●2nd FEMALE 4●


「あと1ヶ月かー」

臨月に近付いたお腹を撫でながら進藤が楽しみそうに言った。

「早く出て来ーい」

「いや、出て来なくていいよ。僕は絶対18で産むからな!あと1ヶ月半はお腹にいてもらう」

「何で?いいじゃん17でも」

「嫌だ!考えてもみろ。将来『いくつの時のお子さんですか?』って聞かれて、『17です』って答えるのと『18』って答えるのじゃ恥ずかしさが天と地の差ぐらい違うんだ!」

「そ、そういうもん?」

「そういうもんなんだ」

全く、キミのせいで僕の人生計画がだいなしだよ…。


「やべ、もう時間だし」

進藤が時計を見て立ち上がった。

今日はこれから棋院で指導碁の仕事らしい。

僕もこれから定期検診を受けに病院だ。

「じゃあ先に出るけど、絶対に走るなよ転ぶなよ無理するなよ」

「…分かってるよ」

「結果も後で教えてくれよな」

「うん」

そう言って口に軽くキスをして出て行った。

進藤の心配性はいつになったら治まるんだろう…と思ってたけど、結局産まれるまで治りそうにないな…。

まぁそれはそれで気にかけてくれて嬉しいけど…。

「僕も行くか…」

あんまり病院は好きじゃないからすごく憂鬱だ…。

そりゃ病院自体は清潔だし、看護士さん達も優しいし、特に問題はない。

でも産婦人科には他の妊婦さん達がたくさんいて、待ち時間に大抵お話しすることになる。

それが17歳だと色々勘違いされるから嫌だ。

この前初めて同い年の子がいたけど、その子は高校生で下ろすつもりだと言っていた。

子供が可哀想…とは思ったけど、世の中には色んな立場の人がいるから仕方ないんだろうな。

もし僕が下ろすなんて言ったら―たぶん進藤は…泣いて止めるな。

ある意味あんな進藤を夫に持てて良かったと思う。



「今何ヶ月なんですか?」

「あ、9ヶ月です」

隣に座っていた女性が話しかけてきた。

ふわふわした優しそうな感じの人だ。

「じゃあもうすぐなんですねー。私は今7ヶ月目なんです」

初産だから不安…とか色々話しだした。

「結構若い…ですよね?お幾つなんですか?私は23なんですけど―」

う…。

来た…。

この質問が一番嫌だ。

「…17…です」

「えっ!17?!若っ!」

うぅ…やっぱり進藤を恨んでやるー!

何で僕がこんな思いを―

「じゃあ色々大変じゃないですか?周りの目とか…高校生でしょ?」

「いえ…高校には行ってないんで…」

「えっ、中卒?!」

何だかジロジロこっちを見てくる。

「真面目そうに見えるのに…」

何がだ!

何か勘違いしてないか?!

だいたい中卒じゃいけないのか?!

僕は学校の勉強より囲碁を取ったんだ!

「旦那さんは…年上?」

「いえ…同い年です」

「へぇ…大変ね」

何…こいつ…。

「私の夫は去年慶大のロー・スクール卒業して、今年から弁護士なの」

「すごいですね…」

自慢始めたし…。

「大学時代に合コンで出会って、そのまま卒業と同時にゴールインしたんです」

「そうですか…」

「でも色々大変なの。研修の愚痴とか聞かされるしー」

「……」

夫婦なんだからそれ位聞いてあげればいいのに―

「あなたの旦那さんは何のお仕事?働いてるんでしょ?」

「あ…棋士です」

「は?キシ?何それ―」

「……」

「囲碁の棋士でしょう?」


え…?


「囲碁?あの囲碁?」

「他に何かあるの?」

反対側に座っていた人が話し出してきた。


「松岡さーん」

「あ、私だ。じゃあお先に失礼しまーす」

軽く会釈をして診察室に入っていってしまった。

「中卒でもあなたの夫より私の方が収入は1ケタ上よ!…ぐらい言ってやれば良かったのに―」


え…


この人僕のこと知ってる…?


「…囲碁の世界って一般の人からしたらマイナーですものね」

「あ、説明して下さってありがとうございました」

「いいえ。私の夫も棋士なのよ…塔矢五段」


え…

「あ…そうだったんですか」

「森田三段なの…夫。知らないでしょ?」

森田…。

森田…?

知らないな―

「すみません…」

クスっと笑われた。

「いいのよ、知らなくて当然。ずっと一次予選止まりなんですもの…塔矢プロにしたらもう二度と対局することもないでしょうから―」

「……」

「結婚されてたなんて知らなかったわ。相手は―?」

「あ、進藤です。進藤ヒカル」

「進藤三段?そう…素敵ね、若手のトップ棋士二人が夫婦なんて」

そうかな…。

「同じ三段でも違い過ぎるわね。うちのはもう8年も棋士をしてるのに…。今年で三十路だし…」

あまり強くないんだな…。

「あの人の給料だけで生活なんてとても出来ないわ。手合いの他にも色々頑張ってはくれてるんだけどね…」

進藤だって他の仕事もしてるし、僕だってこんなお腹になるまではしてたよ―。

「だから私もパートで働いてるの。少しでもこれからの養育費の足しに出来たらいいし」

大変なんだな…。

養育費の心配なんてしたことなかった…。

「進藤プロだったら子供の一人や二人余裕で育てるだけの収入はありそうね。その上母親が塔矢プロだなんて…うらやましいわ」

「そんなことは―」

何て返したらいいのか分からない…。


「森田さーん」

「あ、私だ。じゃあお先に。今度の女流本因坊の防衛、頑張って下さいね」

「はい―ありがとうございます…」


何だか…

色んな人がいるんだな…。

そうだよな…。

プロの世界には上下がある。

勝つものがいれば負けるものもいる。

完全な実力世界だ―。

今まで上しか見てこなかったから…下がどうなってるのかなんて、全然知らなかった―。



「お帰り〜」

「ただ今…」

夕飯の買い物をして帰ったら、もう進藤は家に戻っていた。

「結果どうだった?」

「うん、順調―」

「そりゃ良かった」

笑顔で頬にキスをしてきた。

「でも―…」

「でも?」

さっきのことを話してみた。


「は?下?下のことなんてオレも知らねーよ」

「……」

「オレらだってまだまだこれからじゃん!リーグ入りは出来ても全然タイトル取ってねーし」

「そうだな…僕も女流のしかない。まだまだこれから…だ」

「そうそ、下は下で頑張るだろうし、オレらが気にかけたって意味ねーよ」

「確かに…僕も自分のことで精一杯だし…」

「だろ?オレもお前と子供のことで手一杯。下なんて気にかける余裕ねーよ」

その言葉でちょっと嬉しくなった―。

「神の一手はまだまだ先なんだぜ?常に上を見てねーと、んなもん届かねーよ」

神の一手…か。

進藤の目指す先は時々すごく上なんじゃないかって思う―。

僕も負けない―。


「あー…あのさ」

「ん?」

「ずっと言いたかったんだけど…」

「何…?」

「名前をさ…」

「名前?子供の?」

「いや、別にその子じゃなくてもいいんだ。二人目でも三人目でも…」

それは…それだけ産めって僕に言ってるんだろうか―。

「でも…誰かに付けてもいいかな…?」

「何て名前?」

「…『佐為』って―」


え…―


その時思った。

僕らはまだまだ秘密が多いな―って。

囲碁も進藤ともまだまだこれからだ―







―END―






以上、ヒカルの強行計画話2でしたー。
もう…何か…すべてにおいてゴメンナサイ…。
何書いてるんだ私…。
軽く(?)暴走気味です。

結果的には出産シーンまで行かなくて一安心でした。
そこまではさすがに書けない…(未経験ゾーン)

ちなみに明子さんもアキラを20過ぎぐらいで産んでそうなので、今回は30代という設定で。
皆早いよー><

社については、ヒカルのライバルにも成りうるおいしいキャラですが、今回はいい(?)相談相手ってことで。
きっと北斗杯前の合宿の時に、夜、好きな子の話とかしたんだよ!
原作では秀策秀策言ってましたが…(しーん…)

そして名前〜。
これは絶対にありえると思うのです!(断言)
ヒカルは絶対子供に「佐為」って付ける!
そしてアキラに言われます。


アキラ:「進藤佐為って語呂悪くない?」
ヒカル:「…いいんだよ何でも。その名前を付けることに意義があるんだ!」
アキラ:「そもそもどっちの名前?男?女?」
ヒカル:「どっちでも。…出来たら男で」
(ふぅん…saiは男なんだ…)


しれっとアキラはsai情報をゲットですよ(笑)


本編中で何度も言ってたアキラの「18で産む」宣言。
たぶんこれは叶いませんー(鬼…)
最後の最後まで頑張るんだけど、誕生日3日前ぐらいであえなく出産。
ヒカルがあやしている隣で、ベッドの上で「17で産んでしまった…」としばらく泣きじゃくるのですー。
あぁ、可哀相…(笑)
そして2人目の子供も19か20かって所だと面白い…。

いやー、にしてもアキラが女だとコトがスムーズで良いですな★
ラブラブな幸せ家族が築けるよ!
書いてて楽しかったですー。
まぁ…私が書いたら男だろうがなんだろうが、ヒカルとアキラはラブラブなんですが…(寒いほどに…)。


この話の続きになる出産後の話も書いてみましたので、よければどうぞ〜☆








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