●HELL●








「知ってる?処女を三人食った男って、ろくな死に方しないんだって」









2月14日―――バレンタイン。


オレは駅近くのカフェで彼女と待ち合わせ中だった。

30分も早く着いちまったけど、時間に厳しいアイツのことだ。

もうそろそろ来る頃だろう。

今日は付き合い始めてから初めてのイベント。

もちろんオレは彼女とお泊まりもしようとホテルまで予約していた。


なのになのに………



「マジ?じゃあ俺もうロクな死に方しないの決定かもな」

「ていうか、どこでそんなの聞いたんだよお前」

「テレビ。何とか宗のえっらい坊さんが理論的に話してたからさ、結構マジな話なのかも。俺、気をつけようっと」


すぐ近くの高校生のこの話を聞いて、オレは頭から血の気が引いていった気がした。

三人…がダメってことは二人まではOKなんだよな?

オレが16の時、初めて付き合った彼女は処女だった。

18の時に付き合った奴も処女。

19の時は違った。


じゃあ…………アイツは?





「進藤、お待たせ。待った?」


待ち合わせにやってきたオレの今カノ―――塔矢。

白のロングコートに流行りのワンピース。

珍しく髪も結って、化粧もマスカラまでしてる。

たぶん明子さんの力だな…と思いながらも、オレとのデートの為にここまで頑張ってくれる気持ちが嬉しかった。


「可愛いな、オマエ」

「ありがとう」


ご機嫌にオレの前に座ってきた。


「進藤、これ…」

「チョコ?サンキュー」

「ごめん…手作りする時間なくて、買ったやつなんだ」

「はは。いいって。オマエが忙しいのはオレが一番分かってるつもりだから」


…ごめん、塔矢。

オレ、ぶっちゃけ今はチョコなんかどうでもいい。

オマエ、処女なのか??

違うのか??

どうなんだ??

違うなら今夜心置きなく抱けるけど………でもそれも嫌だ。

コイツが既に他の奴と経験済みだなんて………

でも処女でも困る。

オレ、地獄にでも落ちるのかな……



「あー……どこか行くか?」

「買い物でもいい?今度授与式に着て行く新しいドレスが欲しいんだ」

「いいよ。じゃあ銀座にでも行くか」


デパートを梯子しながら時にはカフェで休憩もして、マグ碁で打ったりもして、お互い久々の休みを楽しんだ。

最後の締めにレストランでディナー。

バレンタインだからかデザートにチョコフォンデュがついてきたのには驚いた。



「美味しかったね」

「ああ」


塔矢がオレの腕をぎゅっと…組んできた。


「あのね……進藤」

「ん?」

「僕、今日……帰らないかもって、親に言ってきちゃった」

「…帰すわけねーじゃん」


とかカッコつけて一緒にホテルに向かいながらも、どうしようかとオレの頭はぐるぐるぐるぐる。

今更迷っても仕方ないんだけど。

頼むから処女じゃありませんよーに。

いやいや、処女でないと嫌だ。

でもでも地獄も嫌だーー










「……お待たせ」


シャワーを浴びて戻ってきた彼女の声に、オレはビクッとなる。

バスローブ姿で恥ずかしそうに立ってる彼女。

手を取って……口付けして……オレは諦めて聞くことにした。


「…塔矢、オマエ……初めて?」


コクンと恥ずかしそうにに頷かれて、オレはベッドに撃沈する。


「し、進藤?!大丈夫か?!」

「はは…」

「初めての女は嫌…?」

「んなわけ…ないけど。でも……」

「でも?」

「あのな…」


正直に昼間聞いたことを話した。








「じゃあキミ…僕を抱いたら地獄に落ちるんだ?」

「…たぶん」

「落ちればいい」



ええ??



塔矢の意外な反応に顔をあげると―――怒りに震えてる彼女がいた。


目には涙が浮かんでいる…


「塔矢…?」

「キミ、告白の時僕になんて言ったか覚えてる?」

「え?付き合ってくれ…って」

「その前!」

「…ずっと好きだった?」

「そうだね、確かにキミはそう言った。でも、ずっとっていつから?僕は……キミのことを出会った時から気になってた…」

「オレもそうだけど…」

「じゃあ何?遊びで付き合った女達が処女で、それで定員がいっぱいになっちゃったから、本命の僕は抱けませんって言いたいのか?」

「え…あ……いや」

「いいよ、もう…。そんなに自分が大事なら、僕が変わればいいだけの話だろう?」


え…?


「誰かに頼んで…抱いてもらってくるから」


ええ??


「待っ…!塔っ…!それはダメだ!!」


出て行こうとした彼女をぎゅっと…抱きしめた――


「…ごめん。オレが悪かった…ごめん」

「僕…は…ずっとキミ一人…だったんだ」

「オレもだよ。ごめん…地獄に落ちてでもオマエは一番抱きたい相手だったのに」

「僕の為に落ちてくれる…?」

「ああ。他の奴にオマエの初めてを取られるぐらいなら、落ちた方がよっぽど…マシ」


何度も何度も顔にキスをして―――彼女をベッドに寝かせた。


不思議なことに、コイツと一つになると……何だか身も心も清められる気がした。


地獄どころか天国に行けそうな気分。


いや、実際気持ちよすぎて…行ってるのかも――




「塔矢……好きだ」

「僕もだよ…進藤」







彼女が側にいる限り、オレは死ぬまで天国にいられるだろう―――














―END―












以上、迷信話でした〜。
でも、本当らしいですよ?
プレイボーイの男性は要注意ですよ?
遊ぶなら、遊んでる女と遊べってことなんでしょうかねーなんて。
バレンタイン話なのに暗い話になってしまってすみません。。。