●FEMALE〜SIDE:HIKARU〜


「塔矢って美人だよなー」


対局の休憩時間、誰かがそう言ったのが聞こえた。

結構遠くにいた感じなのに耳にはっきり入ってきた。

塔矢が美人?

そんなの昔から分かりきってることだ。

今更言うほどのことじゃない。

でも他の奴がそう言うのは何か気にくわねぇ…。

「進藤、あいつら塔矢の話してるぜ?」

「……」

前に座っていた和谷がオレの様子を伺うように聞いてきた。

「だから?確かに美人ってことは認めるけど、性格最悪だし。わがままだし、碁のことしか考えてねーもん」

痩せ我慢を言ってみた。

他の奴に塔矢のいい印象を残したくなかったから―。


「…悪かったな、わがままで」



え…


急いで振り返ると後ろに塔矢がいた。

外に食べに出てたのに、今帰ってきた所みたいだ。

塔矢の目が思いっきりオレを睨んでいた。

やべ…

「キミだってわがままだし、単純だし、いい所なんて碁ぐらいしかないじゃないか!」

「何だと!?」


…あーあ、またケンカが始まってしまった。

あいつの言い方はどうも気に食わない。

―それでも塔矢があんな風に隔たりなく話してくれるのはオレだけだったから、ちょっと期待はしていた。

告白したら付き合ってくれるかも―

…でもすぐ別れてしまったら意味がない。

さっきみたいにケンカばかりしてると、衝動で別れるって言われてしまいそうだ。

どうしたら本当に塔矢を手に入れることが出来るんだろう。

どうやったら一生オレの側にいてくれるかな―








「はぁ…」

さっき塔矢に振られかけた。

正直…ヤバかった。

何とか回避できたけど、代わりにしばらくは塔矢に触れない。

ここまで、か―。

3ヶ月ぐらい頑張ってみたけど…結局ダメだったのかな。

子供を作るのって思ったより難しい…。

塔矢に悪いことしたな。

あんなに悩んでたなんて知らなかったぜ。

それなのにオレ、無我夢中でホテルに誘ってばっかり。

そういえば付き合い出してからほとんどセックスしかしてねぇ…。

そりゃ塔矢もキレるよな。

今考えるとよく3ヶ月も保ったもんだ。

あいつ忍耐力だけは強いからな…。

今度のデートん時はあいつの大好きな碁を朝から晩まで打ってやろう。

んで普通のデートもしなきゃな。

あいつって結構引きこもりがちだから、買い物に誘ってやろうか。

映画もいいな。

遊園地とか水族館とかベタなとこも一通り連れて行ってやろう。

結局子供が出来ないんだったらこっちを先にすれば良かったぜ。

あーあ、時間のムダ遣い。




「塔矢、昼からは映画観に行こうぜ!」

「いいよ」

今日も塔矢を家に誘って、デートが始まった。

まずは1局打ってこいつのご機嫌を取る。

打ち終わったらだいたい正午だから昼食がてら外に連れ出す。

前まではその後はずっとホテルでヤりまくってたけど、今はどこかに遊びに行ってる。

今日は映画の番だ。

夕方まで遊んで、そのまま塔矢を家に送って、本日終了。

セックスはナシ。

キスもしたらヤバくなるのでナシ。

我ながらな健全な計画だ。


「オマエって映画とか観る?」

「テレビではね…。映画館にまで観に行くのはタイタニック以来かな。お母さんに連れられて行った―」

「た、タイタニック?!それっていつの話だよ!」

「…小6」

おいおいおい、それじゃあもう5年は行ってないってことじゃん!

あー、やっぱりこっちに先に連れて行くべきだった。

ラブホなんかじゃなくて!


「えーっと…、じゃあどんなのが観たい?ラブロマンス系?ファンタジー?サスペンス?コメディー?アニメ?」

「…何でもいいよ」

…やっぱりそう言うと思った。

予想を裏切らない奴だ。

「んじゃ今やってる中で一番メジャーっぽいのにするか」

「うん」



「母さん!塔矢と外行ってくるからー」

「はーい、行ってらっしゃーい」

玄関から声をかけるとダイニングのあたりから返事が返って来た。

母さんは専業主婦だからいっつも家にいるんだよな。

んでたまにお茶とか運んでくるから、おちおち塔矢を抱いてもいられない。

前はホテル代もバカにならなかった。

塔矢ん家も今年に入ってからは先生達帰ってきてるからダメだったし…。


「塔矢先生、元気?」

「うん、特に病気とかは。今日も朝からお母さんと温泉に行っちゃったしね」

「え、泊まりで?」

「もちろん」

ふーん…。

今晩は塔矢一人なんだ…。

―て、また何考えてんだオレ!

塔矢の気がすむまで触らない約束じゃん!

まだあれから一ヶ月しか経ってないし!

たぶんまだまだお預けだ。

あーあ、ケンカ別れする前にもう一度抱けたらいい方かも。

お先真っ暗だぜ。



映画を見終わった後、ちょっと買い物をして、夕食をレストランで取った。

んで、いつも通り塔矢を家に送ってる訳だけど―

何か最近この帰り道になると、何もしゃべらなくなるんだよな。

下向いて一人むくれてる。

「どうかした?」

って聞いても

「別に」

って返ってくるだけだし。

うーん、やっぱり1局しか碁打ってないからかな。

外に行くよりもっと打ちたかった!って言ってるのか?

さっきアクセサリー買ってやった時はそれなりに機嫌が良かったのに…。

もっと口に出して言ってくれないと分かんないぜ。


「あー…、じゃあお休み」

結局無言のまま家に着いちまって、これで今日のデートは終わりだ。

「また明日棋院でな」

そう言って帰ろうと塔矢に背を向けた途端―


服の袖を引っ張られた―。

「待って―」

「…何?」

塔矢の顔が赤くなってるのが分かる。

「……キス…して?」


え…

キス…?

お休みのキスか?

軽く頬に唇を当ててみた。

「そうじゃなくて…口に―」

口…。

そりゃオレだって口にしたい―。

でもあまり深いのをすると…。

そう思って塔矢の唇に軽く触る程度のキスをしてみた。

これくらいなら大丈夫だ―。

「進藤…」

でもそのキスが不満なのか、泣きそうな顔をしてくる。

「―ごめんな…これ以上のすると、また押さえがきかなくなるから…」

またお前を傷つけちまう…。

「いいよ…もう…、気はすんだし…。またキミに触れられたい―」


え―


「いいのか…?」

―本当に…?

「うん―」

そう笑顔で答えられて、いてもたってもいられず、ぎゅっと抱き締めてみた。

「…今度からはあんまりがっつかないようにするから。大事にするし、ちゃんと避妊もするからな―」

「うん―」

そして今度は深いキスをしてみた。

先生達今日は家にいないって言ってたっけ…。

今夜は1ヶ月ぶりの蜜月だと思うとドキドキするな―。










―END―








以上、ヒカル視点の強行計画話でした〜。
こんな17歳嫌だー!><
何か色々順番間違ってるし…。
人生、先急いでますよ。
えーと…とにかくヒカルはアキラのことが大好きなんだー!
…ってことが分かってもらえればOK…です(笑)

で、ヒカルの計画が成功する続きはこちらから





2nd FEMALE