●HONINBOU●





いつかこんな日が来るんじゃないかって思っていた――



21歳の時から20年間、一度も他の奴に渡さなかったタイトル。

オレにとって一番特別な『本因坊』。

本当に特別だった。

出来ることなら、引退するその日まで持ち続けていたかった。



でも……それももう終わりだ。



目の前の、下座に座る挑戦者に、オレは目を向けた。

真っ直ぐ碁盤を見ているオレの息子――佐為。

中2で入段してから、周囲の期待通りの戦績を修めてきた。


オレとの初めての公式戦は中2の1月――天元戦本戦の一回戦。

プロになって9ヶ月、コイツにとっては初めての黒星だった。

手加減はしなかった。

する余裕もなかった。

それくらい初っぱなからオレを追い詰めてきて、だからこそ一刀両断しなければならなかった。

自分の子供ながら恐怖を感じた瞬間だ。


初めてオレが負けたのは高2の秋。

十段戦本戦の二回戦だ。

オレに勝ち、更に決勝でアキラにも勝ち、挑戦権を手にした佐為。

そして緒方先生との五番勝負にも勝利して、初めてタイトルを獲得した。

更にその秋の名人戦では七番勝負にアキラに勝ち、あっという間に二冠になった。

あの時アキラは言った。


「悔しいけど……誇らしいよ。自分の息子にタイトルを取られるなら本望だ」と。


今のオレの気持ちと同じだったんだな…と悟る。



息子に、『佐為』に、このタイトルを譲るなら――オレも本望だ。





「ありません」





オレが頭を下げると、嫌味なくらいカメラのフラッシュが光った。

若干23歳の四冠の誕生だ。

不思議とオレの口元は笑っていた。







「お父さん」


検討終了後、オレが先に部屋を出ようとすると、呼び止められた。


「…何?」

「僕にこの名前を付けてくれてありがとう…」





……え……





「お父さんの代わりに、今度は僕がずっと保持していくよ」

「…さぁ、それはどうかな。来年また取り返しに来るからな」

「うん……楽しみにしてる」



対局室を出て、用意された自室に急いで戻った。

涙が出そうだったからだ。

もちろん半分は悔し涙かもしれない。

でもそれより、何より、嬉しかったからだ。








「アキラどうしよう!」

オレは慌てて家で待つ奥様に電話した。


『残念だったね…』

と既に結果を知ってるらしいアキラに慰めの言葉をかけられる。


「そんなことどうでもいいから!いや、どうでもよくないこともないけど…っ」

『は…?』

「佐為にありがとうって言われた!!どうしよう!!オレ泣きそう!!」

『…何に対してのありがとうなんだ?』

「名前!佐為って付けてくれてありがとうって!」

『……そう。それは…良かったね…』

「うん!!」


佐為がプロ試験を受けてた時、幽霊の佐為のことをアキラとアイツに話した。

後日言われた言葉を今でも思い出す。



――その名前で呼ばないでよ!――

――だいたい普通子供に同じ名前付ける?!――

―― 一体どういうつもりなんだよ!――

――僕を何だと思ってるんだ!!――

――もうちょっと考えてから名前くらい付けてよ!――



ショックだった。

めちゃくちゃ反省した。

もうお詫びのつもりで門下も開いた。


それなのに、それなのに、それなのに――ありがとうって!!





(佐為ーーー!!!)

↑幽霊の方な




「もうオレ泣きそう…。もういいや、タイトルくらいアイツにやるよ…」

『何を言ってるんだ?来年絶対に取り返せ!僕だって今でも全然諦めてないからな!』


オレの奥様は相変わらず厳しかった。

そして相変わらず碁バカだ。

でも、オレはそんなアキラが大好きだ。


「そうだな。来年頑張るよ」

『当然だ』

「一緒に頑張ろうな」

『もちろん』

「愛してるからな」

『……僕もだよ』



これからもずっと一緒に、ひたすら上を目指していこう。

そしていつか必ず一緒に神の一手を極めような――











―END―











以上、ついにヒカルが本因坊を佐為に取られちゃったよ★話でした〜。
プロ試験の時に佐為に言われた言葉が忘れられないヒカル。
これでようやくずっと心の中にあったモヤモヤが消えたんではないでしょうか。

ちなみにこの年の年末、佐為は倉田さんから天元位も奪取し、五冠になります。
倉田さんは佐為が小6の時、イベント後に打った時のことを思い出します。
(強くなったなぁ…)と。
残すは窪田さんの持つタイトルのみですな。
さくら嬢のことがあるので、そう易々とは譲ってくれませんよ!むしろ一個くらい取られるかもよ!
佐為のライバルはやっぱり窪田さんですなw

ちなみに佐菜ちゃんの誕生から一ヶ月後、西条のとこに男の子が生まれます。
もちろん西条は「将来子供たち結婚させへん?」と話を持ちかけてきます。
西条の息子なんて絶対に手が早いと思った佐為は断固拒否。
佐為にとって佐菜ちゃんは何より大事な宝物なのです。
きっと佐菜ちゃんも若くてカッコいいパパが大好きに育つよねw
精菜と佐為を取り合ってもいいよねw
でもってヒカルに似てまぁまぁ性欲の強い佐為ですから、佐菜ちゃん以外にもきっとたくさん子供出来るよね♪
美男美女のDNAはいくら増えてもいいと思います!
でもって彩と京田さんにも近いうちに子供が出来ることでしょう。
当然全員碁は打てそう。
孫達で碁盤囲って研究会開いたり合宿してもいいよね。

ちなみに奏君は小6でプロ試験を受けてもちろん一発合格です。
あかりちゃんの娘ちゃんとは上手くいくのかな?
何かこの二人の話だけで30話くらい普通に書けそうだわ(笑)

とまぁ永遠に続いてキリがないので、FEMALEはこれにて完結させます。
ヒカルの強行計画話は最後こんな感じになりました。
計画の為に作った佐為にヒカアキ二人ともタイトルを奪われるハメになるわけですが(笑)
でも何だかんだで棋士としても人としても、ヒカアキは充実した人生が送れてるんじゃないでしょうか。

それでは長い間ありがとうございました!
最後まで読んで下さった方に感謝!