●9 MEMORIES 8●





●○● ActG 新しい命   ヒカル ●○●



アキラが妊娠した。

また新しい命を授かることが出来たと知った時、オレは言葉にならない喜びが涙となって溢れてきた。

嬉しい。

信じられないくらい嬉しい!

ヤッター!!



……だけど、オレは今度こそアキラに言わなくちゃならないことがある。

あの悪夢の結婚式の日の…流産のことだ。

アキラの反応が怖い。

一体どれだけショックを受けることか…。

いや、そもそも何の記憶もない今のアキラに、話して意味があるのだろうか…。


アキラが寝た後、オレは明子さんに電話することにした。

妊娠の報告と…どうすればいいのか相談する為に。

そして話す決意を電話で固めた頃―――




「いやあああぁっ…!!!」


というアキラの悲鳴が聞こえた。



「アキ…ラ?アキラ??!」


オレは慌ててリビングを飛び出した。

廊下でアキラがヒックヒックと涙を流してした。


「アキラ!!どうしたんだよ?!」

「赤ちゃんが…赤ちゃん…が…、僕のせい…で…」

「…え…?」


まさか、さっきの話を聞かれたのか??


「僕のせいだ……僕の……」

「違う!オレのせいなんだ。オマエは悪くない!」

「僕がすぐに病院に行ってたら…」

「オレがすぐに連れていかなかったのがいけないんだ!全部オレのせいなんだよ!オマエは何も悪くない!」

「ヒカ…ル…」

「え…?アキ…ラ?アキラなのか?!思い出したのか?!」

「…ぅ…」

「アキラ??!おい、アキラって!」



気を失ってしまった。

直ぐさま抱き上げて、ベッドに運んでやる。


「アキラのせいじゃないよ…」

と眠り姫にキスをして、オレは彼女の気が付くのを待ち続けた――









アキラが目覚めたのは翌日午後。

時計の針が一周以上回った後だった。


「アキラ…!よかった、気付いて…!」

「…ヒカ…ル…?」

「うん」

「僕は…、ああ…そうか、流産したショックで記憶がなくなって…」

「なくなってた時の記憶もあるんだ?」

「うん…一応ね」

「そっか…」


体を起こしたアキラの体を、めいいっぱい抱きしめてやった。


「…ごめんな…」

「謝るのは僕の方だ…」

「いいやオレの方だ」

「いや僕だ!」

「絶対オレ!」


お互い一歩も譲らないオレら。

くすっと吹き出してしまった。

アキラがお腹を撫でる。


「また…新しい命を授かったんだね、僕ら…」

「ああ…」

「駄目だった子の分まで…愛してあげようね。大事に育てよう…」

「ああ…」


どんなに後悔しても何も変わらない。

だけど、それを糧に前には進むことは出来る。

今度は絶対に同じ間違いはしない。

大事に大事に育てよう。

たくさんの愛情を注いであげよう―――










悪阻が収まるのを待ってから、アキラは棋戦にまた復帰した。

もちろん今度は全戦全勝。

アキラは現名人の力を存分に発揮していた。


「だいぶお腹膨らんできたな」

「ふふ、そろそろ性別も分かるかもね。ね、ヒカルはどっちがいい?」

「どっちでもいいよ。元気に生まれてきてくれたら」

「そうだね。僕も同じ気持ちだ」



待ちに待った子供の誕生は、何と色んな意味で悪夢の5月5日になった。


大嫌いな日が一気に、大好きな日となった―――








―END―


ありがとうございました!