●LARGE FAMILY U●



「進藤、結婚しよう」


――そう塔矢にプロポーズされたのは、彼女が19歳になったばかりの冬だった――



「結婚…?」

「うん」

「……」


えーと……ちょっと待て。

コイツ順番間違ってねぇ?

結婚の前にまずお付き合いからだろ。

『結婚しよう』じゃなくて『付き合おう』だろ。


あー…でもオレらって既に付き合ってるようなもんか?

平日も休日も朝も昼も夜も関係なしに四六時中一緒にいるしな。

(碁打ってるだけだけど)

両親が外国なのをいいことに、オレは塔矢ん家に住みついちゃってる状態。

もちろん食事は塔矢が作ってくれてる。

最近じゃ洗濯とかもしてくれる。

うおー、よく考えたらそれってもしかして既に同棲してるってことか?

いや、体の関係がないから同居か?


どっちにしろ、とにかくオレは塔矢のことが好きだ。

一人の女性として好きだ。

先越されちゃったけど、本当はそのうちオレの方から告るつもりだった。

んでいつかは結婚とか出来たらいいな〜って夢見てた。


だからオレの答えはもちろん――



「おう!しようぜ、結婚!」

元気よくOKすると、塔矢は嬉しそうに顔を赤く染めてきた―。


…あーあ。

本当はプロポーズもオレの方からしたかったな。

そりゃ塔矢は相手がしてくるのを待つタイプじゃないけどさ。

ホントかっこいい奴。


「…僕ね、子供がたくさん欲しいんだ。だから早く結婚したい」

「お、奇遇だな。オレも子供はいっぱい欲しいな〜。野球のチームが作れるぐらい!」

冗談まじりで笑いながら言うと、塔矢は真顔で真剣に続けてきた。

「僕は…もっと欲しい」

「何人ぐらい?」

「出来れば………16」

「は?」

「だから……16人欲しい」

「………」

驚きで目が点になってしまったオレに、塔矢が上目遣いで不安げにオレの顔を見つめてくる―。

「…駄目?」

「ダメっていうかー……人間ってそんなに産めるもんなのか?」

「産めるよ。戦前までは10人兄弟とかざらだったみたいだし」

「ふーん…そうなんだ。ま、いっか。オマエが欲しいなら手伝ってやるよ」

「ありがとう」



――こうしてオレらは19歳の若さで結婚することになった――








新居は棋院にほど近い新築の高層マンション。

結婚式と新婚旅行が終わった後、十段戦と女流名人戦の五番勝負の合間をぬってバタバタと移ってみた。

改めて一緒に住み始めたオレら。

プロポーズ前に住みついてた時と新婚生活の一番の違いは、やっぱり………エッチをしてるってことかな。


「子供産むのはやっぱ30代までに終わらしておきたいよなー」

「うん」

「てことは20年か…。20年で16人……10年で8人……5年で4人…か。うーん…」

「急がないとね」

「だな」


オレらの明るい家族計画は確かに一瞬無理のある計画に見える。

アキラの体力が持つのか?とか。

それだけの子供を育てれる環境を作れるのか?とか。

オレらも不安はいっぱい。

でも100%不可能とは言い切れない。

とにかく今は仕事を頑張るのみ、夜の生活を頑張るのみ、だ――


「ヒカル、もう寝よう」

「うん」


アキラに手を引っ張られて向かった先はもちろん寝室。

大きなダブルサイズのウォーターベッドに横になって、寝る前にゴソゴソと始める――


「――…ん…っ」


たくさんのキスをして、キスされて、何時間もお互いの体を引っ付けあうこの行為。

初めてしたのは新婚旅行先のホテルだ。

思い起こせば碁ばかりだった十代。

女の体にももちろん人並みに興味はあったけど、碁の方を優先してしまった思春期。

だけどアキラと体を重ねてみて、ちょっと…いや、かなり後悔した自分がいた。

もっと早く女を知っておくべきだった!…って。

それぐらい気持ち良くて…心地よくて…最高の気分になれた。

でも知らなかったから……今の碁界での立場の自分がいるのも事実。

オレのことだ。

知ってしまってたら、たぶんそっちばかり頑張って、絶対に碁を適当にしてたと思う。

その相手がアキラならまだいいけど、もし他の女にも手を出してたら?

そしたら絶対に今こうしてアキラと抱き合ってる自分はいなかったよな…。

タイトルホルダーの自分もいなかったと思う。

運命ってよく出来てるぜ。

誰かに仕組まれてんじゃないねぇのか?って程に。

誰か…って、アキラしかいないけど――



「ヒカル…」


終わった後、アキラが満足げにオレに抱き付いてきた。


「気持ち良かった…」

「ん、オレも…」


結婚前に一度も体の関係を持たないのってある意味賭けだよな〜って思うけど、オレとアキラは体の相性も抜群みたいで良かった。

これなら20年持ちそうかもな。

いや、20年どころか一生するつもりだけど――


「早く赤ちゃん出来ないかな…」

「すぐ出来るって。それより今は二人だけの時間を楽しもうぜ」

「うん…」



二人だけの時間を満喫出来るのも今年いっぱいだけ。

ちなみにオレらの第一子が産まれるのが来年の年明けで、それから年々忙しくなっていくのは言うまでもない話――













―END―














以上、大家族になる前のヒカル視点話でした〜。
たぶんこのヒカアキはアキラの方からプロポーズしてると思うんですよねー。
アキラが押せ押せ!な感じじゃないと、とてもじゃないけど大家族にはならないかと(笑)
次はアキラ視点も書きたいな〜。
新婚旅行話という名の初エッチ話も書きたいな〜。