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「もし人生をやり直せるとしたら、どこまで戻って、どんなことをしたい?」


和谷の研究会に参加してた日、休憩になった時に誰かが言い出した。

それが偶然5月で…鯉のぼりの時期だったから。

オレはアイツと出会った時まで――いや、せめてあの日に戻りたいと思った。

佐為にありがとうって。

楽しかったって。

そして…さよなら…って言いたいと思った。




「進藤は?いつに戻りたい?」

「オレ?そうだなぁ…」

本心なんか言えるはずもなく、なんて答えようか迷っていたら……名前も思い出せないような奴が勝手に言い出した。

「塔矢と付き合う前に戻ったら?進藤って結局塔矢しか女知らないんだろ?戻って適当に遊んじゃえば?」

「はは…それもいいかもな」

タイトル戦を控えてなきゃ殴ってやろうかと思った。

今傷害事件はまずい。


ふざけんじゃねーよ。

アキラを手に入れるのにオレがどんだけ苦労したと思ってるんだ。

両立なんて無理だ、ライバル以上の関係にはなれないってずっと拒否ってきたアキラを、どんだけの時間と労力を使って口説き落としたと思ってやがるんだ。



大人の対応ってやつで、その時は軽く流したつもりだった。

けど数日後……仕事から帰ってきた彼女に

「ご希望通り遊んでくればいい。別れてあげるから」

と言われてしまった。

一瞬なんのことだか分からなかった。


「和谷君の研究会で言ってたらしいじゃないか。僕と付き合う前に戻って、他の女性と遊びたいって」

サーッと一気に血が下がった気がした。


「あ、あれはオレが言ったんじゃなくて…っ」

「でも否定しなかったんだろう?同じことじゃないか」

「違うって!あれは軽く流したつもりだったんだよ!遊びたいなんて一度も思ったことない!」

「どうだか。結婚してもキミの周りにはウヨウヨ女性が寄ってくるじゃないか。それってキミに隙があるからじゃないのか?人生の伴侶を選ぶのを早過ぎたと実は後悔してるんだろう?もっと色んな女性と付き合って吟味すればよかったと。ならお望み通り―――…ん」


アキラに口では勝てないのは重々承知。

オレは止まらない彼女の口をキスで塞いでやった。


「……ごめんって。否定しなかったのは謝る。でもオレは最初っからオマエだけだから」


本当にアキラしか見えてなかった。

アキラしかいらなかった。


確かに付き合い始めた時は17で、きっと人生で出会う女の3分の1にもまだ出会ってない頃だろう。

でもこの先何百人何千人と出会おうが、アキラ以上の女はいないと思う。

吟味なんて無意味だし、したいとも思わない。


「後悔なんてしたことない。オレはアキラさえ側にいてくれたら幸せだから」


アキラに捨てられたら死ぬしかない。

そう真剣に訴えると――やっと彼女は怒りを解いてくれた。


「なら…いい」

「……アキラは後悔してるのか?やっぱりライバルのままの方がよかった?」

「まさか。キミのいない生活なんて今更考えられないよ」

「じゃあ…さ、アキラはもし人生をやり直せるとしたらさ、どこまで戻って…どんなことをしたい?」

「ボク?そうだね…」


少し長考した後、彼女は『中学3年に戻りたい』と言った。


「今もかも知れないけど、あの頃は本当に囲碁のことしか考えてなかったからね。後悔はしてないけど…やっぱりたまに進学してればよかったと思う時があるから」


あの頃の自分に言ってやりたいと。

高校も、大学も、人生経験を積むのに行ってて損はないよ――と。


「その時にしか出来ないこともあるから…」

「オマエは別に勉強嫌いじゃないもんな…、しかも海王だし。でもオレはオマエの進学反対!」

「どうして?」

「だってオレらが結婚したのハタチだもん。もし学生だったら絶対卒業までお預けだっただろ?少なくとも二年は延期されるってことじゃん」

「大学で素敵な人に出会ってたかもしれないしね」

「うわ!それなら絶対反対!アキラひどい!」

「冗談だよ。僕の運命の人はキミだって気付いてたから。初めて出会ったあの時からね――」


うん、オレも気付いてた。

小学6年の時――初めてアキラと出会ったあの時から――








―END―







以上、もし戻れたら〜話でしたー。
ヒカルは絶対佐為を失ったあの日に戻りたいはず。

女アキラさんには出来れば高校ぐらいは卒業しててほしいな〜と思います。
一生碁を続けるつもりなら、それくらい寄り道してもいいはず。
女子高生のアキラさん…女子大生のアキラさん。萌えますvv