●My BROTHER, My SISTER 〜番外編〜








「え?塔矢先生、帰ってくるんだ?」

「うん…、向こうで小さな発作を続けて起こしたみたいで…、やっぱり向こうは空気が悪いから…、医者に帰国を勧められたらしいんだ…」



オレとアキラがゴールインしてから早もう三年。

今日仕事から戻ると、アキラが不穏そうな顔で「話がある」と言ってきた。

何事?と心配したが、どうやら実の父である塔矢先生のことらしい。

また例の心臓の発作が起きたらしく、今度北京から正式に帰国することになったんだ。


「お父さんも今年でもう60だから…」

「やっぱオマエも心配だよな…」

「うん……独り身だしね」

「……」


帰国後は塔矢邸で静養するらしい。

あんな広い家にこれから一人。

家政婦や業者に家の管理は任せられる…けど。


「お母さんがたまにだったら様子見に行ってもいいって言ってはくれてるんだけど……ちょっとそれはおかしな話だし」

「…だよな。別れた妻が(しかも再婚してるのに)世話するのって変だよな。いくら今でも仲はいいとはいえ…」

「うん…だから……」

「うん。言わなくても分かってるよ。オマエ、先生の一人娘だもんな。いくら同じ都内とはいえ、やっぱ心配だよな」

「……」

「オレは別にいいぜ?先生と打ち放題ってことだろ?むしろ大歓迎!」

「本当にいいの…?」

「うん。オマエもやっと身軽になったし、引っ越しするいい機会じゃん♪」



実は長男の洋也に続いて、アキラは先月次男も無事出産。

今までオレの実家で父さんや明子さん、妹と一緒に住んでたわけだけど、さすがに手狭になってきたところだし調度いいかも。

広い塔矢邸に移って、先生の体調もみながら子育てするのもアリかもしれない。


というか、そうしよう。

決定!






早速オレは父さんと明子さんに話しに行った。

もちろん、反対なんかされなかった。

ただ、妹のココロだけは、兄弟同然に育った洋也と離れたくなかったみたいで、「イヤ!」と引っ越し当日までずっとダダをこねていた。


「ヒロとずっといるーっ」

「ココちゃん、またすぐに会えるから。ね?」


明子さんの説得もむなしく、イヤイヤと頭を振ってくる。


「ヒロといっしょがいいもん!ココ、ヒロのおよめさんになるんだもん!」





え??!




と妹の台詞に、大人全員が顔を見合わせた。


えーとえーとえーと?

それって…大丈夫なのか?


ココロは父さんの娘なんだから、腹違いとはいえ、一応オレらの妹だろ?

でもって洋也はオレらの息子だろ?

てことは一応…伯母と甥の関係になるんだよな?

つまり、それ(結婚)は無理ってことで。



「じゃ、父さん、明子さん。またね」

「ああ」

「ええ。行洋さんによろしくね」


オレら家族は二人を引き離すように、そそくさと急いで塔矢邸に向かった。


ふぅ、やばいやばい。

伯母と甥の禁断愛も、絶対に阻止だぜ!













「やぁ、アキラ。ヒカル君。これからよろしく頼むね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


塔矢邸に着くと、先生は玄関の前で待っていてくれた。

「おじいちゃん」

と抱き着いてくる洋也に、先生も嬉しそうだ。


ちなみに塔矢邸はこの度新しくリフォームをしてみた。

オレやアキラの車用の駐車場も必要だったし、台所も使いやすいコの字型のシステムキッチンに。

オレらの部屋も子供達の部屋も全部洋室に変えた。

和室だらけだったこの家のあまりの様変わりに、アキラは先生に「すみません、やり過ぎました」と謝っていた。


「いいんだよ。北京にいた時も洋室ばかりだったからね。それどころか家の中で靴を履いて生活をしていたくらいだから問題ないよ」

「ありがとうございます」

「それより、本当に同居でよかったのかね?」

「もちろんです」



―――僕はお父さんの娘ですから―――



それは結婚式の時と同じ言葉。

更にアキラは続けた。


「僕にも親孝行をさせて下さい。…お父さんが元気なうちに…」

「アキラ…ずいぶん心配をかけてしまったようだね。すまなかった…」

「…お父さんがまた発作が起きたって聞いた時…、僕は近くにいてあげれなくて…すごく悔しかったんです。嫌でした。側にいてほしいんです…これからは、ずっと」

「…ありがとう」


アキラは自分のいない所で家族を亡くすのをすごく恐れていた。

気持ちは分かる。

自分の親くらい…やっぱ看取ってやりたいよな。

オレだって同じ気持ちだ。



「先生、子供達に囲碁を教えてあげて下さいね」

「そういえば洋也君はもうすぐ3才だったな。アキラが同じくらいの時はもう碁石に触っていた」

「洋也、おじいちゃんが今日から囲碁を教えてくれるってさ♪」

「いご?」

「うん、囲碁。お前は塔矢家の血をひいてるんだぞ〜。きっと誰よりも強くなれるぜ!」




これがオレの新しい家族形態。

先生と、オレと、アキラと、子供達二人。

これから生活が楽しみだ♪









―END―









以上、三年後のヒカアキでした〜。
いつの間にか二児の親になってるみたいですね(笑)
でもってあと一人くらい産みそうだなぁ…アキラさん。
というか女の子が産まれるまで(笑)

本編のままだと行洋パパの行く末が少し不安になったので、自分がスッキリする為にこの話を書いてみました。
ヒカルは普通に舅と仲良くやってそうだし、子供達もいるし、きっと明るくて楽しい家庭になりますね♪