●BIGAMY 4●
「『今日から5日まで食事は入りません』…か。塔矢さんまた出張かなぁ?」
「ああ…。明日から札幌のイベント手伝いに行くらしい」
「ふーん…札幌かぁ。いいなぁ」
ヒカルと久しぶりの逢瀬を堪能した翌朝、9時頃に起きてくると既に塔矢さんの姿はなかった。
ヒカルは夕飯前のエッチの後、廊下で彼女と会ったことを気にしてるみたいだった。
塔矢さんより私のことを好きだと言ったあの台詞を、聞かれたんじゃないかって焦っているのは丸分かりだ。
伊達に物心つく前からの付き合いじゃない。
「私もどこか行きたいなぁ。せっかくのGWなのに」
「無理だって。オレだって都内のイベントに駆り出されまくりだもん」
「…そうだよね、残念」
と物分かりのいい妻のフリをした。
機嫌そこねていちゃいちゃ出来なくなったら困るし。
せっかく塔矢さんがいないのに!
…でも不満は積もる一方だ。
対局やらイベントやらセミナーやらで、月に何回も遠出してるヒカルや塔矢さんと違って、私はずっと家とスーパーの往復。
たまに学生時代の友達とランチをするのが唯一の楽しみだった。
―――なのに
昨日中学の時の友達に会って、酷く傷付いた。
『結婚することになったの』
『出来ちゃったんだ』
『あかりより先にお母さんになっちゃうね』
『あかりは作らないの?』
『もう結婚して3年だよね?』
『不妊なんじゃないの?』
『それとも…進藤君としてないの?』
『だって雑誌で見たよ。重婚されちゃったんでしょ?』
『それって浮気されてたってことでしょ?』
……ヒカルは浮気なんてしてないよ。
少なくとも、体…では。
ヒカルが塔矢さんのことを気にしてたことなんて、中1の時から知ってたことだ。
だって、ヒカルがプロの囲碁棋士になったのは塔矢さんの影響だもの。
いつもいつも塔矢塔矢塔矢って、馬鹿の一つ覚えみたいに。
あんなにも惹かれあってるんだもん、いつか二人が付き合っちゃうんじゃないかって…とにかく怖かった。
だから高校1年の時、まだ二人が自分達の気持ちに気付く前に、先手を打ったの。
ヒカルに好きだって告白した。
その頃はちょうどヒカルも異性に興味が出てきた時期だったから、半ば強引にOK貰って。
あとは体使って必死に繋ぎ止めた。
ヒカルがスランプになった時も必死になって慰めて、とにかくいい彼女のフリをした。
トドメはあれだ…大学4年の時の就活。
本当はいくつか内定貰ってたのに、ヒカルには嘘をついた。
『どうしよう…どうしよう。このままじゃ就職浪人かフリーターだよぉ…』
フリで涙まで流した。
優しいヒカルはあっさりと騙されて、ついに待ちに待った台詞を言ってくれた。
『就職なんてしなくていいじゃん。オレの嫁さんになれば?』
勝った――と思った。
でもいざ結婚して、新婚旅行から帰ってきて、これから甘い新婚生活が始まるんだぁ♪って時に――あのふざけた法案が国会で可決されてしまったんだ。
何が少子化対策よ、冗談じゃない。
せっかく、せっかく、やっと、やっと、ヒカルが私のものになったと思ったのに――
それからはもう…ヒカルが『その日』を待ち侘びてそわそわしてるのがよく分かった。
施行される日――塔矢さんと結婚出来る日を――
『進藤君としてないの?』
失礼ね――してるわよ。
月に…数回だけど。
排卵日以外は皆無に等しいけど。
塔矢さんと寝る日は絶対にエッチするくせに。
しかも、私とじゃありえないぐらいの回数を――オールでしちゃってる時だってあるってことを、私は知ってる。
私はヒカルにそんなに求められたことがない。
――塔矢さんより好き?――
昨夜の酷い質問。
気配で塔矢さんがドアの向こうにいるって分かったから、わざと聞いてやった問い。
優しいヒカルは
『当たり前じゃん。お前の方が正妻だぜ?』
って答えてくれた。
そうだよね、私が正妻、第一夫人。
時代劇だったら私が正室、塔矢さんは側室。
分かった?塔矢さん。
私の方が立場は上なんだよ?
だから絶対に別居はしないから。
あなたに家事はさせない、妻らしいことは何一つさせないから。
ヒカルの子供だって、絶対に私の方が先に産んでやるんだから――
「ね、ヒカル…」
「んー?」
今夜は排卵日。
いつも以上に気合いが入った。
ヒカルの方もいつもよりその気だったみたい?
終わった後、甘えるようにお願いしてみた。
「ヒカルは子供…ほしい?」
「ほしいよ。当たり前だろ。だからこうして排卵日に付き合ってやってるんじゃん」
「…塔矢さんとも子作りしてるの?」
ヒカルがクスッと笑ってきた。
「…心配しなくても、あかりの方が先だよ。お前に出来るまで、アキラとは作らないから」
ふぅん…よく分かってるじゃない。
ヒカルにしては上出来。
「ありがとう」
と私はお礼のキスをした―――
CONTINUE!