CHRISTMAS おまけ1●〜ヒカル視点〜





クリスマスイブの夕方。

彩がドレスアップして階段を降りてきた。

友達の結婚式に行く格好というよりは、タイトル戦の就位式の時に着ているような清楚だけど華やかなワンピースの上に、コートを羽織って。

右手には小さめのキャリーケース。

左手にはハンドバッグ。


「じゃ、お母さん行ってくるねー」

「行ってらっしゃい」


アキラに挨拶して、彩は玄関を出て行った。

(オレは無視か?)


「彩の奴…、どこに行くって?」


「ああ…、京田さんとご飯食べに行くらしいよ」

「へー…ご飯?」


あんな格好で?

それは本当にただの夕飯か?


「まぁクリスマスだから。それなりのレストランなんじゃないか?

それなりの…レストラン…

「…レストランに何でキャリーケース?」

「そのままホテルで泊まるらしいから」

ホテルに…泊まる…


「え?ちょっと待ってアキラ。つまり今から彩は京田君とホテルでディナーして、そのまま泊まるってこと?このクリスマスイブに?

「そういうことだね」

「それって、それって、それって………ヤバくないか?」

真剣に問うオレに、アキラがクスクス笑う。

「まぁ普通に考えたら…、されるんじゃないかな」


――プロポーズ――


目の前が真っ暗になった……


 

 

 


「ただいまー」


翌日夕方に彩は帰って来た。

「お帰り…」

「ただいま、お父さん」


にっこりと笑って、鼻歌なんか歌いながら2階の自室に向かうご機嫌な彩。

娘の左手薬指には…、出かける時にはなかった指輪が。

しかも明らかに高そうな……どうみても06個はつくであろう値段がしそうなエンゲージリングだ。

また目の前が真っ暗になった。

 

 

 


更に翌日は進藤門下の研究会だった。

佐為と京田君といつも通り検討や対局を行う。

もう年末だから今日で研究会も年納めにするつもりだ。


「えっと…、5日は打ち初め式だから、年始は6日からにしようか」

最後に年始の予定も伝えてお開きとなった。


「お父さん、明日の予定は?」

と佐為に聞かれる。

「別に何も」

「じゃあ午前中、家にいてくれる?」

「別にいいけど…」


了承すると、佐為が京田君と何やらコソコソ話し出した。

何かめちゃくちゃ嫌な予感がする……

 

 

 


更に更に翌日、朝からアキラと一局打ってると、

「ただいま」

と佐為がやって来た。


「お兄ちゃんお兄ちゃん」

と彩が手招きして、ダイニングでまた何やらコソコソ話し出す。



「…なぁアキラ、何か隠してる?」

「何が?あ、これはもう僕の2目半負けだね」

アキラがガチャガチャ石を片付け出した。


するとピンポーンと玄関のチャイムが鳴る。

彩がすぐに玄関に向った。

アキラもそそくさと和室から出ていく。

佐為はのんびりダイニングでコーヒーを飲み出している。

(何してんだコイツ。妊娠中の精菜ちゃん放っといて実家でくつろいでる場合か?)

 


……ものすごく嫌な予感がした……


 

 

「おはようございます、先生」

「……おはよう」


訪問客はオレの嫌な予感通り……京田君だった。

しかもスーツ着用。

これはもう……絶対100%『アレ』だろう……


「京田君…どしたの?昨日で研究会終わったけど…」

「お話がありまして…」


オレの前に正座して座ってくる。

チラリとダイニングの方を見ると、アキラも佐為も彩もこっちを見ていた。


「今日はお願いに来ました。彩さんと結婚させて下さい」


うっわ…、きっつ……

このセリフをまさか41歳で聞くことになるとは思わなかった。

もちろん嫌だ。

彩はまだ21歳だし、まだまだ嫁になんてやりたくない。


でも……断ることは出来ないんだろうな。

精菜ちゃんが結婚してから、彩が結婚したがってたのは百も承知だ

京田君だって彩には勿体ないくらいのいい男だ。


それに……ダイニングから向けられる佐為のあの無言のプレッシャーが何とも……

(アイツ絶対オレが断らないよう見張りに来ただろ…)

 

「……分かったよ」


オレがしぶしぶそう告げると、わっと一気に場が緩む。

「ありがとうございます…先生」

「いや…、彩をよろしくな」

「はい、必ず幸せにします」

「……」


京田君に彩が抱き着いた。

既にとっくに幸せそうな娘の顔が見て取れた。

 

 

 


「……はぁ」


和室で早速イチャイチャする二人を尻目にオレはキッチンにいるアキラの元へ。

「お疲れさま」

やっぱりちょっと落ち込むオレにアキラがクスクス笑ってくる。

「ちょっと急すぎねぇ?プロポーズしたのイブだろ?まだ3日しか経ってねぇのに…」

15日に入籍したいらしいよ。だから向こうのご両親にもすぐ挨拶に行くみたい」

15日?」

「囲碁棋士っぽくていいよね」

「……そういうこと」



1
5日――囲碁の日。

囲碁で出会った彩と京田君が考えそうなことだ。



「じゃ、僕はもう帰るよ」

コーヒーを飲み終えた佐為が立ち上がる。

「…オマエさ、オレが反対しないよう見張りに来たんだろ」

「まさか。面白そうだから見学しに来ただけだよ」

「面白そうって…」

「まぁお父さんが血迷って反対でもしようものなら、もちろん反論しに入ったけどね」

「はは…」


佐為が帰って行った、精菜ちゃんの元へ。

そして彩も

「今日は京田さんち泊まるから♪」

と京田君と手を繋いで出て行った。

オレとアキラだけ残される。

(もちろん双子もいるが、それは別にいい)

 


「オレ…、ちょっと緒方先生と飲んでこようかな…」

「娘を取られた者同士、仲良く?」

アキラがクスクス笑う。

「今ならものすごく先生と意気投合出来そうな気がするんだよな…」

「行ってらっしゃい。あんまり遅くならないようにね」

「うん…」


緒方先生に早速電話する。

『何だ、進藤』

「せんせー飲みに行きません?」

『彩くんを取られたか?』

「…何で知ってるんスか」

『精菜から聞いた』

「はぁ…、もうヤダ。辛くて死にそう」

『じゃあいつもの駅前集合で』

「はーい」


奥さまに行ってきますのキスをして、オレは出発したのだった――

 

 


END

 

 

 

以上、娘さんを下さいを41歳で聞かされたヒカルのお話でした〜(笑)
プロポーズ後3日でその挨拶をする京田さんは早いなーと思いましたが、佐為なんてプロポーズの翌日に緒方さんに挨拶してましたねw

これから緒方さんとやけ酒ヒカルです。二人ともひたすら婿たちを愚痴ってると思います。
でも緒方さんは精菜も妊娠中ですし、流石にもう佐為のことは認めてることでしょう。
もちろんヒカルもね。京田さんはもう10年もヒカルの弟子ですからね。あまりにいい男過ぎて、むしろ彩には勿体ないのでは??と思ってるかと。

二人とも婿を認めてるけど!ただ結婚が早すぎて気持ちがついていかないのです。
これが30歳とかでの結婚だったら大歓迎ですよ!のし付けてくれてやりますよ!
でもまだ20歳とか21歳だからねぇ…。まだまだ娘は傍に置いておきたいパパの心境なのでした★