●HIKARU's BIRTHDAY 27A●





オレは進藤ヒカル。

27歳の誕生日を一ヶ月後に控えたギリ26の男。O型。乙女座。



実をいうと……まだ童貞である。



オレの人生は棋士としては順風満帆だったと思う。

14歳で入段。

19歳で念願の本因坊のタイトルを奪取。

翌20歳には王座を。

翌21歳には碁聖も取って三冠になった時もあった。

タイトルまでは届かなかったものの、名人の挑戦者には2回なったし、棋聖なんて3回。

今や全リーグの常連だし、今も本因坊と碁聖のタイトルを保持している。

囲碁を知ってるものでオレを知らない奴はもうきっといないだろう。



だけど――



オレの私生活を知ってる奴が果たして何人いる…?

ぶっちゃけ、碁を頑張りすぎたのだ。

仕事が忙しすぎて忘れていたのだ――恋愛することを!!


実はというと去年26歳になった時も思ったのだ。

今年こそは…今年こそは恋人を作るぞ!と。

でも名人戦の七番勝負は秋なんだ!9月スタートなんだよ〜〜!!

勝負が着いた頃には冬が来ていて、おまけに棋聖リーグも大詰めだった。

見事挑戦者になったものの、おかげで年明けからは忙しく…あっという間に春。

あっという間に今度は本因坊の防衛が始まって…夏。

で、この前まで碁聖戦を戦っていて……気が付いたら、何か朝晩涼しくなっていた。



ヤバイヤバイヤバイ。

ヤバイってオレ!あと一ヶ月で27じゃん!アラサーまでもうちょっとじゃん!

27で童貞とかマジでヤバくねー??!

(しかもこの容姿で!この年収で!)



「こうなったら風俗でもいくか…いやでも…」

「何をブツブツ言ってるんだ?」

「ぅわぉ!いきなり出てくるなよ!オマエ!」


棋院まで歩きながら考え事をしていたら、急に塔矢が横にいてビビる。


「ずっとキミの後ろにいたけど?」

「ウソ…いつから?」

「市ヶ谷の駅を出たあたりからかな」

「マ、マジで…?」


てことは、オレの人生を振り返ってた冒頭からずっと?

やべ、オレ口に出してないよな?聞かれてないよな?


「ふぅん…」

「な、なんだよ…」

「キミってまだ童貞だったんだ」

「………」


誰かオレを殺して下さい……


いや、コイツを殺して下さい……



絶対に知られたくなかったことを、よりにもよって塔矢にバレてしまうなんてもう一生の不覚。

マジで死にたい……



「なに泣きそうな顔してるんだキミは」

「絶対に誰にも言うなよオマエ!!」

「なぜ急に怒るんだ…」

「うるせー!こっちは秘密バレて恥ずかしくて死にそうだってのに!」

「別に恥ずかしいことじゃないだろう?」

「はあ?どこが?!」

「僕だって処女だけど、全然これっぽっちも恥ずかしくないよ」

「………」


そ……

そうなんだ……

オマエも処女なんだ……

同じだな。

仲間だな。

よかったよかった。



「…じゃなーい!!女と男じゃ全然違うんだって!女は結婚まで処女なのは当たり前!オマエは独身だから処女で当然なの!」

「……キミがなぜ女性にモテないのか分かった気がするよ。古いよ…」

「はぁ?!オレがモテないわけねーだろ?!こんなにカッコいいし性格いいし金持ちなのに!」

「……自分で言うな」

「今までだってそりゃもういーっぱいコクられましたぁ!」

「じゃあなぜ未だに経験がないんだ?」

「だ、だって…若い頃は女より囲碁囲碁だったし…。今はなんか明らかに結婚というか金目当ての女しか寄ってこないし…。変にブランドがつくとこれだから嫌だ…」


ヘタに手を出したら付け回されそうだしなぁ……



「いいじゃないか別に。結婚すれば?」

「金目当ての女と?オレは本当にオレのことを好きでいてくれる女じゃないと嫌なの!たとえオレが無職になろうが無一文になろうが頑張ろうって一緒に寄り添ってくれるような健気な――」

「面倒くさ。もう一生童貞でいろ」

「なんだよオマエだって処女のくせにその上から目線は!ちゃんと聞けよ!」

「はいはい、じゃあもう僕と結婚しよう。僕がキミの初めての相手になってあげるから落ち着け」




………は?




「キミが無職の無一文になっても見捨てないで寄り添ってあげる。一緒に碁会所でも開いて頑張ろう」

「…オマエ、オレのこと好きなの?」

「…好きだよ。実はね。だから今まで僕もずっと一人だった。僕も好きな人としか結ばれたくないからね、告白されても断っていた」

「そ、そっか…オレのこと好きなんだ…オマエ。そっか…、そ――」


え…


えええええぇ??!!



「マジで?!うっそ!本当に?!塔矢アキラ名人様々が?!」

「驚きすぎだ!失礼な!」

「だって…なんで今頃…もっと早く言えばよかったのに…」


塔矢とは12歳の時から、かれこれ15年近い付き合いだ。

コクるチャンスはいくらでもあったはず……


「まだ言うつもりなかったんだけどね。キミが風俗行くとか言うのが聞こえたから…ついね」

「あ、あれは別に本気じゃ…」

「本当だろうな?」

「本当だって!オマエが結婚してくれるのになんで風俗なんか――あ…」


塔矢がニコリと笑う。


「よかった、じゃあ一緒にいい家庭を築こうね」

「う…ん、そうだな、そういう人生もいいかな…」



一番身近なライバルな奴と結婚する。

そんな人生も楽しそうかもしれない。

早速オレの誕生日に入籍することになったオレらなんだけど……


『あいつら童貞と処女で結婚するらしいぜ』

と下世話な噂でターゲットにされ、オレらは大勢の目のある棋院のロビーでプロポーズしたことを後悔するのだった。







―END―







以上、ヒカルの27歳バースデー話・その2でした〜。
でも棋士って忙しすぎたら本当に婚期逃しそうというか、遅くなりそうなイメージです。
女流とかファンとか出会いは無いわけじゃないけど、タイトルホルダーまでいったらモテモテだろうし、返って慎重になってしまうというか…。
慎重になってるうちにタイトル戦に流されて…あっという間に一年が過ぎたり(笑)
27で童貞なヒカルもたまにはいいですよねw