●ICHINOSE's ASPECT●
本気で大学は医学部を狙いたかった俺は、都内でも屈指の進学校・海王高校に進学することに決めた――
海王は約半数が中学からの持ち上がり組。もう半数が外部からの受験組だった。
A〜Hまでの全8クラス。
成績順で分かれていた。
入学試験が難しい海王だから、当然受験組は基本頭がいい。
中学の時の全国統一テストで3桁にも入ったことのあった俺は、もちろん一番成績がいいA組になった。
そこで出会ったのが――進藤千明だった。
もちろん、最初は意識なんかしてなかった。
美人だったけど、そんなに目立つタイプじゃないし。
成績だってA組では下の方。
テストの度に張り出される校内順位では、B組の奴らに負けてる時もあるぐらいだった。
でも、外国語の授業の時の発音が英語も中国語もめちゃくちゃ綺麗で、帰国子女か?って思うほどで……何か気になる存在だった。
「進藤、明日進級テストだぜ?」
「そうだね」
「そうだね…って。分かってるなら勉強しろよ。二年からB組に落ちてもしらねぇぞ?」
「一ノ瀬心配してくれてるの?ありがとう」
クスクス笑われた。
…何で笑うんだ?
中間も期末も、貼り出される校内テストの順位、めちゃくちゃ悪いじゃんお前。
進級テストで頑張らないと確実にB組落ちだぞ?
それとも何?
クラスとか、そういうのに興味ないのか?何組でも構わないと?
……俺は嫌だ。
何となく……二年も進藤と同じクラスでいたいし……
「…さっきから何やってんだよ?」
「見て分からない?」
「…囲碁?」
「そ」
「進藤って囲碁部だっけ?」
「ううん。趣味なの」
「……へぇ、囲碁が?」
変わった奴…。
後から分かったことだが、進藤の両親はプロの囲碁棋士だった。
しかも二人ともタイトルホルダー。
テレビに父親が出てた時なんて、思わず飲んでたコーヒーを吹き出してしまった。
六冠って、すげぇ…
ちなみに進級テストの進藤の順位は240人中45位だった。
もうB組の中堅クラス。
俺は…11位。
こりゃ絶対二年はクラス別々だな…と諦めてたら―――何と同じクラスになった。
もちろんA組。
何で…?
「腑に落ちないって顔してるね」
「だってさー…」
「一ノ瀬知ってる?海王のクラス分けは順位じゃなくて全テストの平均偏差値で決まるんだよ」
「…持ち上がり組のお前に言われなくても、そのくらい知ってるけど」
「A組の最低偏差値は65。一年を通してそれ以上にすればいいんだから、校内テストで多少手を抜いても模試を真面目に受ければ余裕でクリア出来るよね」
「つーか…手を抜くなよ」
「出題範囲が決まってる校内テストは嫌いなの。丸暗記するだけで点数が取れるテストなんて馬鹿馬鹿しくてやってられない」
「進藤って…実は頭いい?」
「別に」
「…1月の全国模試、何位だった?」
「1月は37かな」
「37?」
「そ。全国で37。海王の中では一番よかったみたいだけど」
「マジで?!それってもしかして…、いや、もしかしなくても東大とか余裕で狙えるんじゃねぇ?」
「国立はキャンパスが汚いからイ・ヤ」
「……」
進藤は不思議な女だった。
でも気が付いたら女子の中だと一番仲良くなってて、気が付いたらいつも目で追ってて……それが恋だってことに気付くのに時間はかからなかった。
「へー、一ノ瀬って医学部志望なんだ?じゃあ将来の夢は医者?」
進学希望の用紙に記入してる所を、進藤が覗き込んできた。
「見るなよ。…進藤は?」
「私は法学部。でも理系で希望出そうかな」
「はぁ?法学部なら文系行けよ」
「だって、一ノ瀬とまた同じクラスになりたいし」
「……意味、分かんねー…お前って」
嬉しかった。
三年からはクラスは成績順+文理でも分かれる。
進藤が理系クラスに来たおかげで、俺らは三年間同じクラスになることが出来た。
そして秋には早々と進藤は推薦でK大に合格。
俺には…正直、偏差値74のK大医学部は無理。
無難に狙ってた大学を受けることにした。
春になったら進藤とはサヨナラだ。
福岡と…東京だし。
でも、俺の気持ちはもう決まってる。
大学に受かった後、絶対に言うからな。
好きだって―――