●AFTER HOKUTO CUP●
もう塔矢と1ヶ月近く打ってない。
2週間近くまともに話してない。
これもみんなあの北斗杯のせいだ!
北斗杯の様子がテレビ中継・ネット配信されてから、オレ達の周りはガラリと変わってしまった。
塔矢に会いたい。
朝も昼も夜もずっと一緒にいたい。
そのためには今の友達のままじゃダメなんだ。
ライバルのままじゃダメなんだ。
「塔矢!塔矢!あんた結婚したい男で今月1位よ!」
「え…?」
ブハッ
奈瀬がいきなり叫んだ言葉を聞いた途端、オレは飲んでいたお茶を吹き出してしまった。
「進藤くん汚なーい」
「ほら、進藤」
「…どうも」
フクが罵って、塔矢が机の端に置いてあったティッシュを箱ごと渡してくれた。
「…で?塔矢がなんだって…?」
机に飛んでしまった水飛沫を拭きながら会話を元に戻した。
「だから〜、これに載ってるアンケート結果で塔矢が1位なのよ!結婚したい男!しかも断トツ!」
奈瀬が読んでいたのは今日発売のティーン向けファッション雑誌だった。
この雑誌はちょうど真ん中あたりに毎月色々なアンケート結果を載せているらしい。
友達にしたい男。
兄弟にしたい男。
彼氏にしたい男。
結婚したい男。
抱かれてみたい男。
芸能人部門、スポーツ選手部門…といろいろ部門分けされていたが、何と今月は塔矢がその他の部門で1位なのだという。
しかも結婚したい男。
「彼氏にしたい男じゃ8位なのにねー。やっぱ皆よく見てるわ」
塔矢って恋人よりは断然夫にしたいタイプだもん、と奈瀬ははしゃぎまくっていた。
「塔矢君すごーい」
「いや…そんな…」
ちょっと頬を赤めている塔矢をオレは横目で睨み付けていた。
今日は日曜日。
オレと塔矢は2階で指導碁の仕事が入っていたので朝から棋院に来ている。
昼飯の時間になって休憩室で一緒に(仲良く)食べていたら、院生の連中も休憩時間になったらしく、奈瀬やフクと合流することになった。
最近の塔矢は少し変わったと思う。
オレ以外の奴とも普通に話すようになった。
いや、変わったのは周りで、塔矢自体は変わってないのかな?
あの北斗杯以来、今まで塔矢のことを特別視して遠巻きに噂しかしなかった連中が接してくるようになったんだ。
それだけでもあの大会がオレら若手棋士にとって、どれだけ影響力が大きかったか感じとることが出来る。
碁に対する皆の姿勢を変えたっていうのかな?
あれ以来あの和谷でさえ塔矢に突っかかることがなくなっていた。
塔矢は塔矢で皆が本気で自分に向かってくることに喜んでるし。
自分のことをもてはやしたり、特別視する連中に塔矢は興味ない。
だけど、こうやって自分に真っ正面から挑んできてくれる連中には誠意を持って対応するし、打ってる間も楽しそうだ。
ライバルが増えて嬉しいのかな…。
でもオレはそれが気に入らない!
自分勝手な見解かもしれないけど、塔矢の本当のライバルは昔も今もこれからも自分だけであってほしい―。
塔矢が向いている先はずっとオレだけであってほしいんだ―。
最近自分の中で目に見えて増してくる塔矢への独占心が止まらない――。
「進藤くんも彼氏にしたい男で3位だよ〜」
オレのことなんてどうでもいい。
フクの言葉を無視して、人指し指でイライラした感じに机をトントン叩いていたら、塔矢も横目でオレの方を見た。
「…進藤人気あるんだね」
オマエがそれを言うか?
――そう、影響を与えたのは碁打ちのオレらだけではなかったんだ。
テレビ中継・ネット配信されたあの大会を見て、塔矢も社もファンが急増した。
まぁ、韓流ブームに乗って韓国の奴等(特にヨンハ)の人気もスゴいらしいんだけど―。
おかげで最近は手合いの間に取材・仕事・取材・仕事…でロクに自分の碁の勉強が出来ない。
でも、勉強なんてものはその気になりゃいつでもどこでも出来る。
問題はそこじゃないんだ。
問題は――最近ちっとも塔矢に会えないってことなんだ!
だから今日指導碁のスケジュールが重なって嬉しかった。
いや、正確には係りの人に頼んで合わせてもらったんだけど―。
なのに奈瀬やフクが貴重なオレらの時間を潰しやがって…。
オマケにくだらないアンケートの結果で盛り上がるし。
あー、面白くない!
「オレ、飲み物買ってくる。塔矢何かいる?」
「あ、僕も一緒に行くよ」
「進藤〜、私烏龍茶お願〜いv」
「僕はポカリがいいな」
「オマエらの分は知らねぇっ」
機嫌悪く出て行くオレを見て、奈瀬達が何かを叫んでいた。
「進藤って塔矢ばっかり贔屓しすぎ!」
…当たり前だ。
塔矢だもん。
オマエらとは扱いが天と地の差ぐらい違うぜ。
それでも烏龍茶やポカリも買っているオレを見て、塔矢が笑った。
「優しいね、進藤」
「しょーがないだろ…。アイツらとも滅多に会えないし―」
でもアイツらに持って行くのは後にして、自販機の前で少し話し出した。
「オマエさ、今の人気利用してファンの女共なんかと付き合うんじゃねーぞ」
「…キミにもその言葉、そっくりそのままお返しするよ」
「オレが付き合うわけねーじゃん!」
「僕だって…興味ないよ」
嫌な雰囲気が漂いはじめた。
ヤベ…。
せっかく今二人っきりなのに…、何言ってんだ…。
もっと他に言うことがあるだろ!オレ!
「…あのさ、指導碁終わった後…ヒマ?」
「暇じゃない。門下の皆と会う予定になってる」
「そっか…」
はぁ…。
やっぱりダメか…。
明日も明後日もオレの予定はぎっしりだし、明々後日からは遠征…。
また1週間近く会えねぇかも…。
もうヤダ…。
落ち込んでるオレの顔を塔矢が覗きこんできた。
「言いたいことがあるんなら、今言えば?」
「え…」
顔を赤めたオレを見て、塔矢も少し頬を赤く染めた。
「言っちゃって…いい?」
「…いいよ」
それでもここではマズいと思ったオレは、塔矢の手を引っ張って階段の影に連れ込んだ。
「あのさ、オレ…オマエのこと…」
「うん…?」
「オマエのこと…」
「……」
「その…」
なかなか最後の一言が言えないオレを見て、塔矢が焦れったそうにオレの服を掴んだ。
「僕のこと…なに?」
裾を引っ張って早く!と促してくる。
「す…」
「す?」
「す…す…す―」
よく聞こえるように、横髪を耳にかけて差し出してきた。
「好きだ!」
耳に向かって大声で叫んだオレに向かって、塔矢が抱き付いてきた。
「僕も好きだよ、進藤―」
お互いの気持ちなんてとうの昔に分かってた。
だけど伝えるのだけは躊躇っていたオレに、この北斗杯での嫌な結果はオレにいいキッカケを与えてくれた。
もう前のように毎日会って打つ生活には戻れない。
戻れないなら自分達から作るしかない。
作るには理由がいる。
それにはまずどうしてもこの告白は必要なんだ。
「…もう一度言って?」
抱き締め返したオレに向かって、塔矢が再度促してきた。
「…これから何回でも言ってやるって―」
好きだよ塔矢―
誰にもやらない―
オマエは今もこれからもずっとオレのものだ―
そう心の中で叫びながら、ゆっくり唇を重ねた―
―END―
以上、5月用拍手@でした〜。
本当はもっと長い話だったのを拍手用に短縮してしまったので、何だかまとまりのない内容に…。
要はヒカルが告白するのに躊躇う話が書きたかったんです…。
「す」は言えるけど「き」が中々出てこないっ!頑張れ!…みたいな感じで(笑)
アキラはサラブレッドで王子みたいな風格があるので、メディアが食いつけば絶対そういう雑誌でいい所にランク入りすると思います。
ヒカルはヒカルで見た目がいいので、碁の強さが加われば(タイトル一つでも取りゃ)完璧です。
あと伊角さんももう少し強ければいいセンいくと思います。
…って何の話だ(笑)