●TIME LIMIT〜挨拶編 明人&美鈴ver.





私の実家の隣、千明が昔おじさんと二人で暮らしていた家は、彼女達が東京に引っ越すと同時に売りに出され、数ヶ月後には新しい家族が住み始めた。

「よろしくお願いします」

と挨拶に来た時のことはよく覚えている。

ああ…本当に千明ちゃんは遠いところに行ってしまったんだな…と痛感したからだ。

いつも駐車場に停まっていたおじさんの白の車はシルバーに変わり。

薄いオレンジのカーテンはベージュに変わり。

そして表札は進藤から玉木に変わってしまった。






「…あれ?猪谷になってる…」


あの時から約20年。

半年ぶりに実家に帰る途中、お隣の家の前を通りかかると、ふと玉木から猪谷に変わっているのに気付いた。

よく見ると外壁も塗り直され、パット見新築みたいに見えた。


「ここが父さんと姉さんが暮らしてた家?へー」


今回は一緒に帰ってきた明人君が興味深く見上げていた。


「美鈴ちゃんの実家とそっくりだね」

「この辺りの家は全部建て売りだったみたいだからね。間取りもほとんど同じだよ」

「へー」

「じゃ、行こうか」


明人君の顔が急に引き締まる。

緊張しまくってるのが伝わってきて、ちょっと笑えた。


「大丈夫だよ〜うちの両親だもん。気楽にいこうよ」

「む…無理無理。だって順番逆になっちゃったし…オレ殴られるかも…」

「んなわけないって。うちの親、早く孫を抱きたい、いつになったら結婚するのって散々口うるさく言ってたんだから〜。きっと大歓迎だよ」

「て言われてもなぁ…」


男の人にとって人生で一番緊張する瞬間と言われている、彼女の親への結婚の挨拶。

気持ちは分かる、けど。

「頑張ってよね!パパ!」

と私は明人君の背中をバシバシ叩いた。


「じゃ、行くよ」

「う、うん」




ただいま〜。
紹介するね、進藤明人君。
知っての通り千明の弟だよ〜。


は、初めまして、進藤明人です。
囲碁の棋士をしてます。
み、美鈴さんを僕にください…!!






―END―









以上、結婚の挨拶・明人&美鈴バージョンでした〜。
明人君は玄関で早速言っちゃったに違いない…。
美鈴の両親は大歓迎だと思いますよ。
(30近い娘を持つ親の心理としては…)