●MY DOUBLE 〜ヒカル&アキラ編〜 1●
「キミ、家でも建てるの?」
「んー…まだ検討中。もうすぐ二人目も生まれるし、気持ち的にはそろそろ買うか〜って感じなんだけど、あんまりいい場所がなくてさー」
「ふぅん…」
進藤が溜め息をつきながら住宅メーカーのパンフレットを閉じていた。
進藤と僕がただのライバルに戻ってから、もうすぐ3年になる。
僕は進藤の従妹の菜々と結婚し、進藤は僕の従姉のミナミと結婚した。
もちろんお互いもう子供もいて、僕の方は妻似…つまり進藤似の可愛い男の子が一人。
進藤の方はミナミ似…つまり僕似の綺麗な女の子が一人。
プラス、お腹の中にもう一人。(今5ヶ月って言ってたかな?)
何もかもが予定通りで万々歳だ。
「棋院に近い方がいいし、ミナミの大学にも近い方がいいだろ?もちろんお互いの実家にも近い方がいいしさー、これが結構難しいんだよ」
「どれも23区内じゃないか。どこだって同じだよ」
「そうなのかなぁ?な、塔矢はどこかいい場所知らない?」
「…知ってるよ」
「マジ?どこ?」
「じゃあ今日の帰り、案内してあげるよ」
「マジ?!サンキュー!」
お互い午後からの対局も素早く終わらせて、僕達は一緒にその場所に向かうことにした。
棋院から車で約20分。
ミナミの大学までは電車で10分。
着いたその場所は――…
「――って、オマエん家じゃん!」
「隣の土地がちょうど売り出し中なんだ」
「へぇー…」
売り出し中と言うか、元々は父が譲ってくれた一つの大きな土地だったんだけど。
あまりにも広くて菜々が管理出来ない!と言うので、その半分だけを使って家を建てたんだ。
従姉夫婦にその残りの部分を譲っても何も問題ないだろう?
「いいのか?」
「もちろん。キミにすぐ会えるのは嬉しいしね」
「塔矢…」
素直に言葉にすると、進藤は少し照れ臭そうに頬を赤く染めていた。
お互い、家族が必要な歳になって別れてしまったけど、やっぱり気持ちは変わっていない。
僕は進藤が好きだ。
相変わらず好きで好きで仕方がない。
家族が手に入った今、次は再び彼の愛をこの手に戻したいと思う僕は傲慢なのだろうか。
ミナミに申し訳ない。
でも、相手は僕の分身だから。
きっと分かってくれる気がするんだ。
「新築おめでとう、進藤」
「サンキュー」
彼らの家が完成したのとほぼ同じ頃、ミナミは二人目を出産した。
一人目も連れて当然しばらく実家に戻る彼女。
僕はその時を狙って進藤に新築祝いを持って行った。
「素敵な内装だね」
「設計もアイツがしたんだ。オマエと一緒でセンスいいだろ?」
「僕好みだ」
「ハハ、じゃあ一緒に住むか?ミナミが帰ってくるまで…さ」
「…菜々、今日から保育園のママ友と一緒に旅行に行ってしまったんだ。…息子も連れて」
「ふーん」
ま、座れよ、とリビングのソファーに座らされる。
進藤もすぐ横に腰掛けてきた。
「…家族っていいよな」
「…そうだね」
「やっぱりオレ、ミナミと結婚してよかったよ。…オマエと家族を持てたみたいだった」
「僕もだ…」
「…でも、ミナミはオマエじゃない。オレ…やっぱ駄目みたい…」
「…僕も」
「オマエじゃないと駄目なんだ」
「僕もだよ…」
「塔矢…っ!」
進藤に抱き着かれた。
もちろん、お互い家族は大事だ。
別れるつもりも、この三年で作り上げた家庭を壊すつもりもない。
今だけ。
たまに…だけ。
こんな風に彼に抱きしめられて…抱かれたい。
彼の愛をこの手で感じたいんだ。
「進藤…好きだ。やっぱりキミが一番好きだ…」
「オレも…。な、抱いてもいいか…?ベッドで…ちゃんと」
「…キミがミナミと子作りしたベッドで?」
「ううん、ベッドは新調したんだ。アイツとは寝室も分けることにした。ミナミとする時はアイツのベッドに潜り込むことにするよ。オレのベッドはオレとオマエの専用な♪」
「…馬鹿じゃないのか?」
「うん、馬鹿。でも、行くだろ?」
「…ああ」
3年ぶりに体で進藤を感じてみた。
相変わらず非生産的な意味のない行為をして。
でも、意味がないからこそ…愛だけがある。
純粋に愛情だけがある。
好きだよ、進藤。
この世の誰よりも。
一生。
今度はもう離れない―――