●BOB●





いつだったかな。

塔矢の髪に触った時があった。

いや、触ったというか、アイツの髪に糸屑が付いてたんで、取ってやろうと思っただけなんだけど。

だけど「触るな!」とめちゃくちゃ拒否られた。

一気にオレから離れて、警戒してきた。


な、なんだよ!

人が親切で取ってやろうとしたのに!

この潔癖症!

そんなんだから友達の一人も出来ないんだよ!


…と、当時のオレはただキレていた。

まだ若かりし、14歳ぐらいの時のことだ。





それから数年後のオレらが17歳の時。

3回目の北斗杯に向けて、例年通り塔矢ん家で合宿してた時に。

オレはなぜアイツがあんなに髪に触るのを拒否したのか、初めて知ることとなった。


わざとじゃない。

決してわざとじゃない!


夜、風呂に入ろうと思って浴室の扉を開けたら……塔矢がいたんだ。


「あ、わりぃ」

と、もちろんすぐに閉めようとした。

でも、オレは視界入ってきたモノに、体が固まって動けなくなってしまったんだ。

まず、アイツは手に髪の毛の束を持っていた。



……ヅラ?



そして当の本人の髪は、風呂に入る為か、後ろで一つに束ねてアップにしていた。

明らかに、いつものオカッパの長さでは出来る髪型ではない。

塔矢の髪は本当は長かったのだ。

ヅラで隠していたのだ。




―――何の為に?




という疑問は抱くまでもなかった。

オレに見られて咄嗟にバスタオルで体を隠していたが、17歳の体型は男も女も既に大人の体型だ。

タオル一枚で性別を欺けるものではない。


なだらかな肩。

しっかりと出たバスト。

引き締まったウエスト。

形のいいヒップ。


どこからどう見ても、女だった。




「うわあああぁっ!!!」




当然叫んだオレ。


「何や何や、ゴキブリでも出たんか?!」

と社がすっ飛んできたので、慌ててオレは浴室の扉を閉めた。


「も、大丈夫。外に逃がしたから。はは…」


社が客室に戻ったのを確認してから、オレは扉越しに塔矢に尋ねた。



「オ、オマエ…女だったのか?」

「…すまない…黙っていて…」

「その髪、ヅラだったんだな。通りで年中長さが変わらないはずだぜ…」

「…すまない…本当に…」

「べ、別に謝るなよ。オレ、オマエが女だろうが男だろうが、別にどっちでも構わないし。ライバルには変わりねーしっ」

「……ありがとう…」


嘘をついた。


変わらないわけがない。

意識しないわけがない。







ちなみにその半年後。

18歳になった時に、塔矢は世間に自分の本当の性別を打ち明けた。

もともとその予定だったらしい。

生まれた時体の弱かった女の子は、18まで男として育てれば……という塔矢家の古い言い伝えに沿ったのだとか。






ちなみにそれから更に2年後の今。

オレの目の前には、ウェディングドレスを身に纏った輝くばかりのコイツがいた。


男だろうが女だろうがライバルには変わりない、というあの言葉に感銘を受け、彼女は救われたのだとか。

告られた時は正直驚いたが、オレが断るはずがなかった。

だって、あの浴室でちょっとだけ見た彼女の裸が、ずっと忘れられなかったから。

不純って?

ふん、男って所詮そんなもんだろ。





世間に女を打ち明けた瞬間から、ヅラを脱いだ塔矢。

でもオレらの新居の、クローゼットの中のダンボールの奥そこに、今も記念として残してある。









―END―










以上、オカッパの追究話でした〜。
以前ヒカルの髪の色を追究しましたので、今回はアキラさんのオカッパです。
やはり、ヅラだと思うんですよ…!!(笑)
下には本当のアキラさんの髪が隠されてるはず…!
なんて、ね。