●HAPPY X'MAS●
僕には付き合い始めたばかりの彼氏がいる。
その彼から
「クリスマスさ、一緒にすごさねぇ?」
と誘われた。
当然デートだと思った僕は、何日も前から服を考えて選んで、当日も一時間以上かけて髪のセットとお化粧をして準備した。
それなのに……
「こちらにもサインお願いします、塔矢九段」
「これにも」
「あ……はい」
それなのに、なんで僕は碁会所でおじいさま方に囲まれてるんだろう。
なんで多面打ちなんかやってるんだろう。
ファンサービスは大事だよ?
大事だけど……クリスマスぐらい普通のカップルみたいに、映画をみたり買い物したりドライブしたり、二人きりの時間を楽しみたかった――
「ごめんな〜早く連れてこいってうるさくてさー」
「いいよ…別に」
「怒った?」
「…別に」
やっと二人きりになれた頃には外はもう真っ暗で、すごく落ち込んだ。
一緒に過ごす…って、一緒に碁会所に行くって意味だったのか。
馬鹿みたい。
なに勘違いして張り切ってたんだ僕は。
馬鹿みたい馬鹿みたい馬鹿みたい。
何を期待していたんだんろう…進藤なんかに。
「えっと……メシ、食いに行くか?」
「いい…帰る」
「え?あ…待てよ塔矢!」
帰ろうと駅に向けて足を進めると――腕を掴まれた。
「離してくれ!どうせいつものラーメンかマックだろう?帰って夕飯食べるからいいよ」
「クリスマスに、んなとこ行くわけねーじゃん!すげー前から予約入れといたんだからな!」
「……予約?」
連れてこられたのは、ひと駅先の高層ビルの最上階。
窓側の席だったから…夜景がすごく綺麗だった。
このビルの真ん前にあった巨大なツリーも、ここから見るとすごく小さく見える。
「オレらデートって初めてだろ?碁会所にでも行かないと夜まで間がもたない気がしたんだよ。でも下手に二人で打つと絶対口論になるし。ちょっとぐらい外野がいた方がいいかなって思ったんだけど、思ったより長居したから二人きりの時間がなくなっちゃったな…ごめん」
「今日って…デートなんだよね?」
「あ…当たり前だろっ」
よかった。
一応デートだった。
一気にホッとなって、ディナーをちゃんと堪能することが出来た。
そもそも仕事以外で進藤とこんな店に来るの初めてで、すごく嬉しかった。
男の人と付き合うこと自体初めてだから…実はずっと憧れてたのかも。
クリスマスなんて恋人達の為のイベントのようなものだし。
「あの…さ、塔矢」
「なに?」
お酒も飲んでないのに何だか真っ赤になって、いつもの彼らしくない進藤が、コートのポケットから小さな箱を取り出してきた。
「クリスマスプレゼント?」
「ん…と、違うんだ」
中に入っていた指輪は、たしかにクリスマスプレゼントにしては高そうでシンプルで。
まるで――…
「オレと…結婚してくれませんか?」
「―――え?」
結…婚…?
「初デートなのに何先急いでるんだ?て感じだよな。でもオレ、三大タイトル取ったら絶対オマエにプロポーズしようって決めてて…。ならもっと前から付き合っておけばよかったんだけど……集中したくて」
「……」
「やっぱ突然過ぎた…よな?返事は急がないから…考えといてよ」
突然過ぎて頭の中が真っ白で、全然考えがまとまってないのに――勝手に頭が横に振った。
口が勝手に
「大丈夫…受ける」
と答えた。
「ホントに…?塔矢…」
「うん…嬉しい。ちょっとビックリしたけど、僕にはキミ以外考えられないし…」
「塔矢…」
左手を差し出すと、そっと…薬指にエンゲージリングをはめてくれた。
どこで調べたのか、サイズはピッタリだ。
「綺麗…ありがとう。大事にするよ」
「うん…オレもオマエを一生大事にする」
雰囲気的にはここでキスでも出来たらいいんだけど、まだレストランの中。
つい二人の世界に入っちゃってたけど、周りには他のお客さんもいっぱいいた。
「あー…そろそろ出るか」
「うん…そうだね。美味しかった」
進藤が会計してる間に、僕は化粧室でメイクを直した。
もう夜だ。
初デートっぽく、このまま帰って終わるのか。
それともプロポーズの後っぽく、もう少し…出来たら朝まで一緒にいるのか。
どっちなんだろう…
緊張気味に戻ると、同じぐらい緊張してるっぽい進藤が、エレベーターホールから前のツリーを見下げていた。
「お待たせ。せっかくだから…ツリー見て行く?」
「ん…そうだな」
ざっと見、高さ30メートルはある巨大なクリスマスツリー。
この時間になると家族連れはほとんどいなくて、見てるのはカップルばかりだった。
「綺麗…」
「うん…」
ツリーも気になるけど、それ以上に周りのカップルが気になった。
皆手を繋いだり…肩に手を回されてたり…抱きついてたり。
ちょっと羨ましい。
婚約はしたけど、やっぱり僕らは初デートって感じで、お互い意識してるのになかなか一歩が踏み出せないまま…会話もなかった。
23年間生きてきて、今まで恋愛ごとに無縁だったのは失敗だったのかもしれない。
もしそれなりに経験していたら、前の女の子みたいに彼氏の腕に抱きつくことが出来たのかもしれない。
じゃあ…進藤は?
そんな話したこともなかったけど、進藤は今まで他の女の子とも付き合ったことがあるのだろうか。
キスとか…それ以上の経験があるのだろうか。
想像したら何だか落ち込んできた。
経験がなくて下手なのも困るけど、経験豊富なのも嫌だ。
知りたいようで知りたくない。
「塔矢…もう帰ろっか」
「…うん。そうだね…」
一緒に駅まで歩いて、改札を通った。
お互いカードだから、行き先は不明。
でも彼のことだから、律義に僕を家まで送ってくれるつもりだろう。
だから行き先は僕の家の最寄駅…のはず。
僕の家には今は両親がいて、進藤も今は実家暮し。
どっちにしろ………
「――塔矢。次で降りるから」
「え…?」
僕の腕をしっかり掴んで降りた駅は、僕の家の駅でも彼の家の駅でもなかった。
再び改札を通って、どこに行くんだろう…と緊張と期待と不安で気持ちがいっぱいになりながら付いていった。
「ちょっと待ってて」
「あ……うん」
着いたのは、駅直結のシティホテルだった。
ここも予約してあったのか、フロントで鍵を受け取ったらすぐに帰ってきた。
エレベーターに乗って、またしても高層階に連れて行かれる。
進藤は高いところが好きなのだろうか。
カチャ
「あ…ツリーだ」
部屋に入ると、中央に可愛いサイズのクリスマスツリーが置いてあった。
窓からはさっきと同じような、うっとりするぐらい綺麗な夜景が見下ろせて――反対側には三人でも四人でも寝れそうな大きなキングベッドがあった。
どうしよう…と立ちすくしているうちに――後ろから進藤に抱きしめられた。
「…いきなりでゴメン。どうしてもオレのものにしたくて…今日中に」
うなじに唇を押し付けられて、次第に首筋にずらされながらキスをされる。
「ん……進藤…」
「塔矢…好きだ…好き」
耳元で囁かれる愛の声は、僕が今まで聞いたことのない彼の声だった。
低くて…優しくて…甘くて…色っぽい大人の声。
視線を合わせると、今にも食べられてしまいそうな熱を帯びた目で見つめられた。
「――……ん…っ…」
初めて触れた唇。
温かくて柔らかくて…うっとりしていると、舌を入れられて激しく貪られた。
「んっ…、んん…っ、ん…―」
初心者の僕にとっては今にも意識が飛びそうなキス。
が、体をベッドに倒されると、不安と恐怖で頭がまた冷えてきた。
「は……塔矢…」
頬に鼻に額に…顔中にキスして気持ちを訴えてきた。
僕も好きだよ。
誰よりキミが好きだ。
体でも愛を確かめられたら、一番深い場所で繋がとたら、どんなに素敵だろうと思う。
でも―――怖い
「眉間にシワ寄ってる…。嫌か…?」
「ううん…怖いだけ。初めてだから…」
「そっか…」
僕の不安をなくすように――ぎゅっと抱きしめてくれた。
進藤の心音が聞こえる。
すごく早くて…彼も緊張してるんだと分かった。
「…キミは初めてじゃないんだろう?」
「………ごめん」
「…やっぱりね。ずっと一緒にいたのに…全然知らなかったのは悔しいな」
「付き合ったことはないんだ…。合コンで会った子と一晩遊んで終わり…とか、そんなのばっかで…」
「…どうして付き合わなかったんだ?」
「オマエのことが好きだったからに決まってんじゃん!」
―――え?
「…僕…?」
「そ。真剣に付き合うのはオマエだけって昔から決めてた」
「……」
なら……どうしてもっと早く告白してくれなかったんだろう。
大三冠取ったら結婚っていうのなら、付き合うのはもっと前でもよかったはず。
碁に集中出来ないから?
妨げになるような恋なら、結婚しても同じだと思うけど…。
「でもさ、あんまり早くから付き合うのも問題だと思ったんだよな」
「なぜ?」
「オマエのことが好き過ぎるから」
「……」
思いもしなかった返答に、たちまち僕の顔は真っ赤になる。
「絶対抑えきかなくなって、もう見境なく抱きまくりそうだったし。てことはすぐ子供出来るだろ?それじゃあ塔矢先生に申し訳ないし…オマエも困るだろ?だから交際期間は出来るだけ短い方がいいって結論に達したんだ」
「子供……」
「そ、子供。早く結婚していっぱい作ろうな♪」
「……」
僕はこの時、意外に進藤は僕より人生設計が出来てるのかもしれないと少し感心してしまった。
全て考えて行動している。
行動した上での結果。
彼の中ではずっと前から、生涯横にいるのは僕だと決まっていたのはすごく嬉しいことだ。
「…ぁ……」
「きれい…」
彼の為に着飾った服を、彼によって脱がされていく。
お腹も胸も背中も、触られて嬉しいのに…恥ずかしくて。
気持ちいいというよりかはこそばゆくて、思わず笑ってしまった。
「…ぁ…っ」
ショーツの上から擦られた一番大事な場所。
念入りに触られて…隙間から指も入れられ…直に触られた。
「だめ……ぁ…」
下着を脱がされて、脚を大きく広げられた。
足元に移動した彼が、弄りながら確認するように覗き込んだ。
「すっげ…キレイなピンク」
「もう…そういうこと言わないで」
「舐めていい?」
「は?ぜ…絶対ダメっ」
「少しだけ。な?」
有無を言わさず口付けてきた。
これが少し??と思うぐらい舐められて、信じられないことに舌をあの場所に入れてきた。
気持ちいいような悪いような…。
というか、セックスってもっとこう…愛で始まって愛で終わるような綺麗な夢世界を想像してたのに…全然違う。
リアルで生々しくて夢なんて全くなくて我慢大会で…まるで運動。
綺麗どころか動物的でものすごく汚い。
「挿れるな…?」
「う…ん………ぁっ――」
痛い。
ものすごく痛い……のに、体で進藤を受け入れて…感じてる。
一つになれて、すごく嬉しい。
「やば……もう…」
「んっ…、ぁ…っ、あ…ん…」
「と…や…、…は」
「進…ど…」
目を少し開けると、苦しそうな進藤の顔があった。
初めて見る男の彼の顔。
色っぽくて…少し格好いい。
それに、可愛い。
子供か…そうだね、キミの子供なら産んでもいいかも。
キミは容姿も棋力も僕にとってすごく魅力的。
きっと、すごく可愛い子が生まれると思う。
「ごめん…塔矢……もう我慢出来ない…」
「ん……いいよ」
激しく動いていた彼の動きが止まり――刺さってるものが痙攣したのが分かった。
僕はまだ達してないけど、もう充分。
充分よかった。
「塔矢…」
嬉しそうに何度も頬にキスして、彼が上からぎゅっと抱きしめてきた。
「好きだ…」
「僕もだよ…進藤」
「早く結婚しような…」
「うん…」
生まれて初めてデートをした今年のクリスマス。
プロポーズされて、一晩中愛を確かめ合って、僕にとって生涯忘れられない一日となった。
☆★メリークリスマス★☆
―END―