●FIRST FIRST FIRST●
僕は進藤の一番になりたかった。
ライバルは一番だとずっと思っていたのだ。
この日までは―――
「アキラ聞いた?進藤君、バイクで事故ったらしいよ」
「………え?」
僕が棋院で芦原さんから進藤のことを聞いたのは、彼が事故を起こしてから丸一日以上が経った時だった。
僕は言葉を失った。
事故?
しかもバイクで?
そ、それで?
一体どうなったんだ?
容体は?
命に別状は?
怪我は?
病院は?
「足を骨折したんだって。これから様子見にちょっと顔出しに行こうと思うんだけど、アキラも来る?」
来るか…だって?
何を言ってるんだこの男は。
行くに決まってるじゃないか。
だって僕は彼のライバルだぞ。
ライバルは彼にとって一番……だと思っていたのに……
「すみません、皆さん。ドジなこの子の為にわざわざ足を運んで下さって」
結局僕は芦原さんや緒方さんと共に、進藤が入院した病院を訪れることになった。
病室には他にも和谷君や伊角さんも来ていた。
進藤のお母さんは一人一人にお礼を言って、お騒がせして申し訳ありませんでしたと頭を下げていた。
そして――
「ヒカル、何か食べる?リンゴ剥いてあげようか?」
「いいよ、いらない。つーかお前いつまでいるんだよ。もういいから早く帰れよ」
「ヒカル何ですか、その言い様は!あかりちゃんわざわざ会社休んで今日も来てくれたのよ!お礼の一つぐらいいいなさい!」
「母さんだろ、あかりに連絡したの。言わなくていいのに」
進藤の横では彼女気取りで藤崎さんが甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
しかも、昨日から。
しかも、進藤のお母さんから連絡を受けたらしい。
ただの幼なじみのくせに。
ライバルは幼なじみより上だと思っていたのに……
「元気そうでよかったよ」と皆すぐに帰っていった。
けれど僕の足は動かなかった。
夜になって藤崎さんが帰っても、進藤のお母さんが帰っても、それでも動かなかった。
「塔矢?オマエは帰らないのか?もう面会時間終わりだぜ。来てくれてありがとな」
「……ありがとう?僕は礼を言われる立場なのか?」
「?そうだろ?」
違うと思った。
進藤が怪我をしたから、お見舞いに行って、反対にお礼を言われる。
こんなの、僕が望んでいた立場じゃない。
僕は進藤の一番になりたかったのだ。
進藤に何かあったら一番に連絡が来て、一番に駆けつけて、そして後から来た人を迎え入れる――そんな存在になりたかったのだ。
ただのライバルのままじゃただの幼なじみにも勝てない――それが今、ハッキリと分かった。
「――進藤、僕と結婚してくれ」
「……は?」
「恋人でもダメなんだ。僕はキミの奥さんになりたい、家族になりたいんだ」
「……マジで?」
「ああ。もうただのライバルは嫌だ。一日以上も経ってから他人からキミの怪我を聞かされる……そんなのもうウンザリだ」
「塔矢…」
「いいだろ?進藤」
「ん、いいよ…もちろん」
オレもオマエに何かあったら一番に駆けつけたいし…と照れながら彼はすぐにOKをくれた。
「実はオレさ、事故った時マジで一瞬死ぬかと思ったんだ。で、その時オマエの顔が浮かんだんだ。あ〜あ、早くコクっとけばよかったなーって」
「え…」
「意識戻った時も、一番に見えた顔が母さんで、次に父さんで、あかりだろ。ちょっとショックだったな、オマエがいなくて。塔矢呼んで、とも言えなかったし…。ただのライバルって不便だよな。もうやめよう」
「うん…」
二人きりの病室で、僕らはそっとキスをした。
明日も、明後日も、キミが退院するまで毎日来るね。
退院しても、これからはずっと一緒にいよう。
この日、僕は進藤の本当の一番になれた――
―END―
以上、ヒカル君の一番になりたいアキラちゃんのお話でした〜。
あんまり一番一番言ってたので、タイトルも一番×3で!(笑)
これからは一番に連絡が行くと思いますよv
(いや、不幸な連絡はきてほしくないものですが…)