●FEMALE +α 2●


「お帰り〜」

「ただいま」

6時過ぎに帰ると、笑顔でヒカルが出迎えてくれた。

「ちゃんと買い物してくれた?」

「おぅ!なーなー、タマネギに人参にジャガイモに牛肉ってことは、カレーか何か?」

「うん。……あ、待って、やっぱりシチューにする」

「ふーん」

「いや、やっぱり肉じゃがにするよ」

「まぁ何でもいいけど、腹減ったから早くな〜」

ヒカルがちょっと呆れ気味に笑って、佐為のいる居間に戻って行った。

だってカレーってむつこいんだもん…。

匂いだけでたぶん吐く…。

妊娠を意識した途端ツワリ出すのは僕の悪い癖だな…。

まぁ悪阻自体が精神的なものらしいけど…。

でも20日までは秘密だから、ヒカルの前では吐かないようにしないと―。

肉じゃがもなるべく薄味にしよう…。




「……なぁ、何か味しねぇんだけど」

一口食べた途端、ヒカルの眉間にシワが寄った。

「え?そ、そう?いつも通りだと思うんだけど―」


しまった…薄過ぎたかな…。


「まぁいいけど…」

ブツブツ言いながらも全部食べてくれるヒカルは優しいと思う。


「あ、オレ明日から大阪だから」

「うん、知ってるよ。帰って来るの17日だよね?」

「そ。……でさ、20日オレらの結婚記念日じゃん?」

「そうだね」

「19、20って手合課に頼んで休み調整してもらうさ、久々に二人でどっか泊まってゆっくりしねぇ?」

「え?二人?佐為は…?」

「佐為はオレの母さんが預かってくれるって」

「ふーん」

少し赤くなってるヒカルを見ると、だいたいの意図は掴めるな。

妊娠しちゃったから期待は裏切ることになるんだけど―

「いいよ、手配はキミ任せでいい?」

「おぅ!任せといて!」

そう言うと急に元気になったヒカルは、僕の頬にキスしてきた―。




最近はヒカルが佐為をお風呂に入れてくれている。

出て来た佐為を拭いてやるのが僕の役目。

そしてヒカルも出た後、入れ違いで僕もお風呂に入る。


「んー…まだ全然分からないな」

浴室の鏡に映った自分のお腹の辺りを見て、そう呟いた。

手をあてても何の気配もない。

でも、いるんだよね。

自然と顔が緩んでしまう。

早く20日にならないかなぁ…。

早くヒカルに教えてあげたいな―。



佐為を寝かし終えて寝室に戻ると、ヒカルは明日の準備をしていた。

「んー、こんなもんか」

「忘れ物ない?」

「たぶん。ま、ド田舎に行くわけじゃねーし、足りなかったら向こうで買うよ」

「それもそうだね」

クスっと笑うと、ヒカルが近付いてきた。

「オマエも連れて行けたらいいのに…」

「残念、僕はこっちで大事な本因坊リーグ戦を控えてるんだ」

「頑張れよ…」

抱き締められながらそう言われて、ますます顔が緩んだ。

そのまま優しく口付けられる―。

「…ん…っ―」




え…



体に体重がかけられて、ゆっくり布団に倒され――一気に顔が青ざめた。

「ヒカルっ…今日はダメっ」

「ん〜?生理?」

「違うけど…ダメだっ!」

本気で拒否してるのに、ヒカルはやめようとせず、隙間から手を入れてきた。

「やだっ…、やめて…!」

「いいじゃん…また3日は出来ねぇんだし―」

首にキスをして、手でお腹や胸を探ってくる―。

「やだ…、嫌だっ!!!」

響くぐらい大声でそう叫び、両手で思いっきり体を押した。

「アキ…ラ…?」

「やめてくれ…」

涙目で睨むと、ヒカルは慌てて体を僕から離した。

「ごめん…オレ―」

彼の顔が少し青ざめてるのがハッキリ見てとれた。

「あ…その、嫌なわけじゃないんだけど…えっと―」

必死に弁解しようとしたけど、ヒカルは聞こうとせず――立ち上がった。

「オレ…今日居間で寝るよ」

「え…、ヒカル?!」

枕だけ持って、そのまま出て行ってしまった。


そういえば…あんなに露骨に拒否したのは初めてだ…。

どうしよう…、きっと勘違いしてる。

ヒカルにとっては…明日からまたしばらく会えないから、その前に…と思うのは当然のことなのに―。

もう少し優しく断ればよかった…。





――翌朝

起きた時には既にヒカルは出発していた――










―END―








以上、ヒカアキ夫婦物語の続きでしたー。
早くも二人目ですか…そうですか(笑)

にしても+αって…微妙なネーミングです。
これからβ、γ、δと続いていくんですよ、きっと。(んなバカな…)
え?こんな所で終わり?って感じですが、次はヒカル視点に変わりますので一応ここで終了ー。

では続きをどうぞ〜。







2nd FEMALE +α