんも高校入ったくらいからめちゃくちゃ忙しくなっちゃって」

「今や女流三冠だもんねぇ…」


長年お母さんが牛耳っていた女流タイトルを、片っ端から奪取していっている私の姉・進藤佐為。

怜次と並んで次の七大タイトルホルダー候補筆頭なのは間違いないと思う。

私も頑張らないと……




部屋にケーキと紅茶を運んで、さぁ準備完了だ。

一緒に食べながら、

「で?楓、相談ってなに?」

と本題に入った。

数日前、楓からLINEが来たのだ。

『二人きりで話せない?ちょっと相談があるんだけど…』と。

だから今日家に招待したわけなんだけど……


「えっとね…」

楓の顔がみるみる赤くなる……耳まで。


「彩って……緒方君と……シたことある?」

「え?!」


いきなりそんなことを聞かれるなんて思ってなかった私は、飲んでいた紅茶でゴホゴホと噎せた。

そして楓以上に私の顔も一気に真っ赤になる。


「あ……るよ?たぶん」


たぶんって何だ。


「そ、そうなんだ…、やっぱり…そうだよね。彩、もう1年半くらい付き合ってるもんね…緒方君と」

「え、で、でも……シ始めたのはつい最近だよ?このバレンタインデーが初めてだったから…」

「あ、そうなんだ…」

「う、うん…」


私達の間で微妙な空気が流れる。

でも、この相談ってつまり……


「楓…、細川君とするつもりなんだ?」


カーッと彼女の顔が更に赤くなる。


「も…、もともと塁斗君が三段に上がったらしよっかって、話してたんだけど……」

「へぇ…」

「でも、あの後私ら気まずくなっちゃったじゃん?だからそれどころじゃなかったんだけど…」


そう――ほんの数週間前まで、楓と細川君の間には不穏な空気が流れていた。

『私、フラれるかも…』

と楓が泣くほど関係は悪化していたのだ。

その中で無理やり立てたディズニーWデートだった。

何故かあのデート以降、楓と細川君の関係は元に戻ったのだ。

戻ったどころか、こんな相談してくるくらいだから……


「良かったねぇ…楓。ラブラブじゃん…」

「そ、そうなの…、だから塁斗君に明後日、家に来ないかって誘われてて…」

「ほほう…」

「ご両親も平日だから……仕事でいないからって…」


きゃーっっvvと私は声をあげてしまった。


「それ絶対ヤッちゃうやつじゃん!楓もついに大人の世界に足を踏み入れちゃうのねvv」

「や、やっぱそうなるよねぇ?だ、だから、彩にどんな感じなのか聞いておこうと思って…」

「いいよー何でも聞いて!あんま参考にならないかもしれないけど!」


ほんのつい一ヶ月前の、私と怜次の初体験を思い出しながら私は楓にアドバイスすることにした。

楓が引っかかってるのはこの2点だ。


@痛いのか。


「んー…、そりゃ痛いけど、我慢できないほどじゃないよ。痛いの1回目だけだしね。私ら1時間くらい開けてすぐ2回目したけど、その時は全然痛くなかったもん」

「え…、1日でそんな何回もするの…?」

「私はお泊りしちゃったからね〜。4回はしたかも?いや、5回?

「そ、そうなんだ…」


A恥ずかしくないのか。


「電気は消した…?」

「え、消してないよ」

「でもそれじゃあ丸見えじゃ…、恥ずかし過ぎない?」

「そりゃ最初は恥ずかしかったけど…、途中からそれどころじゃないしねぇ…」

「そ、そうなんだ…」

「でも、嫌なら電気消してって言えばいいと思うよ」

「う、うん…、そうする」

「ごめんね、あんまり参考にならないね」

「ううん…、教えてくれてありがとう」

「でも一つだけ言えるのは、エッチすることで前以上に自分が愛されてるって感じるし、怜次のことももっともっと好きになったよvv」

「そうなんだ…、私もそうなったらいいなぁ…」



楓が携帯を取り出した。

そして将棋チャンネルを立ち上げてる。


「今日塁斗君…、棋王戦の記録取ってるんだよ」

「へー!今日だったんだ!」


画面中央に映る細川君。

対局者ではないけれど、彼も真剣に盤を見つめていた。

途中で居眠りしてしまう記録係もいる中で、この姿勢はすごく大事だと思う。


そういう私も自分の携帯で囲碁チャンネルを開いた。

そこには自分の彼氏と父親が睨み合って座っている光景が映し出されていた。


「緒方君も今日対局なんだね…。しかも進藤本因坊と?!」

「うん…、名人リーグ」

「すご…」


トップ棋士9人で行われる持ち時間5時間の大一番。

もちろん怜次もスーツだ。

(超カッコいいvv)


「お互いの彼氏がこんなに頑張ってるのに、私達だけのんびりケーキ食べながらお茶しちゃって、何か申し訳ないね…」

「そうだよねぇ…」


同意しながら、私は中継されている怜次の顔に見入っていた。

盤を睨むその真剣な表情にゾクリとなる。

右手に持つ扇子をずらして開けたり…閉じたり。

パチパチしながら読み耽る彼の様子がものすごくカッコいいのだ。


「彩ってば…、恋する乙女の顔になってる」

「え?!そ、そう…?」

「緒方君のことホント好きなんだねぇ…」

「うん…好き。どんどん好きになってる…」

「へぇ…」


日に日に好きになる。

同時に独占欲も強くなる。

配信のコメント欄なんか開いてしまったら終わりだ。

怜次に向けられる『カッコいいv』のコメント一つにすら嫉妬する自分がいる。


(ああ……私もエッチしたいなぁ…)


怜次に抱かれたい。

そして安心したい。

彼は私のものなのだと、私だけのものなのだと肌で感じたい――








「ありがとう彩。私、明後日頑張ってみる…」

「うん、頑張って。いい報告期待してるね

「うん…///


夕方、楓が帰って行った。

私も再度携帯で中継サイトを開き、怜次の応援の続きをする。

そして、彼にLINEを送ってみた。


『明後日、楓と細川君、初エッチするんだって。私も怜次としたいなぁvv』

と。


終局後にこれを読んだ彼からの返信が楽しみだ――

 

 

 


END

 

 

 

以上、女子トークでした〜(笑)
こんな赤裸々に友達に相談する中学生がいるのかどうかは知りませんがw
次は男子トークですな!(笑)