●HAPPY★HALLOWEEN●





『ヒカル。ハッピーハロウィーン!』

『え?佐為?久しぶりだな、どうしたんだよお前、ハロウィンって…』

『ふふ、あの世に西洋も東洋もないんですよ。それよりヒカル、Trick or Treat?』

『はあ?』

『お菓子くださいな。くれないなら、イタズラしちゃいますからね』

『お前がオレにイタズラ?出来るモンならやってみろよ』

『いいんですか?じゃあヒカルの大事な――を――しちゃいますよ?』

『え?何?聞こえない』

『ヒカル、ハッピーハロウィーン!』

『ちょっ、待て!佐――』



ハッと目が覚めた。

嫌な汗をかいていた。

水でも飲もうと起き上がると、サイドボードに置いてあった時計が朝の4時を指していた。


10月31日午前4時。

オレのハロウィンな一日が幕を開けた――










*********************










コンコン


再び転た寝をして、気が付けばもう午前8時。

オレの部屋をノックする音で覚醒した。


「進藤?8時だよ。そろそろ起きないか?」

「ああ…うん、起きてるよ塔矢」


ドアを開けて、早速恋人に朝のチューをする。



――ん?



少し違和感を感じた。

すぐに角度の問題だと気付いた。

オレの身長は174センチ。

恋人の塔矢は1センチ低い173なのだ。

つまりほとんど変わらない。

のに、オレは見下げて、塔矢は見上げてキスをしていたのだ。


「…オマエ、なんか縮んだ?」

「失礼な。キミが伸びたんだろう?」

「そうかな…」


分かった。

これがきっと佐為のイタズラなんだ。


『ヒカルの大事な身長を伸ばしちゃいますよ』

とアレはきっとそう言ったのだ。

いや、でも身長が伸びても嬉しいだけだし…イタズラとは言えないか…?


「朝ご飯出来てるよ」

「あ、うん。ありがと。食べよう食べよう」


ダイニングに行くと、いつも通り純和風な朝食の数々が並んでいた。

ご飯にお味噌汁に焼き魚に玉子焼きに…

同棲始めた直後は慣れなかったこのメニューも、今ではすっかりオレの朝の定番になった。

食パンだけ、シリアルだけ、の適当な朝メシにはもう戻れない。

塔矢のお陰だよな〜♪健康健康♪



「…あれ?そういえばオマエってそんなエプロンしてたっけ?」

「何を言ってるんだ、キミが買ってきたんだろう?キミがしろって言うから僕はしぶしぶこんなフリフリを…」

「オレがぁ?」


そうなのだ、塔矢がしていたのはフリフリヒラヒラの、まるで新婚の新妻がするような乙女チックエプロンだったのだ。

これをオレが、男のオマエの為に買ってきたのか…?

マ、マジで…?酔ってたのかな…オレ…


「しなくていいのなら脱ぐよ」

素早く脱いで、塔矢は投げ捨てるようにソファーにかけた。

よっぽど嫌だったらしい。



――あれ?



「オマエ…胸のあたり、なに入れてんだよ?」

「は?」


エプロンを脱ぐと、塔矢はVネックのシャツと、パンツ姿になった。

確かにいつも通りのコイツの服装なのだけど、明らかにいつもと細さが違った。

確かに塔矢は細い、けど仮にも男、いくらなんでもこんなウエスト60も無さそうな極細ではないのだ。

ていうかそれより!

その胸の膨らみは何??パッドか??何の為に入れてるんだ??


「失礼な男だな…パッドなんて入れてないよ。素でこの大きさだ。Cの70。キミだって知ってるだろう?昨夜だって散々揉みまくったくせに」

「Cぃ??揉み…っ??」

「キミ、さっきからおかしいよ。記憶喪失か?」

「記憶……」


じゃあ佐為のあれは

『ヒカルの大事な記憶を消しちゃいますよ』

だったのかー??


「ちょっ、ちょっと待て!オマエ、何フツーにCとか言ってるわけ?!女じゃあるまいし…!」

「………女だけど」

「へっ?」

「僕は生まれた時からずっと女だけど?」

「う……そ……」


やっぱりキミおかしい、病院行こうと塔矢に引っ張っていかれる。

けどもちろん異常なんか見つからなくて。

塔矢が『女』であること以外のオレの記憶は全部あって。

更に追い討ちかけるように医者が言った。


「じゃあ奥さん、またご主人の様子がおかしいと思ったら連れてきて下さい」

「はい、ありがとうございました」



おおお奥さん??


ごごごご主人??



「オマエいつからオレの奥さんになったんだよ??」

「…先生、やっぱりおかしいみたいです」

「…そうですね」


イライラした様子で塔矢がオレに説明してくれる。

オレらは約一年前の11月22日に結婚したらしい。

いい夫婦の日になぞらえて。

オレの知るその日は、オレと塔矢が同棲を始めた記念日だった。

男同士だから結婚は出来ないけど、生涯の伴侶のつもりで一緒に住もうって。

それが、本当の本当に結婚してるとはどういうことだ??


あ――そうか!


「分かった!これが佐為のイタズラなんだ!」

「え?」

「『ヒカルの大事な塔矢を女性にしちゃいますよ』――アイツはきっとこう言ってたんだ!」


やっと分かった。

塔矢が女になったから、身長が縮んで、ウエストも細くなって、胸もあって、おまけに結婚出来たんだ!



(最っ高ーーっ!!)



天国にいる佐為にありがとー!!と叫びたくなった。

オマエ、いいセンスしてるよ!

最高のイタズラだよ!

ありがとう佐為!!


「し、進藤?大丈夫か…?やっぱり入院して様子みる…?」

「大丈夫!ちょっとボケてただけ!早く帰ろうぜ塔矢!」

「う、うん…」


オレは急いで家に戻った。

直ぐにでも確かめたいことがあったからだ。

それはもちろん――


「塔矢〜」

「し、進藤…。こんな朝っぱらから…」

「いいじゃん。今日オフだろ?」

「そうだけど…、ぁ…っ」


それはもちろん――塔矢の体だ。

塔矢が女になるということは、もちろん胸が膨らんでウエストが細くなるだけではないだろう。

(もちろんおっぱいも充分に堪能させてもらうつもりだけど)

女にしかない、あの穴が増えてるはずなのである。

ベッドに彼女を倒したオレは、ドキドキしながらその箇所に触れた。


「あん…」


ない。

本当にない。

男の象徴である塔矢の意外に大きいあのブツがない。

代わりにあったのは――


「あぁ…、しん…」

「塔矢…オマエ、すっげ…」

「なに…が…」

「見ていい?よく見ていい?」

「やん…っ」


両膝を180近く度広げて、塔矢の下半身を丸見えにした。

興味津々に触ったり舐めたりするオレを、彼女は顔を隠して恥ずかしがりながらも、敏感に反応して声を上げてくれた。


「も…、や…っ、進…ど…っ」

「オマエのここ…すっげ溢れてくる…」

「や…ぁ…」

「イヤなの?早く欲しいってヒクヒクいってるけど」

「……意地悪」


挿れるな、ともう我慢限界なオレの息子を押しあてた。


「あ…待って、ゴム…」

「え?」

「赤ちゃんデキちゃう…」

「―――」


一瞬鼻血が出るかと思った。

デキちゃうとか、デキちゃったとか、絶対に叶うはずがないけど、一度は言ってみてほしかった台詞だったからだ。

さささ佐為ぃぃ!!



(オマエ最高ーーっ!)



「い…いいじゃん、結婚してるんだし!オレは欲しいよ、オマエとの子供!」

忠告無視して中に押し込んだ。

「あ…っ、も…30までは作らない約束…だろう?」

「いいじゃん、四捨五入したらもう30だし」

「もう…知らない」


諦めた彼女の中を、オレは突きあげながら存分に堪能した。

気持ちいい。

マジで気持ちいい。

男の塔矢のバックももちろんよかったけど、これはまた別のよさがある。


「ぁん…っ、ぁ…っ、ぁ…っ」


その一つがこの細くて高い喘ぎ声。

男の塔矢は声を出すのを極端に嫌った。

恥ずかしいというか、アイツ曰く悔しいらしい。

いつも唇を噛んで我慢していた。

けど、女の塔矢はまるで別人みたいに惜しむことなく部屋中に声を響き渡らせてきた。


「すっげ…Hな音する」


でもって二つ目は音。

声と同じくらいグチャピチャとアソコから鳴き声が途切れることなく聞こえるのだ。

ローションなんて使わなくてもどんどん自然に溢れてくるのだ。すげぇ…


「なぁ…オレの上に乗って?座位でしよ?」

「ん…いいよ」


体を起こした塔矢がオレの膝に座った。

すぐさま自分で動き始めてくれる。

うう…マジで鼻血出そう。

更に三つ目はもちろんこの胸だ。

動く度に上下にプルんプルん揺れるのだ。

しかも座位だとオレの目の前で。

もちろんオレはすぐに両手で揉んでしゃぶりついた。


「ぁ…ん、しん…ど…」

「ん…おいし」


座位をしばらく堪能した後は、今度は後ろから突いて。

更に正常位に戻って最後はフィニッシュした――もちろん中出しだ。



「もう…バカ」

「へへ〜出来たらいいな♪」

「知らない」


プイッと拗ねて背を向けてきた彼女を後ろから抱き締めた。


「怒った?」

「キミは勝手だ。いつも約束破るんだから」

「いつも?」

「3回に1回はナマでしようとする。おまけに中に出す」

「だって欲しいじゃん…子供」

「30までは碁を優先させてくれるって約束で結婚したのに…」

「………」


塔矢が涙を滲ませてきた。

本気で嫌だったみたいだ。


「…ごめん。でも、それでも、オレは間違ってない」

「なんで…」

「オマエは女だから、女の塔矢だから、知らないんだ。分からないんだ、どんなに結婚したくても出来ない奴らの気持ちなんて。どんなに子供が欲しくても望めない人達の気持ちなんて」

「…まるでキミは分かってるみたいな言い方だな」

「分かってるよ、嫌ってほど、死ぬほど。男のオマエと付き合うのがどんなに大変だったか…。結局親にも友達にも誰一人としてオレらは打ち明けれなかった。隠れてコソコソ同棲始めたんだ。これからも一生、死ぬまで陽をあびることなんてないんだ。それに比べてオマエなんて、どうせ周りにめちゃくちゃ祝福されて結婚したんだろ?盛大に披露宴とかもしたんだろ?それだけでも羨ましいのに、子供は30まで作らない?ふざけるな」

「進藤…?」

「ほんと羨ましいよ、でも、そんなこというオマエなんて嫌いだ。女のオマエなんて大嫌いだ!」

「………」


今度はオレの方が背を向けた。

嘘つき。

塔矢は塔矢だ。

大好きなのに。

世界で一番愛してるのに。

でも、女のコイツの今と未来が羨ましすぎて、どうしても拗ねずにはいられなかった。

このハロウィンのイタズラはいつまで続くんだろう。

きっと今日だけだ。

明日になればまた塔矢は男。

未来のないオレらに戻ってしまうのに。

今日だけでも、うわべだけでも楽しめばいいのに……どうしてか出来なかった。

本当の自分達が惨めでならなかったのだ。

こんな幸せボケしてる自分達を見て尚更。



「男の僕…か。いいね」

「何が?」

「僕の方こそ羨ましいよ…ずっと男に生まれたかったから」

「……え?」

「しかも男でも、男同士でもキミと恋人になれるんだ。最高じゃないか。僕はキミらの方が羨ましいよ…」

「――え」

「今のキミには記憶がないみたいだから言うけど、僕らだって…付き合うまでには色々あったんだよ。もちろん結婚までにもね。知ってる?結婚って当人同士だけの問題じゃないんだ。もれなくお互いの家族が付いてくるんだよ。キミのご両親は僕がキミの妻になることをあまりよく思ってなかった」

「え…なんで…」

「僕がキミと同じくらい忙しいタイトルホルダーだからだよ。酷い時は週に何日も家をあけて、ろくに家事をする時間もない、子供も産む時間がない女を、誰が息子の嫁に迎えたい?」

「………」

「話し合いの末、僕が折れたんだ。棋戦以外の仕事はなるべく控えますと。子供も30になったら作ります、だからそれまでは…囲碁中心の生活を続けさせて下さい…ってね」

「マジ…で?」

「キミのご両親はキミの幼なじみのような女性を本当はお嫁さんに迎えたかったらしいよ。キミを影で支えてくれる…家庭も守ってくれそうな人をね」

「なんだよそれ…」

「僕の両親もね、僕らの結婚に最初いい顔しなかった」

「え!先生達も…?」

「確かにキミは父のお気に入りの棋士だけど、一人っ子だから。両親は僕に婿養子を取って欲しかったらしいんだ。でも娘が選んだ相手だからと折れてくれて、でも代わりに条件を出してきた。子供が生まれたら養子にして塔矢を継がせてくれとね。もちろん進藤家側を継ぐ子もいる。だから僕は30過ぎたら最低でも二人は産まなくちゃならないんだ、それも出来たら男の子をね。キミに分かる?このプレッシャーが…」

「なんか…大変なんだな…女でも…」

「男同士で同棲して好き勝手してるキミらの方が、僕から見たらよっぽど羨ましいよ」

「……ごめん。何にも知らないでオレ…」


一人拗ねてたことが急に恥ずかしくなった。

塔矢の性別が女になれば、全て解決でハッピーエンドってわけじゃなかったんだ。

羨ましいばかりじゃない、男女の恋愛も色々大変なんだ。


「中に出してごめん…」

クス――と塔矢が笑ってきた。

「もういいよ。キミの切実さもよく分かったから。キミらにも一人…子供を送れたらいいのにね」

「オマエにそんなこと言われたら…嬉しくてマジで泣きそう…」


神様仏様佐為様――どうかどうかこの夢を覚めさせないで下さい。

もうしばらくだけ彼女と一緒にいさせて下さい。

Hだけじゃない、まだまだやりたいことがあるんです。



「塔矢、外行こう。デートしよう」

「え?」

「手繋ぎデートしよう。オレの一生の夢だったんだ!」


男同士じゃ叶わない、する勇気がなかったことを、この機会に全部してやろう。

堂々と手を繋いで、たまに腕も組んで。

男女のカップルじゃないと入れないようなオサレカフェとかレストランにも入って。

宝石店で堂々とペアリングも買ってみたりして。

もちろんカップルだらけの公園で、ボートに乗ったりしてイチャイチャすることも忘れない。



――でも



時間が経てば経つほど、オレは酷い罪悪感にかられていった。

一緒にいるのは塔矢なのに、まるで浮気してるみたいな気分なのだ。


「進藤?」

「オレ…帰らなきゃ」

「……」

「アイツきっとオレが帰ってくるのを待ってる」

「…キミの中の僕は男なんだね」

「ごめん、オマエも塔矢なのに。でもオレ、やっぱり――」


やっぱりオレの中の塔矢は男なのだ。

今までずっと一緒にいてくれて、苦楽を全部共にしてきたアイツなのだ。


「ありがとう塔矢、オマエに会えてすっげー楽しかった。夢みたいだった。でも――」

「うん…男の僕によろしく」

「またな!」


サヨナラとは言えなかった。

またいつか、いつかまた、女の塔矢にも会えたらいいなと思うから。

その時にはお互い心から笑っていられる生活をしてるといいな――








*********************








『――ヒカル。どうでしたか?女性の塔矢もよかったでしょう?』

『うん…よかった。ありがとう佐為』

『もしヒカルが望むなら、ずっとこっちの世界にいさせてあげますよ?』

『ううん、いい。オレの塔矢んとこに帰る。例え誰からも祝福されなくても、オレが選んだ道だから』

『そうですか。じゃあ――』


ハッと目が覚めた。

時計を見ると――10月31日午前8時を指していた。


コンコン


「進藤?8時だよ。そろそろ起きないか?」

「ああ…うん、起きてるよ塔矢」


ドアを開けて、早速恋人に朝のチューをする。

ほとんど変わらない身長、ペッタンコな胸。

いつものオレの塔矢だった。


「…今日さ、変な夢みたんだ」

「え?キミも?」

「え?てことは、オマエも見たの?」

「うん…キミが男の僕を選んでくれて嬉しかった」

「当たり前だろ!オレの恋人はオマエなの!一生!」

「ありがとう…」



ハッピーハロウィン!

Trick or Treat?

今年はどんなイタズラをされたい?







―END―







えー、今回のペーパー名は『一応』アキラ子なんですっ!になりました。
もうすぐハロウィンですよね?ハロウィンってことは、ご存じトリック・オア・トリートですよね?お菓子をあげないとイタズラされちゃうんですよね!!ってことでちょっとしたイタズラ話を書いてみたからです。
てことは最初は普通のホモ婚してるヒカアキからスタートしました。
アキラさんが女の子になったからって全て上手くいくわけじゃないのです!…ってことを書きたかったのです。たぶん(笑)