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その日、私は見てしまったのだ――
「彩、あれ京田さんじゃない?」
「え…?」
もうすぐお兄ちゃんの名人の就位式がある。
会場も都内有数の老舗ホテルだし、お兄ちゃんのことだからまた報道陣の数も絶対半端ない。
ということで、その時に着るドレスをまた新調しようと今日は精菜と一緒にデパートに買いに来た。
ついでにお兄ちゃんにお祝いのプレゼントでも買ってやるか〜と一つ上の紳士服売り場に来た時だった。
精菜に言われて振り返ると――偶然にも京田さんがいたのだ。
嬉しくてもちろんすぐに駆け寄ろうとした……のだけど、私の足は途中で止まった。
京田さんが一人じゃなかったからだ。
「ちょっと彩、誰よあの女?」
「し、知らない……」
そう――京田さんは女の人と一緒にいたのだ。
二人でネクタイを選んでるみたいだった。
しかもすごく楽しそうで、その様子は誰がどう見てもデートだ。
「妹……じゃないわよね?京田さんの妹って確か私達と同い年でしょ?」
「う、うん…」
「どう見ても15、6には見えないもんね。絶対ハタチは超えてる」
「うん…」
「彩、今日の京田さんの予定聞いてないの?」
「聞いたけど……買い物に行くとしか言ってなかったし…」
買い終えた二人は、エスカレーターで下に降りて行ってしまった。
女の人は京田さんの腕に手を絡めて……
私はショックでその場に立ち尽くした……
「彩何ボーッとしてるのよ!」
と精菜に引っ張っていかれる。
「つけるわよ!」と。
二人が次に向かったのは、駅ナカのレストランだった。
私と精菜も同じレストランに入ることにする。
でもお昼時だから混んでて残念ながら近くの席は確保出来なくて、少し離れたところから様子を伺ってみた。
注文をし終えた二人は、何やら楽しそうに話し出す。
いつもは私に向けてくれる笑顔を……他の人にも平気で向ける。
それだけで胸が締め付けられるように苦しかった。
「京田さんでも浮気とかするんだね…」
と精菜がぼそりと呟いた。
「京田さんは浮気なんてしないもん!」
「浮気じゃないならアレは何?」
「だからアレは……きっと……お姉さんとか」
「京田さんに姉なんていないでしょ?」
「じゃあ、いとこ…」
「いとこねぇ…。いとこに普通腕組む?」
「……分かんない。私いとこいないし…」
お父さんもお母さんも一人っ子だから、私にはいとこはいない。
仮にもしいたとして、それが京田さんみたいにカッコいい人だったら……私は腕を組むだろうか。
組まない気がした。
だってお兄ちゃんもだいぶ顔はいいけど、組みたいなんて一度も思ったこともないからだ。
「彩、知ってる?いとこ同士って結婚出来るんだよ?」
「え?!そうなの?!」
「だっていとこは四親等だもん。結婚出来ないのは三親等まで」
「そ、そうなんだ……」
結婚――16歳の私にとってはそれはまだまだ関係のない話かもしれない。
でも、私は結婚するなら京田としか考えられないし、彼だって言ってくれたのだ。
私のことを一生大事にするから…って。
だから……だから……今目の前で起きてることが理解出来なかった。
そして私は黙ってそれを見ていられるほど人間が出来ていなかった。
「え?彩…っ?!」
もう我慢が限界になった私は、ガタンと立ち上がり、一目散に彼の方に向かった。
そして他のお客さんもたくさんいるのに
「京田さん!!」
と大きな声で彼の名前を呼んだ。
「あれ?彩ちゃん?」
「京田さん何してるの?!この人誰?!」
「え?」
その女の人が私の方を見る。
(うわ…美人。私…負けたかも)
「ああ…紹介するよ。従妹の紗羅」
(やっぱりいとこか!)
「紗羅、さっき話した彩ちゃんだよ。She is Aya I talked about earlier.」
「Ah…昭ちゃんのGirlfriendね。はじめまして〜Maternal cousinのSarah Harrisです」
(んん??)
このいとこの日本語の発音が微妙に変で、途端に私の怒りはどこかに飛んでいった。
「紗羅は普段ボストンに住んでるんだけど、今日本に遊びに来てるんだ」
「あ……そうなんだ」
「ハーフだから日本語も一応話せるんだけど、微妙過ぎて心配だから買い物に付き添ってたんだ」
「そ…そうなんだね」
「昭ちゃん…My Japanese is perfect. You are too worried!」
「Then I'm going home, can you shop alone?」
「Why are you so mean?I'll tell your mother!」
「Huh?」
京田さんといとこの会話をポカンと聞いているうちに、京田さん達が注文した料理を店員が運んできた。
「あ……じゃあ京田さん、私もう席に戻るね。精菜待たせてるから…」
「あ、うん。ごめん彩ちゃん、また夜電話する」
「うん…」
その後も英語で会話を続ける二人を尻目に、私は自分の席に戻った。
「彩、大丈夫?」
とちょっと放心状態の私を心配そうに精菜が声をかけてくる。
「うん……やっぱりイトコだって」
「そうなの?」
「普段ボストン?に住んでるらしいんだけど、今日本に遊びに来てるんだって…」
「へー。アメリカ育ちってこと?」
だからスキンシップが激しいってことか〜と精菜は納得していた。
「京田さんて……」
「ん?」
「京田さんて……カッコいいね」
「彩……何ノロケてんの?」
「いや、だって…普通にネイティブのスピードで英会話してるとこ見ちゃったら何か…」
「惚れ直しちゃった?」
「……うん///」
精菜にクスクス笑われる。
今日、私は恋人の新たな一面を発見した。
本当に、私には勿体ないくらいカッコいい恋人だ。
そんな彼に見合う女にならなきゃな…と、私は運ばれて来たランチを食べながら、しみじみ思ったのだった――
―END―
以上、浮気現場と勘違いして尾行しちゃう彩のお話でした〜(笑)
佐為の名人の就位式がもうすぐあるということなので、彩が高1の11月くらいかな。
家族には結婚まで彩を紹介しないくせに、普段会わないイトコには彩のことを隠さず話しちゃう京田さんなのでした〜w
〜〜夜に電話した二人〜〜
「京田さんて英語話せるんだね。今日は何かビックリした」
『ああ…うん。紗羅の実家はニューヨークなんだけど、小学校の時はよく家族で遊びに行ってたから。話せないと向こうの従兄弟達に馬鹿にされるし、その為に勉強した感じかな…』
「へー!」
新婚旅行はニューヨークもいいなぁ〜京田さんと一緒だと恐いもの無しだね!と妄想する気の早い彩なのでした〜。
実は京田さんのお母さんの姉は国際結婚してるのですよ。
小学校の時は避暑も兼ねて毎年祖母・母・妹二人の5人で数週間ニューヨークに遊びに行ってたらしいですよ。まるでセレブやねw