●CONFESSION●






「好きな人が出来たんだ」

「へぇ……」


いつものように塔矢んチの囲碁サロンで打っていた時だった。

中盤に差し掛かったところで、急に彼女が口を開いた。


好きな人が出来た…らしい。

へー、としか言いようがない。

別に他人の恋に興味なんかないし。

つか、自分のにも興味がなかったりする。

女なんて面倒、恋人なんかいなくたって全くもって困らない。

オレはこのまま一生囲碁だけ打てればそれでいい。



「告白しようか迷ってるんだ…」

「ふーん…」

「進藤は告白したことある?」

「…されたことはあるけど」

「嬉しかった?」

「…別に。全然知らない奴だったし…」

「断ったんだ?」

「まぁな…」

「じゃあ知ってる人だったら?付き合った?」

「はぁ?付き合うわけねーじゃん」

「…どうして?」

「オマエだってそうだろ?芦原さんに告られたからって付き合うか?越智に告られたからって付き合うか?付き合わないだろ?」

「…うん」

「オレだって同じ。奈瀬に告られても付き合わないし、あかりに告られても付き合わない」

「……僕に告られても?」

「………は?」


思わず挟んだ石を碁盤に落としてしまった。

顔を上げると、塔矢の顔が耳まで赤くなっていることに気付いた。


え……これって、まさか。

オレ、塔矢に告られてるのか?

コイツの好きな奴って、もしかして、オレ??


「えっと……」

「………」

「オマエの気持ちは嬉しいけど…その…」



プッ



塔矢が吹き出した。

くすくす笑ってくる。


「冗談だよ。今日は何の日?」

「は?今日は……」




4月1日―――エイプリル・フール。




それにやっと気付いたオレは、くそっ!やられたぁ!とショックを受けたのだった。


「キミって可愛いね」

「う、うるせーよっ!くそっ、もう帰る!」


ガタンと豪快に立ち上がったオレは、ドスドスと碁会所を後にした。



あーームカつく!!

そうだよな!よくよく考えれば、だいたい塔矢に好きな奴なんか出来るわけがないんだ!

人間より囲碁の方が好きな女なんだからな!

最初からオレを騙すつもりであんなことを言い出したんだ!

くそっ…!!




「…やべ、財布忘れた…」


駅の改札口まで来たところで、そういえば今日は自販機でジュースを買ったから、財布を鞄から出したことを思い出した。

確か…碁盤のすぐ横に置いたはず。

塔矢の顔なんかしばらく見たくないが、財布がないと帰れないのでしぶしぶ囲碁サロンに戻ることにした。






「ほらぁ…もう泣かないの、アキラちゃん」


入り口のドアを開けようとしたら、中から市河さんの声が聞こえた。


「だっ…て…」


かすれた塔矢の声。

何だ何だ?と少しだけドアを開けると、市河さんが泣いてる塔矢を抱きしめているのが見えた。


というか…何で泣いて……


「早く進藤くんのことなんか忘れちゃいなさい。アキラちゃんにはもっといいの男が現れるわよ」

「忘れられるわけ…ないよ…。だって…」

「…そうよね。もう10年越しの恋だもんね…」




―――え?




「やっぱり聞かなきゃ…よかった」

「でも、もう限界だったんでしょう?よかったじゃない、スッキリして。エイプリルフールに便乗したから、進藤君はこれからも普通に接してくれるでしょうし。ね?」

「僕…は普通になんか…出来ません」

「大丈夫。アキラちゃん…ポーカーフェース上手いから」

「……うん」



……そういうことか。

塔矢の奴、オレのこと…やっぱり本気だったんだ。

塔矢が泣いてるところなんか初めてみた…。




ガラッ




「進藤…っ、キミ、帰ったんじゃ…」

「…財布忘れた」

「そ、そう…」


ドアを開けると、オレだと分かった途端、塔矢は慌てて市河さんから離れていた。

ゴシゴシ涙を拭って必死に隠そうとしていた。


やっぱり碁盤の横にあった財布を、ズボンのポケットに入れる。


再び入り口に戻ると、塔矢が真っ青になってオレを見てきた。

まさかさっきの会話聞いてたのか?って顔。

これからも今まで通り、ライバルの関係を続けてくれるよね?という不穏げな顔。


確かに……知らないフリして続けることは簡単だけど。

でも、オレは聞いてしまったから。

コイツの泣き顔…見ちゃったから。




「…塔矢さぁ、本当はどうなんだよ?オレのこと好きなのか?」

「それ…は…」

「好きならちゃんと告白しろよな。ダメだったら嘘にしちゃおうとか、そんな中途半端な告白じゃオレの心は動かないぜ?」

「…でもキミは僕のことなんか…別にどうとも思ってないんだろう?どうせフラれるなら、今まで通りの関係が保てる方がいいから…」

「確かに今はライバルとしか思ってないよ。でもオレ……別に付き合ってもいい…ぜ?」

「…は…?」


キョトンと目を丸くしてきた。

意味が分からないという顔。

オレだって、自分が何を言ってるのかよく分からなくなってきた。

ただ分かるのは――


「オマエに泣かれるぐらいなら…別に付き合うぐらい、いいって思ったんだよ。オレにとってオマエは…唯一無二のライバルなわけだし。大事な存在には変わりないし…」

「……いいの?」

「オマエがちゃんと告白したらな!」

「…うん。じゃあ…―」


真面目ないつもの顔に戻った塔矢が、

「好きです。僕と付き合って下さい」

とオレの目を真っ直ぐ見て言ってきた。

オレは「いいよ」とOKした―――











それから三ヶ月。

オレらはライバルの関係を続けながら、プライベートでは恋人同士の関係も上手いこと続けていた。

何回もデートしたし、もちろんもうキスもエッチも一通り経験済。

塔矢と体を重ねる度に、何だか彼女の体の虜になってしまってるようで…最近ちょっと焦っている。

塔矢がもう嫌だって言うぐらい、いつも何回も求めてしまうんだよなぁ…。

たまに付けないでしようとすると、塔矢が怒ってくる。


「デキたらどうするんだ!」

「別にいいじゃん♪結婚すれば」

「結っ…?!」


『結婚』の二文字を簡単に口に出来るぐらいだから、この三ヶ月でどうやらオレは完全に彼女に惚れてしまったらしい。

今度はオレの方から、ちゃんとプロポーズしてみようかな―――








―END―









以上、2011年エイプリルフール話でした!
珍しく恋愛にあんまり興味がないヒカル君でした。
告白もプロポーズもちゃんとしましょうね。