●AKITO's ASPECT●
「美鈴ちゃんお願い。千明の泊まる旅館教えて」
そう言いながら、姉の親友の頬にキスをした父を見て…オレはムッとした。
それがオレが子供ながらに自分の気持ちを実感した瞬間だった。
オレも負けじと彼女の頬にキスをした―――
「あ。明人君、こんにちは〜」
「こんにちは、美鈴ちゃん」
あれから5年。
長期の休みに入る度に姉さんに会いにくる彼女を、オレは密かに心待ちにしていた。
でも、美鈴ちゃんは23歳。もう立派な大人。一人前の社会人。
オレもプロの囲碁の世界に身を置いてるから、一応社会には出てることになるのかもしれないけど……でも一歩囲碁から離れればただの中学生。
まだまだガキ。彼女には男として意識してもらえない存在だ。
「そういえば明人君、昇段したんだって?おめでとう!」
「…ありがとう」
オレに向けられた可愛い笑顔に…胸の鼓動が早まった。
ちなみに、オレの姉はこういうことには意外と鋭い。
「明人ってさ〜、美鈴のこと、好きなんでしょ?」
「……」
「残念だね。美鈴に彼氏がいて…」
だから?
美鈴ちゃんは姉さんと同じ24歳なんだから、彼氏ぐらいいて当然だろう。
いなくても、オレなんかどうせ恋愛の対象にならないんだろうけど。
つーか犯罪になるし。
でもその二年後、美鈴ちゃんが彼氏と別れたと姉さんから聞いた。オレが17歳、彼女が26歳の時だった。
でも、またすぐに新しい彼氏が出来たらしい。
26歳ってことは……今度はそろそろ結婚とか視野に入れてるのかも?
美鈴ちゃんは姉さんと違ってキャリアウーマンを目指すタイプじゃないし。
若いうちに結婚して、普通に主婦になりそう。
「……はぁ」
ちょっと絶望し始めたオレは、自分も年相応の女の子と付き合うことにした。
でもオレはあの父さんの息子だ。
やっぱり初恋の人が好きで好きで…忘れられなくて。
他の奴と付き合ったからって心変わりすることもなく。
代わりになる女の子も結局見つけられなくて……
決めた。
オレがハタチになって、もしその時まだ美鈴ちゃんが独身だったら――告白しよう。
例え彼氏がいても、後悔だけはしない為に――