●FEMALE+γ 2●


「お前もこの祭り来てたんだ」

「うん、友達と一緒に」


あれ…?

何で私…、『彼』と一緒って言わないの…?


「…ヒカルが浴衣着てるなんて珍しいね」

「あぁコレ?初めて家族で祭りに行くってことで妙にアキラが張り切っちゃってさ、オレの分まで買ってきたからしぶしぶ…な」

「へぇ…」


アキラ…?

家族…?


嫌だな。

なに私動揺してんだろ…。

ヒカルは結婚してるんだから、塔矢さんを名前で呼ぶのも、家族って言うのも当然じゃない。


「塔矢さんは…?」

「ん?彩が泣き出しちゃってさ、今はあやしに駐車場まで戻ってる。もうそろそろ帰ってくると思うんだけど―」

ヒカルが駐車場の方角を見渡した。

「彩って…」

「オレの娘の名前。オレ似でさ、目が大きくてすげー可愛いんだぜ。あかりも見てけよ」

「……」

「佐為はどちらかというとアキラ似だけどな。なー、佐為?」



え…?



ヒカルが後ろを振り返った。

今まで気付かなかったけど、ヒカルの浴衣をぎゅっと握り締めて、恥ずかしそうに半分顔を出してこっちを見てる小さな男の子がいた。

この子もヒカルの子供なの…?


「ほら、佐為。あいさつは?こんにちはって」

「……」

「…ゴメン。今こいつすげー恥ずかしがりやでさ」

「あ、ううん。気にしないで」

確かにヒカル似というかは塔矢さん似の可愛い男の子だ…。

将来が楽しみなほど整った顔。


「パァパ…」

「ん?何?佐為」

「だぁれ…?」

「このお姉ちゃんか?パパのお友達だよ」


お友達…。

胸がズキンと痛んだ気がした。

私ってヒカルにとってはただの『友達』の部類なんだ。

そうだよね…。

当たり前のことなのに、どうしてこんなにショックを受けてるの…?


「ヒカルっ!」

遠くからこっちに向かって来てる女性がヒカルの名前を呼んだ。

ヒカルも男の子も嬉しそうに振り返ってる。

「アキラっ!こっち!」


塔矢さん…だ。

直接会うのは何年ぶりだろう。

中3の時、ヒカルを訪ねて中学にやって来た時以来…かな。

でも碁雑誌に当たり前のように毎回載ってるから、写真では見慣れている。

でも改めて本人を目の当たりにすると……すごくキレイ。

その辺の雑誌のモデルよりよっぽど美人。

肌も綺麗で、長身で、知性的で、とても2児の母と思えないほどスラッとしてて…だけど可愛くて…。

私…全然敵わない…。

さすが名人の妻っていうのかな。

その風格がある。

だけど塔矢さん自身も女流四冠の上、王座のタイトルも持ってる囲碁界の女王。

同じ女として…劣等感を抱かずにはいられない。


「どうだった?」

「やっぱりお腹がすいてただけみたい。ミルク飲んだらすぐにご機嫌に戻ったよ」

「そっか、良かった」

ヒカルが塔矢さんの抱いていた赤ちゃんを受け取って、塔矢さんは男の子の手を握った。

端から見たらどこにでもあるごく普通の家族の様子。

ヒカルが私の知らない間に手に入れた家族。

割り込めないよ…。

無理…。

敵わない…。

ヒカルにはやっぱり幸せになって欲しいもん。

好きだからこそ幸せになって…欲しい。

そしてヒカルが一番幸せになれる場所は…きっと塔矢さんの隣りなんだ。

私じゃない―。


「あかり、見てよ。可愛いだろ?」

「うん…。ヒカルによく似てるね…」

「だろ〜?」

嬉しそうに赤ちゃんの頬にキスをするヒカル。

それを見てクスクス笑ってる塔矢さん。

いいな…。

すごく幸せそう…。


「あかり、お待たせ」

彼がかき氷を持って帰って来た。

私と話してたヒカルに軽く会釈をして、ヒカルもそれに返してる。

「彼氏?」

「…うん」

「いい奴っぽいじゃん。良かったな」

「…うん、優しいよ…」

私の言葉に彼は少し照れくさそうに髪を掻いている。

「あ、もうすぐ花火始まるよ」

「じゃあ行こっか。ヒカルまたね」

「あぁ」



――そうだ


「あ、待って。あのね、私…大学でも囲碁サークルに入ったの。良かったらまた指導碁に来てくれる…?」

「んー、今結構忙しいからさ、碁聖戦終わってからでいいか?9月頃になっちまうんだけど…」

「全然大丈夫。ごめんね、無理言って」

「いいって。じゃあ行けそうな日あったらメールするな」

「うん」

バイバイと子供達に手を振って、塔矢さんにも会釈して、私は彼とその場を離れた。


「今の誰?」

「幼馴染み。横にいたのが奥さんだよ」

「へぇ…同い年?」

「うん…」

「早いな、もう結婚してるんだ」

「…うん。囲碁のプロなんだよ。奥さんもね」

「へー」

彼の腕をぎゅっとキツく組んで、チラッと後ろを振り返った。

ヒカルが幸せそうに塔矢さんと話してる。

私じゃきっとあんな顔はさせれない。

良かったね、ヒカル。

幸せになってね。

私もいつか…なるよ。

きっと…―。




後日ヒカルからメールがあって、約束通り9月の中旬頃指導碁に来てくれることになった。

もちろん同じ囲碁サークルの子達は大騒ぎ。

だって現名人が無償でこんな弱小サークルにわざわざ来てくれるんだよ?

これって幼馴染みの特権だよね。

ヒカルは自慢の幼馴染みだよ。

これからも、ずっと――。













―END―














以上、あかり視点のヒカアキ話でした〜。
アキラの最大のライバルはやはり「あかり」だと思います。
幼なじみというのは強敵です。
仲の良さを中学の頃から見せ付けられてるわけですからね。
しかもあかりちゃんがヒカルのことを好きなのは一目瞭然。
内心穏やかではなかったことでしょう。

でもあかり側からしてみれば、好きな男の子に異性のライバルがいるなんて…絶望的だったでしょうね。
頑張ってって応援しながらも、内心は複雑な気分。
もうただヒカルがアキラのことを女としては見ないことを祈るしか出来ない。
いやー…ヒカルは見まくってましたが(笑)
既に中学の頃からどうやってアキラを手に入れようかということばかり考えてましたからね、彼は。

でもあかりちゃんにはもっと大人な男性が似合うと思います。
これからいい人を見つけていってください〜。

……なんて言いつつ、私はヒカあかも好きだったりします(笑)