●EVERYDAY●





女流棋士による女性の為の囲碁セミナーが地方の温泉旅館で開催された。

下は小学生の女の子から、上は80代のおばあさんまで幅広い年齢層の方々が参加してくださり。

僕たち棋士側も歴代女流タイトルホルダーから今期入段したばかりの新人まで、日本棋院に所属している女流はほぼ全員強制的に駆り出されることとなった。

裏方も女性オンリーで揃えられ、イベント自体は終日華やかで大盛況に大成功で終わることとなった。


ただ問題がひとつ。

珍しいイベントだったのでお客さんも99%地元の人ではなかったのだ。

つまりほぼ全員が宿泊。

よってこの温泉旅館の女湯は大混雑になったのだ。

反対に男性客がほとんどいないことから、急遽僕たち棋士は決められた時間に順番に男湯を利用することになった。

年功序列でまずは50オーバーのベテラン棋士。

次に人数の多いバブル世代40代組。

その次に回ってきたのが僕ら30代〜20中頃までの棋士だったのだが……




「はー、やっとゆっくり出来るわねぇ」

と桜野さん(本名:伊角千恵子さん)。

「塔矢、背中流しあいっこしよっか♪」

と奈瀬さん(本名:緒方明日美さん)。

「け、結構です…」

と僕(本名:進藤アキラ)。

「見て見て、露天風呂広いよー!」

と春木さん(本名:冴木良子さん)。


そう――僕らの年代は別名『職場結婚組』と呼ばれ、夫が同じ棋士の人が多いのだ。

もし10年前このイベントが開かれていたら、僕らはきっときゃっきゃと恋バナに花を咲かせていたことだろう。

けれど結婚して何年も経った今となってはただの旦那の愚痴りあいだ。

しかも深夜近くにもなると話はより深く、アダルトな内容となっていく。

ちなみに今の話題はこれだ。


『旦那とどれくらいの頻度でHをしているか』


「慎ちゃんって私が誘わないと全然なのよー。私も子供3人もいたら常に疲れてるし段々面倒くさくなってきて…今は月に1、2回ってとこね」

はぁ…と桜野さんが溜め息を吐いた。

「私は一応1、2週間に一回はしてるけど……精次さんももう年なのかなぁ、前よりは全然よ」

どう思う塔矢?あんた妹弟子でしょ?と奈瀬さんが僕に振る。僕に聞かれても…。

「私も週に1回するかしないかかなー。まだ新婚なのに寂しいもんよねー」

冴木さんと春木さんが結婚したのは半年前だ。

子供もいなくてまだまだ新婚気分。でも、その程度らしい…。


「――で?塔矢は?」

「ぼ、僕ですか…?」

「進藤とどれくらいシてるの?」

「………」


皆の視線が僕に集まる。

冷や汗が出てきた。


「ぼ、僕も…月に数えるほどでしょうか…」

「あーら、あんなに塔矢塔矢言ってるくせに進藤も意外と枯れてんのねー」


今度イジってやろ、と奈瀬さんが笑う。

連られて僕も苦笑いするしかなかった。


…恐くて本当のことなんて言えない。

言える雰囲気ではないのだ。

だって皆そのあとセックスレスについて語り出したのだから。

愚痴りあって慰めあってるのだ。


そんな中、言えるわけがないだろう…!!

まさかいまだに『毎日』してるだなんて…!!











「ただいまー…」


翌日――2日目の日程も無事終えた僕は、夜10時を回った頃ようやく帰路についた。

子供達はおそらくもう寝てるだろう。

そーっと音を立てないよう中に入った。

どうかどうか、ヒカルも寝ててくれますように!と願って……


「あ、お帰り〜アキラv」

「ただいま…」


起きていた……ガックリと肩が落ちる。

ヒカルはお風呂に入っていたらしい。

タオルで頭をガシガシ拭きながらちょうどバスルームから出てきた。


「子供達は?」

「ん、寝かした〜」

「そう…ありがとう」


ヒカルが早速後ろから抱き締めてきた。

クンクンとまるで犬みたいに首のあたりを嗅ぐ。


「あ〜アキラの匂いだぁ。久しぶり過ぎて嬉しくて涙が出そう…」

「久しぶりって、昨日の朝も会っただろう」

「一晩いなかったら久しぶりなの。アキラ、夕飯食べてきたよな?早く風呂入ってきて」


背中を押してバスルームに押し込もうとする。

疲れて帰ってきたのに、一息もつけさせてくれない夫に溜め息が出る。

ヒカルの目は既に熱がこもっていた。

今すぐにでも抱きたいと訴えていた。

げっそりとなる…。


「なにチンタラ脱いでんだよ。手伝ってやる」

「ちょっ…」


ヒカルが僕のブラウスのボタンに手をかけてきた。

引きちぎらんばかりの強さで引っ張られる。

胸元までボタンが外れると、見えた谷間に顔を埋めてきた。


「も…う」

「やっぱオレも一緒に入る」

「え…」


あっという間に素っ裸にされて、ヒカルもいつの間にか脱いでいて。

僕の肩を抱いてお風呂場に誘導された。

あとはもう…されるがままだ。

小一時間後、お風呂から出た後もリビングのソファーで求められ。

ベッドでも飽きたらず求められ。

ようやく満足したらしい彼に解放されたのは午前2時を回った頃だった……




「…ねぇヒカル、昨日奈瀬さん達と一緒に温泉に入ったんだけど…」

「うん?」

「皆旦那さんとのHは月に数えるほどだって言ってたよ…」

「は?!マジで??信じらんねー」


ヒカルは本気で驚いていた。


「好きな奴が横で寝てんのに、何で我慢出来んの?ありえねー」


他の人からしたらキミの方がよっぽどありえないと思うけど……

でも…少しだけ嬉しいと胸がキュンとなってしまう僕もいた。

ハタチの時に結婚して、今年で結婚7年目。

子供も二人もいるのに、こんなにも愛されてるなんて…僕は幸せものなのかもしれない。


「オレは出来るチャンスは逃したくねーもん。明日からはオレが遠征だしさぁ…」


そうなのだ、僕も進藤もタイトルホルダー。

ゆえに七番勝負の二日碁ともなれば毎週4日は家を空けることになる。

海外棋戦ともなれば一週間近い。

名古屋や大阪への遠征も多いし、地方のイベントやセミナーにもしょっちゅう呼ばれる。

二人ともが二人ともそんなスケジュールだと、一緒に過ごせる日は限られてくるのだ。

毎日してるとは言っても、もちろんそれは一緒に寝れる日限定なのだ。

ヒカルがチャンスを逃したくない気持ちも分からないでもない。

(閑散期でも毎日求めてくるのはやめてほしいが…)



「やべ、明日も出来ないと思ったらまたしたくなってきた…」

「…これ以上起きてたら明日の対局に影響する。もう寝ろ。お休み」


僕は彼に背を向けて布団にくるまった。


「アキラちゃーん、もう一回だけ?な?」

「……」

「なぁって、アキラぁ〜〜。オレのこと愛してないのかよ〜〜」

「……」

「はぁ…オレもうダメかも。明日は絶対負ける。もう一回しないと絶対負ける」

「……分かったよ、もう」


するまで永遠言われそうだったので、僕は早々に手をあげて戦線離脱した。

さっさと終わらせて睡眠時間を確保する方がよっぽど効率がいい。

やったー!と喜び抱きついてきた夫の頭をよしよしと撫でた。


「…僕らは僕らのペースでいけばいいか…」

「当然。オレはオマエが生理の時か妊娠してる時以外は抱くって決めてるから」

「へぇ…そう」


生理の時か、妊娠してる時…ね。

生理は月に一週間しかお休みはもらえない。

でも妊娠は少なくとも9ヶ月は休める!

ヒカルのセックス地獄から少しでも逃げる為に、ひそかに3人目を考える僕がいた――






―END―






以上、毎日しちゃってるよ話でした〜。
ヒカル君は結構性欲が強い方だと思うんですよー。
まだ20代だし、まだまだ毎日出来るぜ!みたいな(笑)
アキラちゃんめちゃくちゃ愛されてます!お疲れ様です!

私の中で伊角さんは和谷とくっつかないんだったら絶対桜野さんの手に落ちると思ってます!
ああいうタイプは絶対年下好きだ。
緒方さんと組み合わせようかとも思ったんですが、緒方さんみたいなタイプは意外と奈瀬ちゃんみたいなエネルギッシュな子に押せ押せでやられちゃうかな、みたいな(笑)
春木さんはあの子ですよ、緒方さんと公開対局してた初段(当時)の子ですよ。
和谷っちの奥さんも適当に決めて出そうかな〜と思ったんですが、茂子ちゃんは碁打たないしなぁ…ってことで諦めました。
いつか伊角さんも女体化させて和谷っちの彼女(か奥さん)にしたい…。