●ALTERNATION 3●





「負けました」



夕方5時過ぎ――京田さんが投了した。

両者とも主催新聞社による取材を受けた後、すぐに感想戦が始まった。

その映像ももちろんモニターに映し出されていた。



(いい雰囲気……)



見ていた誰もがそう思ったことだろう。

さすが兄弟弟子とだけあって、タイトル戦とは思えないほど和やかに感想戦が進んでいっていたのだ。

お兄ちゃんが珍しく素の笑顔を見せていたし。

京田さんも負けたのに笑っていた。

もちろん、内心はすごく悔しがってると思うけど……



「彩、私もう帰るけど。彩はどうする?」

「ん……もうちょっといる」

「そう?じゃあ、またね」

「うん」



精菜が帰った後、私も立ち上がった。

感想戦の後、お兄ちゃんはそのまま別室で行われる記者会見会場に移動し、京田さんは控え室に戻ったらしい。

その控え室を教えて貰って、私は即座にそこへ向かった。



コンコン


ノックして10秒後……ゆっくりとドアが開く。


「彩ちゃん……」

「京田さんお疲れ様……」

「案の定負けちゃったけどな」


苦笑いしてきたその瞳があまりに苦しそうで――私の腕は勝手に彼を抱き締めていた。


「……悔しい?」

「うん……すごくね。最後も頑張って追い上げたつもりだったけど、時間が足りなかったな。結局進藤君に上手く打ち回されてしまったみたいだ」


さすが進藤君だよなぁ…と、京田さんが呟く。


「次も頑張って。私、ずっと応援するから…、京田さんがいつかタイトルを取るまで。もちろん取ってからも……ずっと」

「取ること前提なんだ?」

「うん、前提」

「ふぅん…」


ホテルが会場の場合、当然控え室は客室の一室だ。

もちろんベッドもある。


「7時から打ち上げだからあんまり時間ないんだけど…」

と言いながらも、彼は私をそこに引っ張って行った。


「30分もあるなら余裕だよ…」

「ん……そうだな」


ベッドに体を倒される。

下から見上げた彼の表情は、やっぱりどこかいつもと違う。

落ち込んでるように見えた。


「京田さんはいつか絶対タイトル取れるよ…」

「……何かまだ第一局が終わっただけなのに、もしかして彩ちゃんの中ではもう奪取失敗したテイになってる?」

「そんなことないけど」

「…まぁ、実際問題そうなりそうだけど。今日改めて本気の進藤君と戦ってみて、ヨミの速さと深さに参ったし」

「…ふぅん」

「次も勝てる気がしないもんな…」

「……」

「でも、今はそうでも来年の俺は違うから。再来年の俺はもちろんもっとな」

「強くなっていってる実感があるんだ?」

「強くならなきゃ置いていかれるからな。研究会で先生と進藤君に付いていくのに毎回どれだけ必死なことか…」

「二人とも京田さんを認めてるから本気でぶつかってくるんだよ。手を緩めるとか絶対ないでしょ?」

「……ないなぁ。有り難すぎるな」

「スパルタだよね」

「本当に」


二人して笑ってしまった。

お喋りしながらも彼は休むことなく私にキスをし、体を触り続けていた。

そして私達は今日も一つになったのだった――











大阪で行われた第二局、長野で行われた第三局にも敗れた京田さん。

精菜の予言通り、結局初めてのタイトル戦を彼はストレート負けで終わってしまった。

でも、それはそれで一つの結果として受け止めて、彼の目は早くも次に向かっていた。


「京田さん、天元の準々決勝でまたお兄ちゃんとあたるね」

「うん。楽しみだよ」


直ぐに気持ちを切り替えて、楽しみだと言える彼はなんて強いのだろう。

私も頑張ろうって気にしてくれる。


「彩ちゃんも碁聖戦、次は予選Bの決勝だろ?」

「うん!A入り目指して頑張る!いつかまた京田さんと戦いたいから!」

「楽しみにしてるからな」

「うん!」




どの世界もいつか必ず訪れる世代交代。

私の時代はもちろんやって来ないけど。

でも、私も京田さんを見習って常に前を向いて一生頑張りたいと思う。

そして彼に一生寄り添いたいと思う――








―END―








以上、佐為vs京田さんの十段戦でした〜。
世代交代をテーマに書いてみました。
中1で囲碁を始めて、高1でプロになり、大3の年に挑戦者にまでなる京田さんの才能はやっぱりすごいな〜と思います。
これもヒカルと佐為に研究会でシゴかれてるお陰ですね(笑)
とりあえず進藤兄妹に好かれるすぎてる京田さんですw(もう逃げられないよ★)