CONTRACT MARRIAGE





パシャパシャパシャ…


対局会場のホテルの庭園で行われる写真撮影。

にこやかに笑顔で並んで、僕と進藤はカメラに囲まれていた。


「最後に握手をお願いしまーす」

とスタッフに指示され、僕らはやや遠慮気味に手を繋いだ。

その手の温かさ、硬さ、大きさに、少しだけ…胸が高鳴るのを感じた――






本因坊戦挑戦手合い、第1局。

前夜祭もつつがなく終わり、僕ら対局者の今日の出番は終了。

夕食も関係者とは別に自室で頂くことになっていた。


エレベーター待ちをしていると進藤もやってきて、

「お疲れさん」

と声をかけられた。


「お疲れ」

「塔矢は夕飯なに選んだ?」

「和会席」

「一緒だ」

「そう…」



進藤とタイトル戦を戦うのはもう何回目だろう。

本因坊戦だけでも確か今回で5回目。

ハタチの時に奪取して以来、この19年間ずっと進藤が保持している彼の代名詞・本因坊。

今回こそ彼から奪ってやりたい――と密かに闘志を燃やす僕がいた



「スバルは元気?」

進藤が聞いてくる。

「元気だよ。今頃両親と夕飯を食べてる頃じゃないかな」


スバルとは、僕の息子の名前だ。


「タカラは元気?」

「元気元気。こっちはもう中3だし、きっと今頃自由気ままにカップ麺とか食べてるよ」

「ふふ…」


タカラとは、進藤の息子の名前だ。


そして二人とも――僕と進藤の息子だ――



――そう

僕と進藤は『元夫婦』だ――




25
歳の時、僕らはいわゆる『契約結婚』をした。

お互いタイトルホルダーで忙しく、恋愛する暇もなかった僕ら。

結婚願望もなかった。

このまま進藤と二人で神の一手を極めれれば満足だった。


でも――当然周りはそれを許してくれない。


僕も進藤も二人とも一人っ子で、家を継がなければならない。

恋愛する暇がない僕らには当然あちこちからお見合い話が持ちかけられてきて、その対応に時間を割かれるのが億劫だった。

お見合いなんてしてる暇があれば進藤と一局でも打ちたいのに――

彼も同じ気持ちだったようだ。



「なぁ、もうオレらで結婚しちゃわない?」

「……え?」


一瞬ドキッとしたのは、僕も女だからだろうか。

でも、続けて彼が言ってきた提案に、僕は目を見開いた。


「契約結婚って、何か流行ってるらしいじゃん?いい案だと思わねぇ?」



契約結婚……



「オレもオマエも一人っ子だから、それぞれの家に跡継ぎがいるわけじゃん?だから塔矢、子供2人産んでよ」

「え…?」

「んで離婚して、お互い1人ずつ育てようぜ」

「それ…僕にメリットある?」

「あるだろ。もう見合いしなくていいし、跡継ぎもゲット出来るし。それに、結婚してる間はオレと打ち放題だぜ?」


進藤と打ち放題――何て魅力的なプロポーズなんだろう。

気が付いたら首を縦に振っていた僕がいた。


こうして結婚した僕ら。

翌年には長男のタカラが生まれて。

そして更に2年後の28歳の時に、次男のスバルが生まれた。

その1年後に僕らは契約通り離婚して、僕は塔矢姓に戻り、スバルを引き取った。



(早いものでもうすぐ離婚して10年になるのか…)



今でも鮮明に覚えている。

結婚式でのファーストキス。

初めてキミと抱き合った初夜。

それから子作り名目で、毎晩のように抱かれ続けた日々を。

そして徐々に彼に惹かれていった僕の恋心を――



実を言うと、僕は本当は別れたくなかった。

でもそういう契約だったし、塔矢の姓を継ぐ子供がどうしても必要だったから…仕方がなかった。





チン


エレベーターが到着し、僕らはそれに乗り込んだ。

二人きりの密室に、少しだけまた胸が高鳴るのを感じた。

意識してる証拠だろう。

僕は10年経った今でもきっとまだ…彼を男として意識している……



「……なぁ塔矢」

「なに?」

「オマエの部屋で夕飯食べちゃダメ?」

「ダメだろう。もう部屋に準備されてるだろうし」

「…じゃあ、夕飯食べたら……ちょっとだけオマエの部屋に行ってもいい?」




………え?

 

 



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