●TIME LIMIT〜2/14編〜




塔矢と結婚して初めてのバレンタイン。

目が覚めると、目の前にまだ眠ってる塔矢がいた。

それだけで幸せ。

最高のバレンタインだ。







「お父さん、今日は3時までどこかに行っててね」

「あーはいはい」


オレにとっては毎年のことだけど、初めてな塔矢は首を傾げていた。

そんな塔矢を連れて、昼の3時まで出かけることにした。



「千明が5歳の時からかな?バレンタインはいつも手作りのチョコをくれるんだ。でも作ってるとこ見られたくないらしくてさー、毎年家から追い出される」

「へぇ…そうなんだ」

「でもおかげで今年は塔矢とバレンタインデート出来るな♪どこ行く?」

「……デパート、行ってもいい?」

「え?別にいいけど…」


服でも買うのかな?と思ったけど、塔矢の向かった先は地下のお菓子売り場だった。

バレンタイン当日だってのに、チョコ売り場はすっげー人で…ちょっと怯む。


「好きなの選んでいいよ」

「ホント?」

「ごめんね…手作りじゃなくて。というか最近バタバタしてて、今日がバレンタインだってこともさっき気付いた」

「はは、オマエらしい」


どれにしようかな〜と悩むこと10分。

やっぱり前から好きなブランドのトリュフチョコにしてみた。

んでもって一番量が入ってるボックスで。

これなら毎日一粒ずつ食べても……二月中は保つな、よし。


「サンキュー塔矢、すっげぇ嬉しい!」

「う…ん。ね、千明は……どんなのが好きなのかな?」

「え?」

「千明にも…買ってあげようと思って」

「千明は女の子だぜ〜?」

「それくらい知ってるよ!誰が産んだと思ってるんだ!…でも、3時に家に帰ったら…きっと僕の分も用意されてるんだろう?じゃあ…僕もあげたいなって思っただけだ」

「あー…なるほどな。じゃあどうせなら、チョコじゃなくて他のものやったら?例えば…オマエのものとか」

「僕の?」

「何かねぇの?記念のやつとか、思い出のとか、明子さんにもらったやつとかさー」

「………ちょっと実家に寄ってもいい?」

「え?うん…」








塔矢の実家はもちろん塔矢先生の家。

ピンポーンとチャイムを鳴らすと、明子さんが出てきた。


「あらアキラさん。ヒカルさんも。いらっしゃい」

「ちょっと僕の部屋の押し入れ探るね」

「ええ。忘れ物?」

「うん」


塔矢の部屋だった場所は、結婚しても特に何も動かされてなくて、結婚前の状態が保たれていた。

というか、10代の頃に来た時ともたいして変わってない。

ある意味すごい。


「確か…この辺に片付けたんだけどな」

塔矢が押し入れから段ボールを出しては、違うと戻してる。

「なに探してるんだ?」

「……携帯。昔の」

「携帯?」


古い携帯なんて千明にやっても意味ない気がするんだけど……



「…あった!」

「へー…ほんとだ。昔オマエが使ってたやつだ…」


懐かしい。

オレのハタチの誕生日の時も、確かこの携帯使ってたよな〜なんて。


「でもさ、古い携帯なんてどうするんだ?」

「この携帯の画像フォルダーの中にね…千明の写真が入ってて…」




え……?




充電した後、実際に携帯を立ち上げて――その写真を見てみた。

信じられなかった。

出産後、塔矢は一度も千明の写真を撮ろうとはしなかったからだ。

少なくとも……オレの前では。

だから…塔矢と生まれたばかりの千明が一緒に写ってる写真は無いものとばかり思っていた。

でも、この携帯に保存されてたのは―――


「看護婦さんが撮ってくれたんだ…」

「そう…だったんだ」

「現像してきてもいい?千明…喜んでくれるかな」

「うん…喜ぶと思う。オレだって欲しいぐらいだもん」

「はは」












3時になって、家に帰った。

今年はチョコレートのシフォンケーキを焼いたみたいで、家中にいい匂いが充満。

オレと塔矢をリビングに引っ張っていって、目の前でケーキをカットしてくれた。


「すっげー旨い!ありがとな〜千明」

「エヘヘ」


食べ終わる直前に、塔矢が例のものを千明に渡した。


「私に?」

「うん…美味しいケーキのお礼」

「わぁ…何だろ」


包装した包みを開けた途端――千明の表情が固まった。

20cm四方の写真立てに収まった、ちょっと引き伸ばされた一枚の写真。

母親が、大事そうに産まれたばかりの我が子を抱いてる…ありきたりな写真だ。

でも、オレにとっては感動の一枚だった。

もちろん千明にとっても――


「この赤ちゃん……私?」

「うん…」

「私…お母さんに抱かれたことあったんだ…」

「…うん。産まれて一週間はずっと一緒にいたんだよ…」

「一週…間…」


千明の目から涙が溢れてきた。

一週間が果たして長いのか短いのか……いや、もちろん短いよな。

もっと一緒に、ずっと一緒にいたかった…って、千明の涙がオレらに訴えてきた。


「…どう…して…」

「ごめんな…」


オレの胸に千明が抱き着いてきたので、抱きしめて…オレは謝った。


「千明がもうちょっと大人になったら…話すからな。全部…」

「……うん」

「お母さんと離れ離れにしちまってごめんな…。でも、千明がオレらの大事な子供だってことには…変わりないからな」

「…うん」

「これから空いた時間を埋めていこう」

「うん―――」




塔矢と結婚して初めて迎えたバレンタイン。

家族の絆が少し深まった日になった。

塔矢と千明が写ったこの記念の一枚は、リビングに置かれたオレが産まれたばかりの千明と撮った写真の横に、10年経った今でも飾られている―――










―END―











以上、TIME LIMITシリーズのバレンタイン話でした〜。
ヒカアキの結婚直後。
千明が8歳の時のお話でした。

千明は毎年ヒカルに手作りチョコをプレゼントしてるらしいです。
たぶん最初は美鈴ちゃんのお母さんに習ったのかな?
それ以降お菓子作りにハマって、バレンタイン以外にも時間があれば作ってたり。
でも小さい子が一人でガスとかオーブンとか使うのって危ないよなー…なんて。
たぶん最初はヒカルは隠れてハラハラしながら見守ってたんだと思います。
て、8才で既に放任?(笑)まぁ千明ですからね。

ちなみに千明は10年後も相変わらず手作りチョコをヒカルにはあげてると思います。
もちろん一ノ瀬君にもね。

アキラは買い専で(笑)

あと写真。
出産の証拠を残さない為に、アキラは千明の写真を撮っていません。
ヒカルがパシャパシャ撮ってた横で、知らんぷり。
ヒカルが一緒に撮ろうぜ〜とお願いしても、無視。
でもヒカルがいない時に、看護婦さんに「撮ってあげますよ〜?」とせかされてしまい、断るのも変だし…しぶしぶお願いすることに。
消したらよかったんですが、なぜか消せずに…ずっと持ってたんだと思います。
ヒカルの失踪中、たまに見返したりしてたのかもね。