●CHILDREN●
「お母さんこれから定期検診?私も行ってもいい?」
「え?いいけど…」
妊娠四ヶ月。
珍しく今日は彩が病院について来ることになった。
「おなか大きい割には赤ちゃんちっちゃいね」
「双子だからね」
初めての産婦人科に興味津々……なのに、どこか上の空。
最近の彩は少し変だ。
―――そう
あの院生研修の日から―――
「………お母さんは、お父さんに負けた時…悔しかった…?」
「うん、悔しかった。信じられなかったよ…まさか同い年の子に指導碁されるなんてね」
「ずっと頭から離れなかった?」
「離れないの?」
「……うん」
彩は院生研修で中三の子に負けたらしい。
5歳も年上だから仕方ない…なんて慰めはこの子には通用しない。
悔しくて情けなくて辛くて…もうそのことしか考えられなくなって。
痛いほど僕はその気持ちが分かる。
ヒカルと初めて出会った時の気持ちと同じだから…。
「もう一度その子と打ってみるといい」
「もう一度…?」
「うん。僕はそうした。ヒカルに…進藤に、何度も対局を申し込んだ。僕自身が前に進む為にね」
「……」
「逃げちゃ駄目だよ。恐い相手ほど立ち向かっていかないと、強くはなれない」
「…うん。打ってみる」
「彩ならきっと今の壁を乗り越えられるよ」
「うん…うん!ありがとう!お母さん」
少し明るくなった娘は、先に帰るね!とダッシュで家に戻っていった。
くすっと、つい笑ってしまった。
顔も性格もヒカル似なくせに、碁に関しては僕にそっくりだな。
佐為も彩も僕もヒカルも…碁ばっかりだ。
お腹にいるこの子達もそうなってしまうのかな?
「順調順調♪」
寝る前――二人きりの時間になると、ヒカルが嬉しそうに僕のお腹を撫でてきた。
「早く産まれてこないかな〜♪」
「あと半年は先だよ」
「んー、あと半年もあるのにもうこのデカさかぁ。臨月なんかオマエ動けないんじゃねぇ?」
「うん…早めに産休入るかも」
「だよなぁ」
今回は出産の前後合わせて半年は休む羽目になるかもしれない。
はぁ……憂鬱。
「…ごめんな。でもこれで最後だから頑張ってくれよ」
「うん…分かってる」
ヒカルにぎゅっと…前から優しく抱きしめられた。
もう12年以上同じことをされてるのに、今だに胸が熱くなるのはどうしてだろう…。
「アキラ……好きだ」
「ヒカル…」
もう12年以上同じことを言われてるのに、今だに胸がときめくのはなぜだろう…。
答えは簡単。
今でもヒカルが好きだからだ。
ずっと愛してるから。
「…佐為と彩、いずれは強敵になりそうだな」
「そうだね。僕らの子だから」
「じゃあお腹の子達もそうなるのかな?」
「僕らの子だからね」
「…なんか自分達でライバル作ってるみたいだな」
「そうだね」
公式戦で僕はお父さんに勝ったことがない。
戦ったこともない。
でも僕らはいずれ自分の子供達と戦うことになるだろう。
その時が楽しみだ―――
―END―
以上、たまには母親らしく娘にアドバイスしてあげるアキラさんの話でした〜。
いつもは碁ばっかりだからね…たまにはね。
でも娘も息子も旦那も碁ばっかりなんだよな…この家族(笑)
いつか子供達とタイトル戦で戦うヒカアキも書きたいな〜(笑)