●HORROR NIGHT●
「進藤、夕飯食べていくんだろ?」
「おー…頼む」
今日も手合いの後、僕の家で検討をしていた僕ら。
そのまま夕飯を食べて帰るというのが、進藤の最近の流れとなっていた。
「さっきから何見てるんだ?」
出来上がった料理を居間に運びながら、テレビにずっと釘づけの彼に尋ねた。
「んー…ホラーの特番」
「ホラー?」
僕も見てみると、どうやら日本各地の心霊スポットを回ったりする番組らしい。
廃校とか病院とかトンネルとか…。
…やだな。
実は僕はこの手の番組が苦手なんだ。
チャンネルを変えてほしい。
でも進藤は昔から大好きなんだよな……
「…な、この家オマエん家に似てねぇ?」
「に…似てないよっ!変なこと言わないでくれっ」
でもテレビが潜入した日本家屋は、平屋で…少し形が僕の家に似ている気がする。
あ…やだな。
怖くなってきた。
進藤が帰ったらこの広い家に一人きり。
何か出たらどうしよう……
「あー面白かった。んじゃそろそろ帰ろっかな。晩メシサンキューな、塔矢」
「か…帰るのか?」
「ん?うん」
「も、もう一局打たないか?」
「えー?もう9時だぜ?」
「明日休みだろう?いいじゃないか」
「もー。仕方ねーなぁ…」
ホッと溜め息が出る。
出来たら今夜は帰らないでほしい。
何とか終電まで引き延ばそう。
「あ、そうだ。先週お父さんと永夏が打った棋譜があるんだよ。検討しよう?」
「マジ?するするっ」
あーだこーだと検討すること数時間。
チラッと時計を見ると12時過ぎ。
もう間に合わない、と口もとを緩ませた。
「げっ!もう半だし!」
ようやく気付いた進藤が焦りの声をあげた。
「ありえねー…」
「仕方ないから、今夜は泊まっていけば?客間使っていいから」
「んー…じゃあそうさせてもらうか。歩いて帰れる距離じゃねぇしな…。タクシーは高いし…」
「うん。お風呂入れるね」
着替えもないのに…としぶしぶ承諾した彼を背に、僕は意気揚々とお風呂場に向かった。
よかった。
進藤がいるなら安心だ。
あとは僕が眠るまで彼が起きててくれれば完璧なんだけど……
「…おい。何で客間に二つも布団敷いてんだよ」
「え?だって…」
お風呂から出てきた進藤は、客間に入るなり目を丸くしてきた。
「オマエは自分の部屋で寝ろよっ」
「やっぱり…ダメ?」
「ダメに決まってんだろ!オレらは一応男と女なんだぞ?!」
「そうだけど……」
躊躇う僕の代わりに、進藤が布団を素早く片付けだした。
「じゃ、オマエもさっさと風呂入って寝ろよなっ」
と僕を客間から追い出し、ピシャリと障子を閉めてしまった。
……どうしよう……
取りあえずお風呂場に向かったものの、後ろに誰かいたらどうしよう…と何度も振り返ってしまう。
鏡越しにチェックしたり…。
風で外に置いてある何かが転がる音を聞いただけでビクッとなったり…。
僕ってこんなに小心者だったんだ……
「……はぁ」
ようやく部屋に帰ってこれて少し溜め息が出た。
ドライヤーで髪を乾かしながら、部屋を隅々までチェックする。
誰もいないし、何もいない。
大丈夫。
でも耳を澄ますと何かが遠くで聞こえる気がする…。
進藤は何してるんだろ…。
もうちょっとだけ一緒にいてもらおうかな……
「進藤…?」
そうっと客間の障子をあけると、布団に寝そべりながら携帯をいじっている彼がいた。
「何?」
と冷たい視線を僕に向けてくる。
「特に用はないんだけど…」
一歩部屋に入って、障子を閉めた。
布団の横に勝手に座る僕を、訝しそうに見てくる。
「あの…、もう少し一緒にいてもいい?」
「……だめ」
「どうして?」
「どうしてって……」
彼の顔が見る見る赤くなっていく。
「オマエ…さ、オレを試してんのか?」
「は?」
「こんな時間にそんな格好で来て、一緒にいたいとか言われたら………男は勘違いする」
「あ…」
途端に僕の顔も真っ赤になっていくのが分かる。
「そんなつもりじゃないんだけど…」
「だったら出てけよ。目の毒だ」
「でも…一人は嫌なんだ。怖くて…」
「怖い?」
「キミがいけないんだ!あんな番組を僕に見せるから!」
「は?なに?オマエあの程度でビビってんの?」
プッと吹き出されて、僕の顔は恥ずかしさで更に真っ赤になった。
「あんなの半分嘘っぱちだって」
「でも…」
「大丈夫。オレ霊感強いもん。この家には何もいねーから」
「う…ん」
進藤が僕の頭を慰めるように…からかうように、乱暴に撫でてきた。
その手の動きが徐々に遅くなっていく……
「進藤…?」
「あー…やべぇ…」
「え?」
「オマエのこと、可愛いかも…とか思っちまった」
頭に触れていた手が髪に移動して……進藤がそれに口付ける――
「今夜…一緒にいてやろうか?」
「え…?」
かなりの近距離で見つめられて、僕の体は固まってしまう。
もちろん一緒にいてほしいけど……
でも、本能的に…進藤は僕に触れるつもりなんだ…と分かった。
嫌ではないけど……その前に言葉が欲しいと思う僕は、やっぱり女なんだなと実感する。
「…あ…待って」
頬に唇を移してきた彼にストップをかけた。
「進藤、こういうことは…恋人同士がするものだ」
「だから?」
「だから……ダメだ。言うのが先」
「ん…分かった」
頬から手を離した彼は、今度は僕の手に触れ…握ってきた。
再び見つめられて、この雰囲気に僕の胸は破裂しそう。
「その場凌ぎの嘘じゃねーからな?ずっと前から思ってたことだし…」
「う、うん…」
「好きだよ…塔矢」
「………」
かぁぁ…と一気に体温が上がっていくのがわかる。
嬉しいのに恥ずかしい……
「塔矢は…?」
「う…うん、僕も好き…かな?」
「かな?って何だよ…」
進藤が笑いながら僕の体をゆっくりと倒してくる――
何度も頬や髪にキスされて、優しく僕を包みこんできて――
「…もう怖くないだろ?」
「うん…、でも…別の恐さがあるかも…」
「はは」
でも…相手がキミだから…平気かな?
「出来るだけ優しくするな」
「うん…――」
とにかく晴れて恋人同士になった僕ら。
以来、進藤が夕飯の後そのまま泊まっていくようになったのは言うまでもない話―――
―END―
以上、怖がり屋アキラさんでした〜。
ヒカルは怖い話とか幽霊とか大好きだと思う。
アキラは反対に苦手だと思う。
うーん…何だか最近アキラが乙女化してる気がする(=_=;)