●COFFEE おまけ●

※記録係の女流視点です





(あーん…進藤名人、今日も素敵…vv)



本因坊リーグ・残留決定戦。

進藤名人vs緒方九段の記録係の座を見事ゲットした私。

目の前で静かに闘志を燃やし続けるイケメンに、私はうっとりと熱い視線を送っていた。

しかも本因坊リーグは持ち時間が5時間もある。

二人合わせたら10時間。

10時間も進藤名人と同じ空間で同じ空気を吸えるなんて最高過ぎる。

夢のようなひと時とはまさにこのこと。

しかも記録係のいいところは、たまに話しかけて貰えるということ。


進藤名人が私に

「棋譜を」

と手を伸ばしてくる。

今までの流れを再確認したいんだろう。


「はい、どうぞvv」

ともちろん語尾ハート付きで棋譜用紙を両手で手渡した。


確認し終えた名人が

「ありがとう」

と私に返してくれる。


わわわわわ……どうしよう。

ありがとうだなんて…っ、ありがとうだなんて…っ。

(記録係として当然のことをしたまでですから!!)


進藤名人が触った棋譜だというだけでもうドキドキドキ…。

こそっともう一枚書いて、これは持って帰っちゃいたい衝動にかられた。



更に中盤になって長考した名人が

「消費時間は?」

と今の一手で使ってしまった時間を私に確認してきた。

「57分ですvv」

とまたしても語尾ハートで返す。


はぁん……至福のひと時。

もっと聞いてvv

うっとり見つめていると、対峙していた緒方九段が私の方に鋭い視線を向けてきた。


(怖…っ!)


そういえば緒方九段が緒方女流棋聖の父親だったということを、今更ながらに思い出した。

思い出して……一気にズーンと私の気分は沈んだ。



――そう



一週間前に進藤名人が緒方女流棋聖と結婚してしまったのだ。

もうショックでショックでショックで……その日は一日何もする気が起きず部屋に引きこもってしまった。

もちろん二人が交際しているらしいという噂は何度も聞いたことがあった。

でも実際二人が一緒にいるところをあまり見たことがなかった私は、半分信じていなかったのだ。



それなのにいきなり……結婚……だなんて……



でもでも、結婚会見の時の進藤名人はとてつもなくカッコよかった。

事前準備なしでいきなり始まった会見だったのに、慌てることなく記者の質問にすらすら答える姿は流石だと思った。

(でもってちょっと恥じらってる姿は超可愛かった…)



ちなみに緒方女流は今月一杯で引退するらしい。

よかった…と心底思う。

進藤名人と結婚してルンルンな彼女の姿なんて見たくないからだ。

二度と表舞台に現れないでほしい。

この進藤名人を一人じめだなんて許せない。


この進藤名人を…………


この進藤名人を…………



(あーん、やっぱりカッコいい!!vv)



再び見つめると、あまりのイケメンぶりにクラクラしてしまった。

とても平常心じゃいられない。

一緒に住むとか私には絶対無理な気がした。

落ちつかなさすぎる。

美人は三日で飽きるって言われてるけど、美形は絶対三日じゃ飽きないわよね……






その後もうっとりし続けながらも、ちゃんと記録の仕事をこなした私。

そして夜8時頃――緒方九段が投了した。

持ち時間を30分も残して進藤名人は勝利した。


(流石vv)


軽く記者によるインタビューを受けた後、直ぐ様感想戦が始まった。

もちろん私も同席させてもらう。

進藤名人のいいところは勝っても負けてもしっかり感想戦を行うところだ。

この立場になっても更なる追究の手を緩めない。

だから彼は強い。


そして一時間後、お互いに納得したのか碁石を片付け出した。



「佐為君、このあと一杯どうだ?」

お酒好きの緒方先生が進藤名人を飲みに誘うのが聞こえた。

「すみませんが早く帰りたいので…」

と即座に断っていたけれど。


「あ、お義父さん。航空券やESTAの手配をそろそろしたいので、パスポートのコピーを一部いただけますか?お義母さんのも」

お義父さんと言われたことにか、緒方先生のこめかみがピクッと動いたのを私は見逃さなかった。

「ああ…いつでも取りに来るといい」

「じゃあこの週末にでも精菜と一緒に伺います」

「ああ」


パスポートということはもしかして結婚式は海外?!


(いいなぁ……進藤名人のタキシード姿めちゃくちゃカッコいいんだろうなぁ……vv)


でも例え日本でしたとしても、結婚式に呼ばれる立場じゃない私が名人のタキシード姿を拝めるわけがない。

記事が出たらもしかしたらネットに写真くらいアップされるだろうか。

どうかアップされますように!!と願ってるファンは、きっと五万といると思う。

結婚してしまったのは残念だけど、それでもやっぱり晴れ姿の写真を見たいと思ってしまう私は……やっぱり心底進藤名人のファンなんだと実感する。

入段してから今まで、彼が表紙を飾った雑誌や特集を組まれた出版物はほぼ全て持ってる私。

そしてこれからも買い続けるんだろうな……

人の旦那さんになっても、人の親になっても、きっと一生応援し続けるんだろうと思う。



「お疲れ様でした」

と記録係の私にも声をかけてくれる優しい進藤名人。

対局室を出ていこうとする彼に、私は

「あの、名人すみません!」

と呼び止めた。

振り返ってくれた彼に見つめられて、もう心臓がバクバクで倒れそうだけど。

私は震える声でなんとか彼に祝辞を伝えた。


「ご結婚おめでとうございます…」――と。

「ありがとう」


優しく微笑んで返してくれた彼は、そして足早に棋院を後にした。

きっと一刻も早く緒方女流の待つ家に帰りたいんだろう。


(愛されてるんだなぁ……)


父親の進藤本因坊は愛妻家で有名だ。

きっと進藤名人もそうなるんだろう。


(素敵だなぁ……)

(もう私、一生あなたに付いていきます……)


帰りに手合課に寄った私が、次の進藤名人の対局の記録係も立候補したのは言うまでもない話――







―END―






以上、記録係視点のお話でした〜(笑)
ちなみにこの子は19歳の女子大生です。
3年前の高校2年生の時に女流枠で入段したそうです(今は二段)。
タキシード姿の佐為は妹の葵ちゃんがちゃんとYouTubeにアップしてくれましたので、ファンは皆拝めましたよね。
葵ちゃんグッジョブです(´∀`)b!







〜〜帰宅後〜〜



「ただいま精菜」

「お帰りなさい。お疲れさま」


夜9時半頃、佐為が帰って来た。

夕飯はもう終わってるから、彼が着替えてる間に私はお湯を沸かしてお茶の準備をする。


「佐為、コーヒーにする?それとも緑茶?ほうじ茶もあるよ」

「お茶より精菜がいいな…」

と着替えてダイニングに戻って来た彼に即座に抱き締められる。


「勝ったらご褒美くれるんだろう?」

「うん……じゃあ」


チュッと一瞬だけ触れるキスをしてあげる。

もちろんそんなキスで許してくれるはずもなく。

直ぐ様彼に再びキスを返されて。

その後30分間は口内を貪られ続けたのでした……



―END―


沸かしたお湯が冷めちゃったよ☆