●GOD HAND●

※この話は大家族シリーズの続編です※





「進藤先生!握手して下さい!」



その異変にオレが気付いたのは、アキラの17人目の妊娠も後期に近付いた頃だった。

最近、やけに握手を求められるのだ。

イベントではもちろん、棋院の外でも待ち伏せされることもしばしば。

しかも来るのは何故か20代か30代の若いお姉さんばかり。

やべ、今頃モテ期突入か??――と一瞬テンションが上がったものの……どうもなんか違う気がする。

何かが変なのだ。



「あの…もしかして進藤ヒカルさんですか?囲碁の…」

「え?…そうですけど」

「わぁ!感激!嘘みたい!握手して下さい!」


その日は電車の中でも求められてしまった。

快くOKして女性の手に触れた後で、横からの鋭い視線に気付いた。

…はっ!しまった!今日はアキラと一緒だったんだ!

奥様の前で他の女と手を繋ぐわけにはいかない!と慌てて手を離そうとしたが――何故か離れない。

女性に両手で思いっきり力をこめて握られてしまってるからだ。

まるで何か念でもこめるかのように――


「ありがとうございました」

涙目でその女性は次の駅で降りていった。



「はは…最近さぁ、やけに多くて。やっぱ本因坊20連覇もすれば知名度もあがってんのかなぁ」

とりあえず言い訳するかのように苦笑いしてみた。

でも、そういうこのアキラだって名人は15連覇、王座は8連覇、女流四冠なんて25連覇だ。

今の人、なんでアキラの方はスルーしたんだろう…。

アキラの方がオレより絶対有名なのに。


――というか、なんで握手ばっかなんだ?

普通の囲碁ファンのじーちゃんばーちゃん達には、握手よりサインを求められるぞ??



「…すまない、僕が原因だな」

「は?」

何で?と聞き返すと、アキラは申し訳なさそうに携帯を取り出した。

オンラインマガジンの、とあるページを開いて見せてくれる。


「冗談のつもりだったんだけどね…」

それは何ヶ月か前に発売された育児雑誌。

ゲストで載ったアキラのインタビュー記事だった。



――今回は現在なんと17人目を身篭られている塔矢アキラさんにお話を伺いたいと思います。またもやご懐妊おめでとうございます。

――ありがとうございます。


とにかく数がすごいですよね!どうやったらそんなに授かるんですか?――という直球な問いに、アキラは言ってしまったらしい。


『もう手を繋いだだけで出来ちゃいますよ(笑)』と――


この記事を読んだ不妊に悩む女性がオレと握手をしたところ、見事翌月妊娠に成功したらしい。

その噂が密かにネット上で広まり――今やオレは知らず知らずのうちに子宝の神と崇められていたらしい。


「はぁ?!手を握るだけで出来るわけねーじゃん!お腹の子はオレらが体で愛し合った証拠――」

慌ててアキラが口を塞いできた。

公共機関でなんてことを大声で口走るんだキミは!と鋭い視線で睨まれる。


「だって…」

「分かってるよ。だから冗談のつもりだったって言っただろう?」

「…うん」

「キミに握手を求めてきた人達だって、本当は誰も信じてないよ。でも――それでも信じたいほど切実だったってことだろう?」

「…だよな」

「だからすまないがこれからも握手してあげてくれ。それで一人でも多くの人が夢を見れるなら安いものだ」

「…さっきみたいにオマエの前でもいいのか?」

「この件に関しては自業自得だからね。…我慢する」

「そっか、分かった」


そっか、我慢することなんだ、と思わず顔がニヤけた。




それから棋院に着くまでの間にも、二人の女性に握手を求められた。

理由が分かった今は、ちょっとだけ申し訳ない。

オレ達は17人も授かってるのに…この人達には一人もいないんだって思うと。


オレは自然に口にした。

「叶うといいですね…」

と――






―END―





相変わらず笑うしかない。17ってあ・り・え・な・い(笑)
きっと色んな意味で相性がいいんだろうな〜この二人。