●CHEST●


自惚れと言われるかもしれないけど、見た目だけなら僕はモデル並みだと思う。

身長だって170cm近いし、体重だって40キロ台だ。

ウエストだって50ちょっとしかないし、手足も長い。

顔だってスッピンでその辺の女の子には余裕で勝てる自信がある。

この容姿のせいで中学校の時はよく羨しがられ、僻まれた程だ。


……だけど

この容姿には一つだけ欠点があるんだ――





「んー…こんな感じかな」


僕は彼に会う前、鏡の前で必ず身だしなみチェックをする。

たとえ今日のような部屋にこもりきりの囲碁デートでも、それは欠かさない。

いや、部屋にこもりきりだからこそ大事なんだ。

だって……二人きりだとそういう展開になる可能性は大だろう?


そして僕はイメージトレーニングも欠かさない。

この服でこう抱き締められるだろ?

この辺りにキスされて…そのまま脱がされて…こう、胸を触られるかも―。


「………」


僕のイメージトレーニングはいつもここまでだ。

だって……その欠点が気になって仕方がないから―。


――そう

『胸』だ。


僕は胸がないんだ!!



「はぁー…」

落ち込む…。

胸がないのはまさしくモデル体型そのもの。

こんな体型よりかは、少しぽっちゃりでもいいから…もっと膨らんでてほしい―。


彼の家に向かう途中も、すれ違う女性の胸ばかり見てしまう。

皆大きくていいなぁ…。

どうしたらそんなに大きくなるんですか?って聞きたくなるほど豊満な子もたまにいる。

僕だって努力してるのに…。

揉んだり…揉んだり揉んだり。

それしか思い浮かばないけど…。

他にいい方法はないんだろうか――







「塔矢、待ってたぜ」

「おじゃまします…」

彼の家に着くと、笑顔で出迎えてくれた。

玄関で軽く頬にキスをされて、上がるよう促される―。

僕の彼――進藤と付き合いだしてもう2年。

もちろん今まで数えきれないぐらい体は合わせた。

胸だって触られた。

揉まれた。

弄られた。

…でも、その度に申し訳なくなる…。


「小ぶりなのも可愛いと思うぜ」


と彼は口では言うけれど、僕は知ってるんだそっ!

キミが道ですれ違う巨乳に目を奪われてることを!

キミ達男はあの豊満なバストに触れてみたいんだろ?!

顔を埋めてみたいんだろ?!

挟んで欲しいんだろ?!

どうせAしかない僕じゃの胸じゃ無理だよっ!!



「塔矢♪」


一局打ち終わった後、進藤が抱き付いてきた―。

何度もキスをして、体を次第にベッドへ押しつける―。

服を脱がされ、そのコンプレックスの場所に触れてきたところで――僕は彼の体を押した―。


「…塔矢?」

「胸には触るな…!」

「…何で?」

「だって………小さいし」

小声でそう呟くと、進藤がクスッと笑った。


「んじゃもっと触らせてもらわねぇとな。揉みまくって大きくしてやるよ」

「…無理だよ。僕だってしてるもん…。だけど全然変わらないし…」

「ふーん…でもオレは別に小さくても構わねぇけど?」


…嘘つき。

嘘つき嘘つき嘘つき。

そんなわけあるか!


「そんなに睨むなよ…。嘘なんかついてねーし」

「巨乳が嫌いな男なんか聞いたことないよっ」

「まぁ…そりゃ好きだけどさー。すげェ気持ちよさそうだし?」


ほらみろっ!

キミだってしょせん大きい方がいいんだ!


「…でもさ、オレは貧乳も好きだぜ?手にすっぽり入る感じが堪んねーし」


え…?


「…キミって変わってる?」

「えー、んなことねぇよ。世の中の男が皆巨乳好きだと思うなよ?小ぶりの方が好きって奴もいるんだぜ」

「……」

「ま、オレはとにかくオマエの胸なら大きかろうが小さかろうがどっちでもいいんだよ」

「…本当に?」

「うん。大きさより持ち主の方が大事だからな♪」

そう言って、進藤はまた胸を触り出した―。

「…ま、子供が産まれたら嫌でも胸は大きくなるし、巨乳のオマエはそん時にでも堪能させてもらうぜ」

「……」

サラッととんでもないことを言われて、思わず顔が真っ赤になってしまった―。


子供って…。

進藤…、今のって一歩間違えるとプロポーズだぞ?


「今から作っちゃう?」

「ふざけるな…。最低でもあと3年は嫌だ」

「ちぇっ」


今のも一歩間違えればそのプロポーズを受けたことになる。


でも……そうだね。


キミとなら、そうなるのもいいかもしれない――












―END―












以上、胸話でした〜。
私はかつて巨乳アキラの話は読んだことも見たこともないんですが……やっぱりアキラと言えば貧乳だよね!(笑)
そして小さくてもいいというヒカル君。
いいカップルじゃないですか〜。お似合いお似合い。
にしても鏡の前で身だしなみチェックをするアキラ君。
珍しく女の子してます。
これぐらい気にしてくれたら明子ママも一安心ですね。
そしてイメージトレーニングという名の妄想をするアキラ君。
…相変わらず暴走気味です。
でもアキラはそれぐらいの方が可愛いと思いマス!(力説)


にしても久々に明るめ(?)の話が書けてよかったですー(笑)