●COLD U 2●






翌朝――目が覚めるともうお昼で、当たり前だけど進藤の姿も娘の姿もなかった。

熱が下がったみたいで、頭も何だかスッキリしている。

咳も出ないし…治ったのだろうか?

何か口にしようとダイニングに行くと、テーブルの上にメモが置いてあるのに気付いた。


『昨日は無理させてごめん。朝メシ冷蔵庫に入れてあるから少しでも食べろよ』

最後に、『愛してる。 ヒカル』と、相変わらずの汚い字で書かれていた。


…恥ずかしい。

こんなの、子供に先に読まれたらどうするんだ。

変に期待させてしまうだろう、とクシャクシャにしてゴミ箱に捨てた。

でも作ってくれた朝ご飯を食べていると何だか申し訳なくなってきて……やっぱり拾って僕の机の引き出しに隠した。


いけない。

昨夜抱かれて情が移ってしまったのだろうか。

彼は浮気をしたんだ。

僕と結婚してたのに他の女を抱いたんだ。

絶対に許せない。

死んでも許すもんか。


そう自分に言い聞かせて、もう一眠りする為に自室に戻ろうとした時だった。

ガチャッと鍵が開く音がした。




「あ、起きたんだな。調子どう?」

「進藤…キミ、帰ったんじゃ…」

「んー、そう思ってたんだけどさ。夕飯ないと佐菜が可哀相だろ?だからもう一泊だけしていこうと思って…」

「…勝手に決めるな」

「じゃ、いい?オマエもまだ体辛いだろ?」

「ああ…誰かさんのせいで昨日は裸で寝るハメになったからね」

「…ごめん」


本当にこの男は反省してるのだろうか。

顔がニヤけてるぞ。



だけど小学校から帰った娘は、今夜も父親がいることにすごく嬉しそうだった。

進藤が娘の遊び相手をしてくれるから、僕もゆっくり体を休めれたし、正直助かった。


でも、やっぱりというか何というか。

真夜中になると、彼はまた僕の部屋にやってきて……



「アキラ…大丈夫か?」

と労るフリをして、僕の口にキスを落としてきた。


「オレに風邪移していいからな」

と親切ヅラして、ベッドに上がってきた。


「昨日寒かった?今日はパジャマ着たままするから」

……そういう問題じゃないと思う。

でも、僕も何故か本気で抵抗出来なくて――今夜も体を合わせることになってしまった。



「アキラ…、アキラ…」


相変わらず名前のオンパレード。

そしてまるで壊れたレコードのように、好きだの愛してるだのを永遠リピート。

もう耳にタコが出来そうだ。



「…なぁ、後ろから挿れてもいい?」

「…調子に乗るな――ぁ…っ」


進藤は色んな体位でするのが好きだ。

長い付き合いだから、それくらい知っている。

でも、だからと言って普通今求めてくるか?

(まぁ…確かに僕も好きだけど……ボソ)



「はぁ…はぁ…」


そして結局いくつもの体位を楽しんだ僕らは、改めて自分達の体の相性の良さを実感するのだった。

(まぁ…他人と比べたことはないけど)



「アキラ…」


進藤が名前をまた耳元で囁いてきて、幸せそうに僕を抱きしめてきた。


「オレら…もしあのことがなかったら、今もずっとこうやって抱き合ってたのかな…」

「……かもね」

「すっげー悔しい。記憶がない分、尚悔しい…」

唇を噛み締めてきた。


「僕も…悔しかったよ。キミの浮気を知って…悔しくて悔しくて堪らなかった。もう二度とキミの顔なんて見たくなかった」

「オレのこと…好きだった?」

「…ああ」



今も好き―――



「オレも。この一年、オマエと離れててますます実感した。アキラ抜きじゃ生きていけない…」

「僕はキミ抜きでも生きていけるよ。…一人ならね」

「え?」

「でも佐菜を育てるのは…一人じゃ無理だ。キミの力が必要だ…」

「アキラ……」


進藤の目が潤んでくる。

許してくれるのか?って目。

ううん、許さないよ。

許すわけがない。


「浮気は絶対に許さない。死ぬまで。ううん、死んでも」

「……だよな」

「でも……佐菜の為なら僕は…」

「アキラ…」


進藤に…、いや、ヒカルに力一杯抱きしめられた。


「ごめんな…、本当にごめん。もう二度とオマエを悲しませないから。酒も飲まない」

「無茶言うな…。断れない付き合いもあるだろう?」

「じゃ、それだけにするから。だから、だから――」




――オレともう一度結婚してくれる?――













「わ。お父さん、今日も佐菜とあそんでくれるの?もうお母さんのカゼなおったよ?」

「へへ〜、お母さんと仲直りしたんだ。これからは毎日一緒にいられるからな!」

「ホント?!」



翌日――僕らは再び婚姻届を出した。

ヒカルは早速自分のマンションを引き払ってきて一緒に住み始めたのだが、僕と娘が二人で住んでいたこのマンションは2LDKでファミリーには少々手狭だ。

引っ越しを考えた方がいいかもしれない。


「オレはオマエと一緒の部屋でいいけど?」

「キミが良くても僕が困るんだ」

「なんで?夫婦だろ?」

「夫婦だからだ」


キミと毎晩寝てたら、とてもじゃないけど体がもたない…。

という僕の思いは、彼に通じたのか通じてないのか…。


「そっか。そうだよな。二人目も出来るかもしれないもんな。子育てしやすいようにもうマイホーム建てちゃうか〜」

「そ…だね」


とにもかくにも、こうして僕らは元の鞘に収まったのだった。

あ、ちなみに今月の排卵日に見事一致したみたいで、僕は翌月から酷い悪阻に悩まされることになったりする―――






―END―









以上、風邪をひいてるのに寝込みを襲われちゃうお話でした〜。
うーん、本当は離婚してるのに元・夫と関係持っちゃって…デキちゃう、みたいな話が書きたかったんですが(笑)、少し違っちゃいましたね。
再婚までが早過ぎた〜。

ま、これからは仲良く子育てしてほしいものです。
ヒカル君、お酒は控えめにネv