●BARGAIN 3●
「進藤先生、塔矢先生、お疲れ様でした。明日はよろしくお願いいたします」
「「お疲れ様でした」」
前夜祭が終わり、僕と進藤はようやく雑務から解放された。
会場を後にして、二人一緒に無言でエレベーターに乗り込む。
用意された部屋は僕が11階で進藤が15階。
だけど僕らは早く着く11階で一緒に飛び降りた。
速足で部屋に向かい、急いで鍵を解き、ドアが閉まりきったかどうかも分からない内から――唇を合わせていた――
「んん…っ、ん…――」
懐かしい感触。
でも新鮮でもある。
18年ぶりにするキスは当時を思い出しもしたが、でも同時に全く違うもののような気もした。
「――は…ぁ…、…進…藤…」
「塔矢、オレもう限界…」
もう我慢の限界。
早くオマエを抱きたい――とストレートな言葉を耳打ちされる。
「――ぁ…っ」
シャツのボタンを一つ一つ脱がすのがじれったいかのように、露になった部分から吸い付いてくる。
痕を付けられることなんて、15歳の時はなかった。
胸の揉み方も、乳首の弄り方、舐め方、吸い方も、僕の記憶と全部違う。
「ぁ…っ、進…ど…」
「塔矢……」
彼の指が下半身にも触れてくる。
最初は下着越しに、続いて直に触られて、弄られて、くちゅくちゅとイヤらしい音が部屋に響く。
――恥ずかしい――
照明がまともに点いていることもだが、あっという間に素っ裸にされて、彼も裸になって。
この寒い2月にシーツも被らずベッドの上でお互いの肌の温度だけで暖をとる。
こんな恥ずかしいことを進藤とまたする日が来るなんて、来てくれるなんて、昨日まで思ってもなかった。
「塔矢…挿れるな…?」
「うん……」
ゆっくり彼が僕の中に入ってくる。
初めは遠慮気味に、ある程度まできたら一気に。
徐々にスピードをあげて進藤が動き出す。
久しぶりすぎるこの行為だけれど、やはり初めてではないから痛みはなく、最初から快感が襲ってくる。
「ぁ…っ、んっ、ぁ…ん…っ」
「塔矢、オマエ、何かめっちゃエロい…」
「も…そういうこと、言わないで…、ぁん…っ、キミ…の、せいなのに…っ」
「オレ、ちょっとは上手くなった…?」
進藤のスピードが更に早くなる。
ギシギシとベッドが軋む音がイヤらしい。
恥ずかしくてたまらないのに、止めてほしくない。
もっと、もっとキミと繋がっていたい。
身も心ももっと一つになりたい。
「も…無理かも。ごめん、塔…矢…っ」
「う…ん、僕…もーー」
「――は…っ」
「あ…ぁ…っ」
僕の中にドクドクと何かが注がれるのが分かった。
初めての感覚。
もちろん嫌な気はしない。
むしろ嬉しい。
「ごめん…」
と彼は力尽きて僕に抱きついて謝ってきた。
「…オレ、生まれて初めて中で出した…かも」
「ふぅん…またキミの初めてを貰っちゃったね」
クスリと笑うと進藤も「そうだな」と笑ってきた。
「初めて同士だったもんなぁ…」と。
「どこでしたか覚えてる?」
「もちろん。オレの実家の部屋。母さんが買い物に出かけた隙に、しちゃったんだよな〜」
「まだ裸だったのにおばさま帰ってきて、大慌てで着替えたよね」
懐かしい、今となっては僕らの大事な思い出だ。
「次からは時短でほぼ服を脱がずにしてたんだよな〜」
「そうそう、僕はわざわざスカートを穿いてきてね」
触るのも服の上から。
挿れる時だけ進藤は取り出して、僕は下着をずらしてソレを受け入れた。
「一年しか付き合ってないけど、結構シたよな?50回くらい?もっと?」
「キミが二人で会う度に求めてきたからね…」
お互いの家はもちろん、お客さんが帰った閉店後の囲碁サロンでもした記憶がある。
実は棋院の倉庫でもしたことは、絶対に誰にも内緒だ。
「あんなに喧嘩してたのに不思議だよなぁ…」
「でも夫婦喧嘩の仲直りはセックスが一番って誰かが言ってたよ。それと同じじゃないか?」
言ってたのは緒方さんだったか、門脇さんだったか。
「なるほど、一理あるな」
上に乗っていた進藤が僕の横に移動した。
ズルリと彼のものが抜けると、詮が無くなったかのように中のものが垂れてくるのが分かった。
「ごめんな、気持ち悪い?」
東京戻ったらすぐに籍入れような、と甘い声で囁かれる。
「ごめんな、苗字も変わっちまうけど」
「別に構わない。『塔矢アキラ』って言う名前にも飽きてきたところだったし。それに…」
それに進藤アキラになれるなんて夢みたいだ――
「絶対幸せにするからな…」
「もう十分幸せだよ…」
「塔矢…」
オレもめちゃくちゃ幸せ、と彼は僕にもう一度キスしてきた――
翌日からの第4戦は結局進藤が勝って、進藤は防衛に王手をかけた。
東京に戻ってすぐ僕らはお互いの家を訪れ、両親に結婚を報告した。
僕の母は泣いていた。
20半ばの頃から僕は母の進めるお見合いを尽く断っていたからだ。
僕だって別に独身主義じゃない。
結婚したかった。
進藤が結婚したらようやく彼に諦めがつく――そうしたら僕も結婚しようとずっと考えていたのだ。
でも彼は30を超えても一向に結婚しなかった。
まさか彼も僕と同じ考えだったとは思わなかった。
「おめでとうございます」
その後僕らは区役所に婚姻届を提出し、無事受理された。
ピロン〜♪
役所を出たところで、僕も進藤も携帯が鳴った。
「あ…芦原さんからLINEだ」
開けてビックリ。
『アキラ結婚おめでとう〜!!』
と書いてあったからだ。
母が連絡したんだろうか…。
「げ…ヤバ」
「どうした?」
「和谷からLINE。オレらのことがYahoo!ニュースのトップに出てるって」
「ええっ?!」
慌てて検索すると、
《囲碁 進藤棋聖と塔矢名人結婚へ》
と確かに速報マーク付きで書かれていた。
「まだ棋院にも言ってないのに何で…っ」
ニュースのタイトルを開いて詳細を見る。
真相はこうだ。
あの日僕らの乗ったタクシーの運転手は僕らのプロポーズの会話を全て聞いていた。
(もちろんキスシーンもバッチリ見られていた)
営業所に帰った彼は囲碁好きの同僚にうっかりそのことを話してしまった。
その同僚がマスコミ関係の友人に話してしまった。
その友人が日本棋院に問い合わせた。
当然まだ何も聞かされていない棋院は塔矢家に確認の電話をした。
母はもちろん肯定する。
『ええ、実はそうですの。今二人で婚姻届を出しに行ったところです』と――
「あー…やべぇ。おめでとうメールとLINEが止まらねぇ…」
電話も鳴り出した。
「どうする?進藤。今から棋院言ってちゃんと報告する?」
「んー…、いや、いいよまた明日で」
進藤は携帯の電源を落とした。
「それより、今夜は初夜だし。奥様と家でいちゃいちゃしたい気分♪」
今日からオレのマンションで暮らしてくれよな!と手を握って引っ張って車まで走り出した。
僕も迷わず彼についていく。
これからはずっと彼についていくことだろう。
「第5戦は夫婦として戦えるな!塔矢」
「負けないから」
「うん、オレも♪」
――これからは夫婦で高めあっていこう――
―END―
以上、お互いがお互いの結婚を待ってる駆け引き話でした〜。
本田さんの結婚式には夫婦で出席することになることでしょう。
ヒカアキはこれから準備かな。
でも大きな式になりそうだから準備に時間かかりそうだし、その前にアキラさん身籠るでしょうね(笑)
1年足らずで別れたのに50回もしてる二人ですからね(爆)
だって15歳ですよ?きっと最初は手を繋ぐとこからスタートしますよ。
キスにたどり着くまでにどれくらいかかるか。更に次のステップに進んだ頃には数ヶ月経ってることでしょう。それなのに50回って〜。
(いや、うちのヒカアキだから付き合ってすぐにヤっちゃうか?笑)
でもあのまま二人が続いてたらアキラさんまた10代で出産コースだろうし、棋士としては一度別れて正解だったのかもしれません。
ちなみにヒカル君、元カノと5年ずつ付き合いましたが、きっと回数はアキラとの1年の方が多いことでしょう(笑)
タイトル戦が始まったら忙しくて彼女とは会わないだろうし〜。うちのヒカル君はアキラ以外には結構淡白。彼女は好きだけど、LOVEじゃなくてLIKEなんですよね。
ちなみにアキラさん入段して20年ってことに、自分で書いてて驚愕してしまいました。20?!マジか!!って(笑)
でもアキラさんは結婚後も仕事上は塔矢アキラを名乗ってそうですけどね。
飛行機好きの私。
アキラさんたちの席はクラスJですよ〜。(ファーストでもなく普通席でもなく。これ私的にかなり重要 笑)