●AKIRAKO●





僕の母―――塔矢明子は専業主婦だ。

専業主婦と言っても、夫は仕事で外国に行ったきり、子供も成人して一人暮らしをしてる息子だけ。

つまり、僕から言わせれば『暇』なんだろう。

最近ことあるごとに僕のマンションに来る。

進藤と付き合ってる僕は毎回冷や冷やで、半分同棲状態の彼のものを隠すのに必死だった。








ピンポーン


また来た!

僕はリビングや寝室などを最終チェックしてドアを開ける―――


「アキラさん、お元気?これ差し入れよ。お夕飯にでもしてね」

「ありがとう…」


食の細い僕が明らかに食べれそうにない量。

母は進藤の分まで作ったに違いない。


「今日は進藤さんいらっしゃらないの?」

「え?あ…うん。今日は森下先生の研究会の日だからね。終わったらここにも打ちにくると思うけど…」

「そう」


にっこりと微笑んできた。


「アキラさん…髪伸びたわね」

「あ…すみません。切りに行こうとは思ってるんだけどなかなか…」

「進藤さんは長い髪の方が好みなのかしら」

「はい?」

「そうよね、アキラさんの髪って綺麗だから勿体ないわ」

「??」

「あら、大変。約束に遅れちゃう。じゃあまたね」

「あ……うん」


意味不明な発言をして今日は早々と帰ってしまった。


進藤が長髪好き?

そう言われれば彼はよく僕の髪にキスしてくるな。

「いい匂い〜」

とか言って犬みたいに嗅いでくる。


それにしても約束って……意外と暇じゃないのかな?

それならよかった。

習い事でも婦人会でも単なる友人とのお喋りでも、ここにいる時間が短くなるなら大歓迎だ。











「塔矢!オレ大変なもの見ちゃった!」


研究会から息を切らして帰ってきた進藤は、尋常じゃない様子で僕の肩を掴んだ。


「どうしたんだ?何を見たの?」

「あああ…明子さん…が」

「母が?」

「おおお…男と、お茶してた…」


………え?


「浮気かなぁ?きっと先生が放っときすぎたんだよ!どーしよ塔矢!」

「ま…間違いだよ。見間違いだ」

「でも確かに明子さんだった!まだいるかも!嘘だと思うならオマエもその目で見ろよ!」

「………」


進藤に引っ張られて駅前のカフェに連れてこられてしまった。



「「え?!」」



そこで見えたものに思わず同時に声を出してしまった。

確かに母だ。

見覚えのない若い男と一緒にいる。

が、その横にもう一人…………奈瀬さん。

考えてる間もなく進藤が勝手にその三人に割って入っていってしまった。



「おい!奈瀬!」

「え?やだ、生進藤??」

「生ってなんだよ、生って」


後ろの僕の存在にも気付いた彼女は、母と目を合わせて笑っていた。


「あ…じゃあそういうことでお願いします。締切は6月の末で」


締切??


その若い男はそそくさと帰ってしまった。


「お母さん…」

「やだわ…ほほ。見つかっちゃったわね」

「今の人…誰ですか?」


奈瀬さんと目を合わせた母は観念したらしく

「出版社の編集」

と教えてくれた。


「本でも出すんですか?」

「本を出すのはあなた達のファンよ。私や奈瀬さんは助言係」

「………は?」



知らされる事実。

僕と進藤は二人から詳しい話を聞いて、しばらく固まってしまった―――












「ありえねー!どうりで最近オレ宛のプレゼントでペアになってるのが多いと思った!」


どうやら僕と進藤は二次元の世界で俗にいう腐女子達のターゲットにされてるらしい。

ジャンルは芸能?

ネットで検索してみるとかなりの数がヒットして驚いた。


「げ…なにこれ。アキヒカの方が多いじゃん!分かってねぇなぁ」

「まぁキミは女の子みたいに可愛かったからね、昔は」

「お。その女の子バージョンもあるぜ!アキヒカ子にヒカアキラ子…か」


ゴク…と彼が唾を飲みこんだのが聞こえた。


「キミ…今想像しただろ」

「えー?だってアキラ子だぜ?!オマエが女だったらオレ絶対嫁にする!」

「僕が女だったら絶対10代でできちゃった婚になってるな」

「やべ…。できちゃった、とかオマエに言われたらオレ昇天しそう」

「馬鹿馬鹿しい。僕は男だ!」


クスッと小さく笑った進藤が、僕を後ろから抱きしめてきた――


「怒った?」

「…別に」

「心配しなくても今のままオマエが好きだからな」

「……そんなこと言って、キミは元々女の子の方が好きじゃないか」

「そりゃそうだよ〜男はオマエ限定だもん。でも、どの女よりオマエが好き」

「………」


昔―――悔やんだことがあった。

もし僕が女だったら、進藤と何の隔てもなしに一緒になれただろう…って。

今日みたいに母が来るのを恐れることもない。

両親に堂々と紹介出来て、結婚して、子供を産んで、一緒に育てて………めでたしめでたしの世界。

でも、実際僕は男で彼も男で…。

それでも僕らの愛は代わらないし、周りのどの女の子より僕を選んでくれたことは嬉しい。

回された手に愛おしく重ねてみた。


「好きだよ…塔矢。一生一緒にいような」

「うん――」


交わす唇。

今日また一段と僕らの愛は深まった気がした―――












―END―












以上、アキラ子になりたいアキラさん話でしたー。
そうです、それを書きたかったのに上手く書けなかった出来損ない話……でゴメンナサイ。
んー、やっぱりヒカアキはヒカアキでこれはこれで幸せなのかも?
無理にアキラ子にする必要ないのかも?
なーんて…思ってしまいました(笑)


まぁそれはいいとして、ヒカアキは絶対リアルでいたら腐女子のターゲットにされてると思う!
マイナーな世界とはいえ、雑誌とかテレビとかに出まくりでしょ?
あのビジュアルにお互いライバル宣言でしょ?
夏コミじゃもうジャニーズ並に本が出てると思うよ!
んで明子さんはこそっと買いに行ってたり(笑)