●GIRL FRIEND●


「オレ彼女出来たんだぜ」

いつものように碁会所に打ちに来てた進藤が突然言い出した――



「へぇ…おめでとう」

心の中じゃ祝ってもないくせに、上辺だけのお祝いを述べてみた。

続けて嬉しそうに話す進藤の言葉を半分聞き流しながら…ただ頷き続ける。

相手はどうやら院生の時に知り合った子らしい。

結構美人らしく、ずっと気になってたんだという。

だいたいどんな女の子なのか想像はつく。


―たぶん


僕に似ている―


進藤は昔からそうだ。

一緒に出かけた時、

「今の子良くねぇ?」

と振り返って目で追ってるのは、いつも同じようなタイプだ。

それは可愛い系ではなくて、どちらかというとキレイ系。

髪は肩より上。

でもショートではない。

目は釣り吊目、もしくは猫目。

そして色白で聡明そうな子ばかりだ。


…それは進藤が僕に対して言う誉め言葉と全く同じ。


「オマエってキレいな顔してるよなー」


何度かそう言われたことがある。

でも彼は言うだけだ。

決して僕を手に入れようとはせず、代わりによく似た女の子をずっと探している。

その度に僕は焼け石を飲み込んでいるような感じに追い込まれる。

キミは男の僕じゃダメなんだろうけど、僕はキミがいい。

キミしかいない。


僕は…進藤が好きだ―



「今度…彼女紹介してよ」

「いいぜ…あ、でも院生だから見たことあるかもな。この前の若獅子戦にも出てたし」

「ふぅん…」

平気そうに装ってみたけどやっぱり動揺は隠せなくて…指が少し震えながら碁石を置いた。

一生ライバルとして打ちたいんだったら、進藤にはそんな関係を望んじゃいけないのは分かっている―。

それでも心のどこかではそれを望んでいた―。

――でも彼女が出来てしまっては…もうその望みも叶わないだろう。

せいぜい僕の代わりになる女の子と付き合えばいいさ―。

その内僕の方もこの気持ちは薄れていくだろうから…。




―ところが


「進藤の奴、また彼女と別れたらしいぜー」

「マジかよ、今回1ヶ月も保ってないよな?」

「17のくせに生意気ー」

手合いの休憩時間、進藤の友達数名が話してるのが聞こえた。

初めての彼女と付き合い出したあの時から、既に1年が経とうとしている。

その間に進藤は何人かと付き合っては別れ…を繰り返していた。

どっちがフったのかは分からないけど、その態度は周りにいい印象を与えるわけはなく、彼は最近休憩時間を一人で過ごすことが多かった。

いつも玄関を出たすぐ横手側の塀に座って、ぼーっとしていた。


「―またこんな所にいるのか」

「塔矢…」

そんな進藤に声をかけたら、かすかに視線をこっちに向けた。

「キミ…また別れたんだってね」

進藤が苦笑いをする。

「これで…何人目?」

「…覚えてねぇよ」

「あんまりそういうのって好ましくないと思う…。長く続ける気がないのにどうして付き合うんだ…?」

「オレは続ける気でいたぜ?…でも向こうが無理だって―」

「…そう」

フラれたんだな…。

まぁ…この様子を見たら明らかにフったようには見えないけど―。

休憩時間を一人で過ごすのも、自分からそうしてるんだろう…。


「…女ってさ、すげー鋭いんだぜ」

「…ふーん」

進藤が顔を下に向けたまま話し始めた。

「…オレが別の奴のこと考えながら抱いてると…すぐ見抜いてきてさ…。この前の奴なんてキスしただけで気付きやがって――即効フラれた」

最短記録3日〜と笑いながらこっちに視線を向けた。

「…それはキミが悪いよ」

「そうだな…」

キミが誰と重ねながら女の子達を抱いたのかは…考えるまでもない。

それは嬉しくないはずはなかったけど…

でも―

「…もうしばらくは付き合うのやめておきなよ?失礼にもほどがある…」

「そいつへの気持ちがなくなるまでヤメろって…?」

「……」

「んじゃオレもう一生誰とも付き合えねぇよ…」

進藤が僕の手に触れてきた―。

指を一本一本数えるように撫でて――キスをする。

「…オレが誰を思ってるのか…、オマエ分かってるよな…?」

「…うん―」

僕の手を自分の頬に触れさした。

「ずっと好きだったんだ…」

「知ってる…」

あんな明ら様にされたら誰でも気付く―。

「でもキミが…僕を選ばなかったんだ…」

「そうだな…オレの方から離れた…。オマエとは一生ライバルでいたかったから…余計な気持ちを入れたくなかった」

指に触れていた手が腕に触れ…肩まで擦るように上がってきた。

「だから初めての奴の時…わざわざオマエに言ったんだぜ?オレを諦めて欲しかった…。オマエが動揺してたのもちゃんと知ってたよ」

肩を少し撫でて、首に触れ…髪を絡めながら頬に触った所で進藤が塀から降りた。

「そのうちオマエへの気持ちもなくなるかな…て思ってたけど結局無理だった―」

「…僕もキミのことなんて忘れてしまいたかったよ」

でも忘れようと思えば思うほど更に気持ちが募って―

結局キミのことばかり目で追う自分が惨めになった―。

「もう限界だ…塔矢。やっぱりオマエがいい…代わりになる奴なんていねぇよ―」

「…うん」

両手で優しく僕の頬を掴んで…そのままゆっくり目を閉じながら顔を近付けてきた―。

「―…ん…っ…」

温かい始めての唇の感触は思ったよりも何も感じず、心臓だけが更にドキドキ早まっていった。

「んっ…、ん…っ」

思いっきり人目につくこの場所でなんかやめて欲しい―と思いながらも、更に深くついばんでくる唇の感触に堪らなさを感じて―

呼吸をすることも忘れて限界まで貪りあう―。

「―…っはぁ…」

唇が離されて少し目を開けると、進藤の方も僕を見つめていた―。

「…もう休憩時間終わるな」

「…うん」

僕の腰に手を回して、ぎゅっと抱き締めてくる―。

「対局終わったらここで待ってて…?」

「…いいよ」


今日の対局が終わったら、きっと僕らの今までの関係はすべて終わってしまうだろう―。


ライバルには変わりない。


でも他に新たな関係が始まる―。







―END―








以上、4月用WEB拍手のSSでしたー。
(4月に全然関連してない話ですが…)
これから毎月1話ずつ書いていけたらなぁ…と思います。
でもさすがに拍手をR15には出来ないので、取りあえずここまでで(笑)

ヒカルが付き合う女性は絶対どこかしらアキラに似てると思います。
すべてアキラが基準。
ヒカルの人生はアキラを中心に回ってるのです。絶対!
そしてまたアキラもヒカルが中心。
もうお互いがない世界なんて考えられないのね。
あー、素晴らしいわ!
ヒカアキって!(笑)